今に始まった話ではないが、どうして中東というエリアは何もかもが激しいのだろう?
世界四大文明のうち2つが中東に生まれた。遠い過去には、世界の先進地域だった。
そしてその中東で、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が生まれた。
この一神教がこの地域に激しさをもたらしたのか? それとも元々激しい人達が暮らしていたから一神教が生まれたのだろうか?
いずれにしても、私たち日本人のような信心深くない民族からすると、中東の人々の激しさはちょっときつい。
Embed from Getty Images3年前、シリアで武装グループに拘束されていたジャーナリストの安田純平さんが解放された。拘束中の映像が悲惨だったので心配したが、解放後の安田さんは思いの外元気そうだった。
安田さんを拘束したグループは当時「ヌスラ戦線」と名乗っていた。今は「タハリール アル・シャーム」という名前に変わったそうだ。
ウィキペディアによれば、ヌスラ戦線は「シリアで活動するサラフィー・ジハード主義の反政府武装組織」とされる。
サラフィー主義というのは、「初期イスラムの時代(サラフ)を模範とし、それに回帰すべきであるとするイスラム教スンナ派の思想」である。コーランと預言者ムハンマドの言行(スンナ)を法源とする法律「シャリーア」、いわゆるイスラム法を厳格に守りイスラム国家の樹立を求めているが、基本的には非暴力だという。
ところが1990年代になると、シャリーア施行などを実現するために武力行使をジハード(聖戦)と位置づけて優先する流れが現れる。これをそれまでのサラフィー主義と区別して『サラフィー・ジハード主義』などと呼ぶ。アルカイダやイスラム国などいわゆるイスラム過激派グループは、このサラフィー・ジハード主義に属する。
安田さんを拘束していた旧ヌスラ戦線は、アルカイダやイスラム国と同じ種類の「サラフィー・ジハード主義」グループと言えるのだが、彼等の目的は常に身代金であった。日本政府は「テロリストとは交渉せず」という基本姿勢を貫いたが、一方でトルコやカタールに協力を求めていた。
なぜこの2カ国なのか?
トルコとカタールが、旧ヌスラ戦線を支援し影響力を持っていたからだという。そして安田さん解放の一報はカタール政府から日本政府にもたらされた。日本政府は身代金の支払いを否定したが、カタール政府が3億円とも言われる身代金を武装グループに支払ったとの情報も流れている。
おそらくそうなのだろう。日本政府は身代金を払っていない。カタール政府が日本政府の立場を慮って肩代わりしてくれたと考えると腑に落ちる。日本政府は自ら身代金を払わずに問題を解決できた。後日別の名目で、この恩はカタール政府に返せばいいのだ。真相が明らかにされることは今後もないだろう。
Embed from Getty Imagesちなみにアラビア半島の東部、ペルシャ湾に突き出た半島の国であるカタールは、国民のほとんどがワッハーブ派と呼ばれるスンニ派イスラム教徒である。18世紀半ばアラビア半島に起こったワッハーブ派は、コーランとムハンマドのスンナに戻り、イスラム教を純化することを説く改革運動から生まれたイスラム原理主義の宗派である。
そしてこのワッハーブ派最大の守護者がサウジアラビア王室なのだが、同じワッハーブ派主体の国家であるサウジアラビアとカタールは今、国交断絶の状態が続いている。
Embed from Getty Imagesそして、中東の大国サウジアラビアは今、反政府の言論活動を続けていたアメリカ在住のジャーナリスト、ジャマル・カショギ記者がイスタンブールのサウジ総領事館で殺害されるという事件に揺れている。
サウジアラビアは当初カショギ氏は行方不明で心配していると言っていたが、海外メディアが連日カショギ氏殺害のニュースを流す中、ついに総領事館内で殺害したことを認めた。ただあくまで偶発的な事件だったと発表したが、トルコのエルドアン大統領は「計画的な殺害」である証拠を握っているとサウジの対応を強く非難した。
Embed from Getty Imagesかつてオスマン帝国を築いたトルコも中東の大国である。エルドアン大統領が指摘した証拠というのは、トルコ政府が秘密裏にサウジの総領事館を盗聴していたのだろうという見方が伝えられている。
焦点は、サウジの皇位継承者ムハンマド皇太子による殺害の指示があったのかどうか? 事件発覚直後から海外メディアは、ムハンマド皇太子の側近がカショギ氏を殺害したと報じている。こうした情報源は間違いなくトルコだろう。強権的なことで知られるエルドアン大統領だが、今回の事件でサウジアラビアを意図的に揺さぶっているようだ。サウジ国内で反対派を押さえ込み、強引な改革を進めるムハンマド皇太子を失脚させることを狙っている感じだ。
Embed from Getty Imagesトランプ大統領は当初、ムハンマド皇太子を擁護する姿勢だったが、ここにきてにわかにサウジアラビア批判のトーンを上げた。トルコ政府から決定的な証拠を見せられたようだ。
イスラエル重視の中東政策を強引に推し進めているトランプ大統領にとって、サウジアラビアは大事な協力者である。イスラエル=サウジアラビア両国と手を結び、共通の敵イランやそのシンパを断固として叩くというのがトランプさんの中東政策だったが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。
そしてトランプさんを熱烈に支持しているのはキリスト教福音派と呼ばれる人々。福音派は、聖書の精神ではなく聖書に書かれた教えを忠実に守ろうとするいわばキリスト教原理主義の人たちである。
あちらもこちらも、原理主義。国際協調主義のようなごく最近生まれた理想とは縁遠い人間の根源に根ざした信仰なのだと思う。
日本人から見ると、中東の相関図はさっぱりわからない。
同じイスラム教徒だからこそ許すことのできない宗派間の対立、近親憎悪というものがきっとあるのだろう。申し訳ないが、中東に生まれなくて、本当に良かったと思う。
それでも中東は、私にとってもっと知りたい土地であり、近い将来じっくりと旅行してみたいエリアであることに変わりはない。
興味の尽きない国々ではあるが、シリアの内戦が終わっても、中東が安定することは当分なさそうである。
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