「好事魔多し」という諺がある。
物事がうまく進んでいる時ほど、思わぬ落とし穴にはまってしまうという意味だ。
大谷翔平が所属するエンゼルスは球団ワーストとなるまさかの14連敗。
今シーズンのエンゼルスは開幕から投打が噛み合い、一時は11もあった貯金があっという間に消え、ついに監督まで解任されてしまった。

そんな泥沼の連敗ストップを託されたのが大谷。
2番ピッチャーの二刀流で出場、5回表7連勝中のレッドソックスに先制を許すも、その裏大谷の2ランホームランで逆転に成功した。
この1発で悪い流れを断ち切ったエンゼルスは久々の勝利をつかみ、大谷も今季4勝目を挙げた。
さすが昨年のMVP。
悪い時ほど、流れを変える何かが必要となるのだ。

さて、我が家のブドウの話である。
つい先日、枝の成長をコントロールする「摘心」という作業を行い、ぶどう作りも結構面白いと感想を書いたばかりだが、実はこの作業で重大な失敗を犯してしまったようなのだ。
先月、師匠となる前の家のおじさんから、房より先の脇芽は全部摘みなさいと言われたことを根拠に、長く伸びたツルの全ての脇芽を摘もうと思い、妻にもそのように指示をした。
ところが、どうやらそれは間違いだったらしい。

前のおじさんから以前もらっていた農協の雑誌を妻が見ていて、「ちょっと違うんじゃない」と指摘した。
それよれば、「摘心」のやり方は以下のように書いてある。
ア. 新梢先端の摘心
・開花始めに房先の本葉6枚を残して摘心する。
イ. 副梢の摘心
・2回目処理頃までに、着房節までの副梢は2葉、新梢先端部以外の着房節から先の副梢は1葉で摘心し、新梢先端部の副梢1本は伸長させる。
・「ピオーネ」に比べて副梢の発生が多い。このため、副梢が旺盛に伸長する場合は満開2週間後に副梢を摘心する。その後も旺盛に伸長する場合は2週間ごとに摘心する。
副梢の摘心を怠ると、果粒の肥大が劣りやすい。
引用:次世代・ポスト次世代フルーツ栽培の手引き
これは素人にはなかなか難解な文章だが、どうやら脇芽については全部摘み取るのではなく、房より手前は葉を2枚、房より先は葉を1枚残して摘心するのが正しいらしい。
さらに、房より先の本葉は6枚だけ残してそれより先を切り、代わりに副梢、つまり先端の脇芽は伸ばすというのだ。
私がやったのとは全然違う。

ただこの記述はシャインマスカットの摘心について書かれたもので、普通のマスカットやピオーネの場合には微妙に違うようではある。
そこで、前のおじさんがくれた「果樹」という小冊子をめくってみると、おじさんがわざわざマーカーでラインを引いてくれた部分が目に入ったのだ。
摘心は、房先7〜8枚で摘心します。また、開花期に入る前に副梢の摘心も行いましょう。房基の副梢は2〜3枚、房より先は1枚で摘心します。
引用:果樹 2022.5月号
あちゃ、せっかく事前にもらっていたのに、全然読んでいなかった。
私は房先の脇芽(副梢)を根元から切除しただけでなく、先月切らずに残していた房より手前の副梢も葉が密集しすぎて日光を遮ると思って根元から切ってしまったのだ。
どうやらこれでは葉の数が少なすぎてブドウの粒を大きくしたり甘くしたりするための養分が不足するということらしい。
しかし、一旦切ってしまった枝はもう元には戻らない。
私ときたら、バシバシ脇芽を取り除くことでトンネル内が明るくなり、良い仕事ができたと勝手に充実感に浸っていたのである。
覆水盆に返らず。
もう少し早くこの記述に気づいていれば、ブドウの指摘された通りに副梢の摘心を行ったはずだ。
自分のぶどう畑で忙しく、おまけに言葉での説明に慣れていないため、わざわざこうして小冊子の切り抜きを私にくれた師匠の親切を無にしてしまったようで、私はしばらくいたたまれない気持ちを拭うことができなかった。
先月教えてもらいちょっと理解できたことで、今月の作業も同じだろうと勝手に思い込んでしまったのが失敗の原因だった。

こうなったら仕方がない。
副梢で残すはずだった葉の代わりに、本葉を少し多めに残して房に栄養を届けてもらおう。
誰かに指導を受けたわけでもなく、こんな素人考えが頭に浮かんだ。
今年はこれでやってみて、うまくいかなかったら仕方がない。
来年この反省を活かして、もう少し上手くやれるように努力する以外に方法はないのだ。

農業の良さは、自分のやり方でいろいろ試行錯誤できることだ。
うちのぶどう畑がうまくできなくても、誰かに迷惑をかけるわけではない。
自分の失敗は自らの収穫に影響するだけ。
だから、いろいろやってみて、いろいろ失敗すればいい。
今年ダメなら来年頑張ればいいのだ。

せめてブドウの木を病気や害虫から守りたいと、まずはブドウ畑の清掃をしてみた。
先月除草剤を撒いて枯らした雑草や切り落とした枝を取り除き、ゴミ捨て場として使用している別の畑に捨てに行くのだ。
この作業が案外きつい。

低い棚の下に身をかがめ、下草を刈りながらそれを集め、大きな土嚢袋に入れて猫車に乗せて運ぶ。
雑草とはいえ、結構な量と重さになるのだ。
晴れた日には気温が30度近くにまで上がる6月の作業はまさに体力勝負だ。
スポーツジムに通うよりずっと普段使わない筋肉を鍛えられる。

地面がきれいになると、次は病害虫からブドウを守るために指定された農薬を散布する。
本当は無農薬がいいに決まっているが、ブドウの場合、無農薬栽培はプロでも非常に難しいという。
私が今回6月に使用する薬は「アフェット」と「フェニックス」。
どちらも乳液状で、灰色かび病、晩腐病、ハマキムシ類、ケムシ類、スカシバ類などに効果があるらしい。
本来は5月から6月にかけて毎週計6回ほど農薬散布をするようだが、私はなるべく農薬は使いたくないし、そもそも不在の期間があるため、5月と6月に1回ずつ防除作業を行うことにしている。
そして農協の売店で相談して選んだのがこの2種類の薬だった。

農薬を扱うのはどうも気持ちがザワザワする。
やはりおっかないのだ。
噴霧器に10リットルの水を入れ、そこに少量の薬を投入し2000〜4000倍に薄めて使用する。
それで害虫に効果があるというのだから、原液となればかなり強力な薬に違いない。
低いぶどう棚の下で体を不自然に縮こませながら上向きに農薬を散布していると、霧状になった薬が周囲に浮遊し知らず知らずのうちに吸い込んでしまう。
いくらマスクやゴーグルをしていても気持ちのいいものではない。

でもこうした苦労の甲斐あって、雑然としていたブドウ畑が少しきれいになった。
一度きれいになると、不思議とその状態を保ちたいという気持ちが芽生える。
最初は大変だが、それが常態化するとメンテナンスは耕作放棄地を開墾するよりずっと楽に違いない。
摘心作業の失敗がどんな結果に結びつくのか私には予想がつかないが、ともかくできることをやって、その結果を甘んじて受け入れるだけだ。
立派なブドウができなくても、味が良くなくても、全ては自分の責任だ。
スタート地点が低ければ、それだけ伸びしろも大きいということである。
やっぱり失敗しても、ブドウ作りは面白い気がする。
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