アスリートの人生というものは凡人には想像つかないところがある。

冬のオリンピックで2度の金メダルに輝いたフィギュアスケートの羽生結弦が競技会からの引退を表明、プロへの転向を発表した。
昨日夕方開かれた記者会見はテレビ各局が中継し、多くの羽生ファンがいる中国や韓国でも大々的に報じられた。
政治の世界ではごたごた続きの東アジアで、羽生選手は独特のポジションを獲得した国を超えたスーパースターだった。

会見ではあらかじめ用意した原稿を読むのではなく、その場で自分の言葉を捻り出しながら今の心境を語った。
競技会に出ないと決断した理由を問われると次のように答えた。
「結果に対して取るべきものは取れたと思っている。そこに評価を求めなくなったという気持ちがある。努力したい方法だったり、理想としているフィギュアスケートという形だったり、そういったものを追い求めるのは競技会じゃなくてもできる」

世界選手権、GPファイナルで優勝し、ソチ五輪でも金メダルを獲得、名実ともに世界のトップに立ったのは今からもう10年近く前の話だ。
それ以来ずっと世界で最も有名なフィギュア選手として戦ってきた。
競技人生の最後となった北京五輪では誰も成し遂げたことのない4回転半ジャンプに挑戦、転倒したが最後の最後まで自らの理想に挑戦する姿を見せつけた。
そんな羽生選手にこんな質問が飛んだ。
「Q. 常に完璧に見える「羽生結弦」として生きるのは重荷だったか?」
その答えは・・・
『羽生結弦』という存在は常に重荷だったと認めつつ、次のように語った。
「『羽生結弦』という存在に恥じないように生きてきたつもりだし、これからも生きていきたい」

北京五輪を制したネイサン・チェンがどれだけ完璧に4回転ジャンプを飛んでも、やはり羽生のような輝きには達しない。
羽生の凄さはその演技だけではなく、その存在そのものであり、それは単なるアスリートという枠を超えた『羽生結弦』というブランドだったのだろう。
それだけにプロに転向した後の羽生がどんな生き様を見せてくれるのか、ファンではなかった私にもとても気になる。
誰よりも自分の理想と他人からの視線を意識した男の今後に注目したい。

スーパースターということで言えば、こちらにも一人。
大リーグエンゼルスの大谷翔平が、2度目となるオールスターゲームに先発出場した。
試合前恒例のレッドカーペットにはスーツ姿で登場、去年は出場したホームランダービーには参加せず、公式戦での登板が控えているという理由でピッチャーとしての出場も回避した。
それでも昨年MVPを獲得した大谷は、もはや誰もが認めるメジャー有数のスーパースターである。

1回表、1番指名打者で最初のバッターボックスに入った大谷。
相手は今シーズン完璧に抑えられているドジャーズのエース・カーショーである。
プレイボール後の第1球、大谷はカーショーのストレートをバットの先でセンター前に弾き返し、大谷自身オールスターで初のヒットを放った。
2打席目はフォアボールで出塁し、今年のオールスターは出塁率100%だった。
ピッチャーとしても選出されていたので、投げる姿も見たかったが、今年こそはベーブルース以来となる10勝10ホームランが確実視されているだけに、まずは公式戦での活躍に期待したい。
それにしても、ジャッジやスタントン、ゲレーロjrといったトップ選手たちの中に入ってちっとも見劣りしないパワーを見せる日本人選手が現れたというのは本当に奇跡のようだ。
大谷と羽生は同じ1994年生まれの同学年。
少子化が進む日本だが、すごい若者たちが確実に育っている。

今行われている世界陸上では、男子100mのサニブラウンが日本人選手初の決勝進出を果たした。
予選でいきなり9秒98をマークし、日本記録の更新は確実と思ったが、決勝は10秒06で7位。
それでも世界のファイナル8人に残ったという偉業は陸上競技の歴史に大きな一歩を記したことは間違いない。
腰を痛め、期待されたほどの進化が遂げられなかったサニブラウンが今後どこまで大化けするのか、新たな時代のスーパースター候補としてこちらも大いに注目したい。
しかし一方で、今年の世界陸上ではマラソン代表の鈴木健吾、一山麻緒の夫婦や男子200mの小池祐貴らが次々にコロナに感染し出場できない事態となった。
しっかりとした感染対策は行っていたのだろうが、ここに来てスポーツ界にコロナ旋風が吹き荒れているようだ。
早くコロナの時代が過ぎ去り、みんなが思いっきりスポーツを楽しめる日が来てくれることを祈りたい。