北朝鮮“危機”

3週連続で北朝鮮がミサイルを発射した。テレビはまた大きく扱っている。

今年に入って連日大々的に報道される北朝鮮問題。それを私があまり書かないのには理由がある。私自身、テレビが騒ぐほど北朝鮮が自制心を失っているとは見ていないからだ。

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確かに北朝鮮のミサイル技術は長足の進歩を遂げている。ただそれと実際に北朝鮮がミサイルを使って他国を攻撃するかは別の問題だ。

例年、北朝鮮のミサイル発射や核実験が行われるのは米韓軍事演習の期間だ。この大規模演習は実戦さながらの装備で行われるため、もし米韓が演習に見せかけて北朝鮮を攻撃しようと考えればいつでも先制攻撃が可能だ。金正恩の暗殺も実行可能だろう。

少なくとも北朝鮮はそう考えている。だから全軍に臨戦態勢を敷き、ミサイルや核兵器の成果を国内にアピールして国民の戦意を煽る、これが毎年の図式だ。

ただ今年は確かに例年と違う。それは北朝鮮ではなく、アメリカ=トランプ大統領だ。彼こそが最大の不確定要素で、不測の事態が起きるとすればアメリカの先制攻撃だろう。

その場合には、日本にも多少の被害が出るかもしれない。しかし、最大の被害は間違いなく韓国だ。ソウルは大きな被害を受けるだろう。だからこれまでアメリカもなかなか手が出せなかった。しかし、トランプ大統領は果たしてそれを理解するだろうか。それが不確定要素だ。

北朝鮮がミサイル攻撃を仕掛ければ、他国に被害を及ぼすことはできるだろうが、確実に負ける。金正恩氏は殺害されるか、拘束されることは確実だ。そのことを彼は理解していると私は考えている。だから、北朝鮮は威嚇はしても先制攻撃は絶対にやらないと確信しているのだ。

そんな私と同じようなことを書いている記事を見つけた。だから、北朝鮮について書くことにした。その記事とは、「週刊現代」の編集次長、近藤大介氏が書いた『北朝鮮が田植えの季節にミサイルを発射した「真意と事情」』という記事だ。一部、引用させていただく。

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『 周知のように、トランプ政権は、発足してまだ4ヵ月が過ぎたばかりというのに、「ロシアゲート」問題で大揺れである。この先、トランプ大統領に対する弾劾が行なわれるかもしれない状況だ。

そんな中、トランプ大統領にとって、北朝鮮に対する「攻撃」「口撃」は、ほとんど唯一とも言える支持率アップの手段と化している。なぜなら、こと北朝鮮問題に関する限り、普段は敵対している議会、マスコミ、半数の有権者、国際社会などが、誰も反対の声をあげないからである。

おまけに、オバマ政権時代の8年間、抑圧されてきた軍やCIA、軍需産業も、諸手を挙げて支持に回る。

アメリカは5月30日に太平洋上空で初めて、ICBM迎撃ミサイルの実験を行う。太平洋上のマーシャル諸島から発射したミサイルを、カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地に配備した迎撃ミサイル(GBI)で迎撃するという。

また、5月26日には米太平洋艦隊が、原子力空母ニミッツを6月1日から西太平洋に向けて出港させると発表した。カールビンソン、ロナルド・レーガンに続き、空母3隻態勢で、北朝鮮の脅威に対抗していくというわけだ。

だが、北朝鮮ははたして、世界最強のアメリカ軍が空母を3隻も派遣するほどの脅威なのだろうか?

北朝鮮という国は例年、ほぼ決まった動きを繰り返している。

一年で最も強硬な行動に出るのは、韓国で大規模な米韓合同軍事演習が行われる3月である。その前後、すなわち2月16日の「光明星節」(故・金正日総書記の誕生日)から4月15日の「太陽節」(故・金日成主席の誕生日)までは、朝鮮労働党と朝鮮人民軍の各部署が、トップに対して忠誠合戦を繰り広げるから、やはり強硬な行動に出やすい。

だが、太陽節が終わると、徐々に大人しくなっていく。そして、5月下旬から6月にかけては、すっかり音沙汰がなくなるのだ。

なぜ静かになるのかと言えば、その最大の理由は、「農業闘争」という名の田植えの季節だからである。1ヵ月に及ぶ田植え作業は、農家だけでなく、公務員も軍人も学生も、国民総出で行うのが北朝鮮の習慣なのである。

2004年5月22日、小泉純一郎首相が2回目の訪朝を果たし、金正日総書記と会談した。その時、私も記者として同行取材で訪朝したが、会談を終えた日の晩、北朝鮮の官僚たちと酒を酌み交わした。そこで彼らが酔いにまかせて漏らした言葉が忘れられない。

「近藤さんには、明日からまた、東京の華やかな世界が待っているんでしょう。羨ましくて仕方がない。

我々は明日から1ヵ月間、田舎へ行って農業闘争の日々です。あの辛さは、経験した者でないと分かりませんよ」

このように、本来ならいまの季節は、北朝鮮は1ヵ月にわたる田植えの期間なのである。120万朝鮮人民軍も、銃をくわやすきに持ち替えて働くのだ。

はからずも、38度線を隔てて対峙する韓国では、5月10日に北朝鮮に対して融和的な態度を持つ文在寅政権が発足した。文政権は、いたずらに北朝鮮を挑発するのではなく、金正恩政権と対話しようとしている。北朝鮮の側も、まだ一度も文在寅大統領を非難していない。

北朝鮮の「後見国」である中国もまた、北朝鮮有事など望んでいない。習近平政権は繰り返し、「三つの堅持」を主張している。それは、朝鮮半島の非核化、対話と交渉による問題解決、地域の平和と安定である。

