午前9時半、金正恩委員長が北側の板門閣から姿を表した。
いよいよ世界注目の南北首脳会談が始まる。テレビはこの歴史的瞬間を生中継で伝える。この会談に賭けるムン・ジェイン大統領の並々ならぬ意欲の現れた。
背の高いSPたちが周囲を囲みながら、金委員長が階段をゆっくりと降りてくる。一昔前なら、いつ狙撃されてもおかしくないシチュエーションだ。
金正恩委員長はスーツで来るのではとの事前の予想もされていたが、いつも着ている黒の人民服姿だった。
ムン・ジェイン大統領が境界線の手前で待ち受ける。取り巻きはカメラに映らないよう離れ、金委員長は一人でムン大統領に歩み寄る。
軍事境界線を挟んで両首脳が握手。南北分断後初めてとなる境界線での握手だ。ムン大統領は満面の笑み。金委員長も穏やかな表情で応じる。
ムン大統領に促され境界線を越え韓国側に入る金委員長。そこで両首脳はまず北側に向かって記念撮影、そして南側に向き直って記念撮影に応じた。
次の瞬間だった。
金委員長がムン大統領に何やら提案している。ムン大統領の顔に一瞬戸惑いの色が浮かぶ。そして両首脳は手を繋いだまま、境界線を越えて北側へ。そこで再び記念撮影。これは金委員長が用意していたサプライズだった。
再び韓国側に戻った両首脳に子供達が花束を手渡す。子供と一緒に記念撮影に応じる両首脳。
ここで突然、異変が起こった。
我が家のテレビが突然消えたのだ。どのチャンネルに回しても「受信できません」の表示。「一体、何が起きたのか?」 慌てて別のテレビをつける。こちらも受信不能だ。
北朝鮮のサイバー攻撃か?
テレビをあきらめパソコンを開き、Yohoo!のページを見る。TBS Newsがライブ中継を行なっていた。伝統衣装に身を包んだ韓国の儀仗兵に取り囲まれた両首脳が赤絨毯の上を歩いていた。実況も解説もなし。ノイズだけの中継で、それがかえって臨場感を与えていた。
「何だ、マンションの受信装置が壊れただけか?」 それにしても何というタイミングで異常が起きるのか。
後で、管理人さんに確認したら、マンション内の工事のためテレビ配線を一時中断したことがわかった。ちょっと怖い経験だった。
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その後、儀仗隊の栄誉礼を受けた金委員長。気のせいか表情が硬い。私も儀仗隊の誰かが金委員長を襲撃する可能性も頭に置きながらこのシーンを見ていた。つい先日までは、金正恩暗殺が真面目に議論されていて実際に作戦計画も立てられていたのだ。いくら融和ムードが高まったとはいえ、ここは韓国領。金委員長としても警戒心は持っていたのだと思う。
しかし、儀仗兵の前を無事に通過した後の金委員長の表情は一気に和んだように見えた。双方の幹部も入れて記念撮影。同じ民族同士、言葉は通じる。両首脳はアドリブを入れつつ歴史的瞬間を演出して行く。お互いにとって政治生命をかけた大勝負なのだ。
その意味で、決裂することはないだろう。
朝鮮戦争終結に向けてどんなメッセージが出されるのか? 私はそこに注目している。
日本では政府もメディアも非核化、ミサイルの全面廃棄、そして何より拉致問題解決ということにしか関心を寄せないが、朝鮮戦争の終結が宣言され、軍事的な緊張が取り除かれれば様々な問題が解決して行く可能性が高い。
日本の立場はもちろん大切だが、もう少し広い視野で東アジア情勢を考えていかないと日本だけが悪者にされてしまう。「戦争責任」というキーワードを日本は決して忘れてはいけない。
さて、どんな会談になるのか。今夜の報道に注目だ。