大相撲秋場所は幕内最年長、37歳10ヶ月の“鉄人”玉鷲の2度目の優勝で幕を閉じた。

千秋楽の優勝争いは、12勝2敗で先頭を走る東前頭3枚目の玉鷲と、それを1つの差で追う西前頭4枚目の高安との直接対決に絞られた。
私は贔屓の高安が勝って優勝決定戦にもつれ込むことを期待しながら見たが、立ち合いからの玉鷲の馬力に腰の重い高安の体が崩れ、反撃する余裕もなく土俵を割った。
またしても高安は準優勝、この人はこういう運命なのだろうか・・・。

とはいえ、温厚な性格と年齢を感じさせない荒々しい相撲で独自の存在感を放ち続ける玉鷲の優勝は見事であり、心から祝福したいと思う。
同じモンゴル出身の白鵬や朝青龍とはひと味違う個性。
山っ気のない努力の人という印象を受ける。
インタビューの際に見せる優しそうな表情と愛嬌のあるコメントにはいつも好感が持てる。
今場所を終わって初土俵からの連続出場記録が1463と歴代3位となったが、その相撲はまだまだ若手をも凌ぐ激しさで、玉鷲の場合、引退はまだまだ先に話のようである。

先場所の逸ノ城に続いて、2場所連続の平幕優勝は31年ぶりだという。
23年ぶりだという3関脇3小結で迎えた今場所も、誰が優勝するのか全く予想がつかない波乱の15日間だった。
横綱照ノ富士が膝の不調で途中休場、3大関も相変わらず序盤から負けるばかりで、勝ち越したのは貴景勝だけ、正代と御嶽海はともに4勝11敗というひどい成績で、角番の御嶽海は大関陥落となった。
上位の力が拮抗し、毎日が好取り組みの連続。
見る方からすれば、ハラハラしながら毎日夕方にはテレビの前で過ごす日々が続いた。
大相撲が終わってしまって、ちょっと寂しいほどである。

それに対して、全く見なくなってしまったのがプロ野球である。
昨日ヤクルトが優勝したことも、テレビのニュース速報で知った。
そもそもこの日、リーグ優勝の可能性があるということさえ話題になっておらず、この瞬間まで知らなかったのだ。
昭和の時代、プロ野球は最強のスポーツコンテンツだった。
夕方になると街のどこかから巨人戦中継の音声が聞こえてきたものだが、今ではプロ野球の放送権は「DAZN」の独占となり、ヤクルト戦を見たくてもなかなか無料では見ることができなくなった。
調べてみたら、この日のヤクルトー横浜戦は、「DAZN」とCSの「フジテレビONE」のほかに、BSフジのサブチャンネルでも放送していたようだが、日頃から見ていないと興味が湧いてこないというのが正直なところだ。

ただ、2年連続のヤクルト優勝に大きく貢献した若きスラッガー村上宗隆のホームランは気になるところだ。
13日の夜、村上が王貞治さんに並ぶ日本人最多となる55号ホームランを放った時には流石にニュースとなり、いつ56号が飛び出すのかヤクルト戦が気になるようになった。
しかしテレビではなかなか見られないのだ。
スポーツに感動するのは、結果までのプロセスを知っていればこそである。
テレビニュースで短くその瞬間を見ても、「へえ〜」というぐらいの感想しか湧いてこない。
本来ならば、日本中が村上のニュースで盛り上がっていてもおかしくない大記録にも関わらず、いまだに「村上って誰?」という人が多いのはプロ野球がテレビコンテンツでなくなった影響が大きいと思う。

本当のプロ野球ファンはサブスクの「DAZN」などのお金を払って加入し、贔屓チームの全試合を見られるようになった。
コアファンにとってはそれはそれで嬉しいサービスだろう。
しかし王・長島の時代のように、広く国民的な関心事となるためにはインターネットでは限界があるのだ。
球団経営的にはテレビ局より「DAZN」に放送権を渡した方が儲かるのだろうが、長い目で見るとプロ野球はマイナーなスポーツに成り下がってしまった。
元はと言えば巨人戦がテレビで視聴率が取れなくなったことが原因であり、「DAZN」のせいではないのだが、テレビから消えたことがますますプロ野球離れを加速したことは間違いないだろう。
55号を放った後、村上は急にスランプに陥ったらしい。
大きなニュースとなったことで、突然プレッシャーに襲われているのかもしれない。
それでも22歳の村上が王貞治の伝説の記録を塗り替える瞬間はライブで見てみたいと思う。

プロ野球を全く見なくなったのとは裏腹に、大谷翔平の大リーグ中継は毎日のように見るようになっている。
大谷のやっていることは、毎日毎日歴史を作る偉業であるから単なるスポーツ中継とは別次元かもしれないが、やはりしょっちゅう見ているとエンゼルスの他の選手たちのことも次第にわかるようになり、自然と物語の中に自分を置くことができる。
本当の感動を味わうためには、物語を知っている必要がある。
テレビ放送の有無は、知らず知らずの間に私たちの関心事を決定づけているのかもしれない。
明日からのヤクルトー阪神戦もBSフジがサブチャンネルで放送するようなので、忘れなければ村上のホームランを期待して見てみようかなと思っている。