5月29日には、中国外交のトップである楊潔篪国務委員(前外相)が来日したが、楊国務委員もまた、日本の首脳らに「三つの堅持」を強調した。

しかし北朝鮮は5月29日早朝、再びミサイルの発射実験を行った。元山(ウォンサン)近郊から発射したスカッドミサイルが、約400km離れた日本のEEZ(排他的経済水域)に落下した。

これで3週連続のミサイル発射である。そのため安倍首相、菅官房長官、稲田防衛大臣らが、それぞれ北朝鮮を強く非難した。また、「アメリカと共に、北朝鮮に対して強力な対抗措置を取る」と述べた。

北朝鮮に対する批判や非難は、多くのメディアに溢れているので、ここでは繰り返さない。私はあえて二つの問題提起をしたい。

一つは、トランプ政権が北朝鮮危機を煽れば煽るほど、逆に危機は増していくという事実だ。

私は前述の訪朝時に、北朝鮮の人々が次のように強調していたことを思い出す。

「我々は、こぶしを振り上げて来る者に対しては、こぶしをもって対峙する。我々に失うものは何もないのだから、最後まで徹底的に戦う。

逆に、我々に対して握手しようと手をさしのべてくる者には、われわれも握手をもって対応する。我々は平和と友愛を愛する民族であり、他国を侵略しようという意図など持っていないからだ」

前述のように、本来ならいまは田植えの季節で、3週連続でミサイルを発射するような時ではない。事実、2013年の北朝鮮危機の際には、5月下旬に崔竜海軍総政治局長(当時)を北京に派遣し、危機は収まっている。

それが今年は、トランプ政権が空母を3隻も繰り出してくるとあって、北朝鮮も田植えどころではない。北朝鮮は昨年の段階で、計220発のミサイルを保有していたと、私は聞いている。昨年23発、今年はすでに12発を放っているから、残りは200発を割っていることになる。

それでも北朝鮮としては、撃ち続けるしかない。少しでも弱気な態度を見せれば、朝鮮人民軍が金正恩委員長に対して牙を剥く可能性が高まる。だから、金正恩委員長は、どんどん過激な行動に出ざるを得ない。

その行き着く先は、北朝鮮が主張するところの「ソウルを火の海にする」という悲劇である。

1994年の北朝鮮核危機の際、当時のクリントン政権は詳細なシミュレーションを行っている。それによれば、北朝鮮が開戦に踏み切れば、最初の3ヵ月の戦闘で、アメリカ軍5万2000人、韓国軍49万人、韓国の民間人100万人が犠牲になり、610億ドルの支出を擁し、1兆ドルの被害が出るという。

23年前と比べて、北朝鮮のミサイル能力は格段に向上しているから、いまもし戦闘が起これば、この程度の被害で済むとは思えない。すなわち、日本のすぐ近くに、「21世紀最大の悲劇」が勃発することになる。

あるいは、日本もこの悲劇に巻き込まれる。まず、6万人の在韓邦人が命の危険にさらされ、在日米軍基地近くに住む人々のリスクも高まる。

もう一つ指摘しておきたいのは、安倍政権の対応である。俊敏な対応と過敏な対応とは、紙一重である。

安倍官邸では、ミサイル発射実験のような北朝鮮の過激な行動を「北風」という隠語で呼んでいる。そして「北風」が吹くたびに、国内の懸案事項を吹き飛ばしてくれると考えているのである。

一例を挙げれば、このところの「北風」によって、森友学園問題はすっかり吹っ飛んでしまった。

5月29日付『日本経済新聞』によると、安倍内閣の最新支持率は56%で、4月に比べて4%下落している。加計学園問題や「共謀罪」の強硬採決などが影響しているという。

安倍政権とすれば、通常国会閉幕まですでに3週間を切っており、なんとか加計学園問題の追及を乗り切り、かつ「共謀罪」を成立させたい。となれば、「北風」に過剰に反応していくという戦略も取りうるのである。ちょうど、太平洋の向こうのトランプ政権が、「北風」を煽ることで「ロシアゲート」問題をかわそうとしているのと同様だ。

さらに言えば、日本のマスコミも大同小異だ。私も最近、たびたびテレビのワイドショーから北朝鮮解説を頼まれることがあるが、あるテレビ局のスタッフは、嬉しそうにこう述べていた。

「北朝鮮がミサイルを発射するたびに、大特集を組むでしょう。すると視聴率が跳ね上がるんですよ」

私は、北朝鮮危機がないと言っているのではない。それは確かにあるし、高まってもいる。しかし、日米が煽ることによって、火に油を注ぐこと、かつ日米には必要以上に煽ろうとする人たちもいることを知っておくべきである。

何よりも大事なのは、危機を煽ることではなく、この平和な東アジアの状態をキープすることである。この基本を忘れてはならない。』

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アメリカが3隻目の空母を派遣するというニュースは、北朝鮮関連のニュースの中で一番、私に驚きを与えた。アメリカは本当にやるかもしれない、と思ったのだ。空母を使わなくても在韓米軍や在日米軍基地からも直接北朝鮮上空には到達できる。それでも、臨戦態勢にある国を攻撃するには空母の数は決定的に重要だ。

ちなみに過去の例で言えば、1986年のリビア空爆の時には空母3隻、1999年のユーゴ空爆が同盟国と合わせて空母3隻、2001年のアフガン空爆が空母4隻、そして湾岸戦争とイラク戦争は空母6隻を展開して攻撃を開始している。

トランプ大統領が、国内世論対策に北朝鮮を利用しないことを期待する。最終的には軍事的なオプションもあるのだろうが、被害を少なく抑えるためには時間がかかっても北朝鮮内部の反対派の育成するしかないと私は考えている。

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