もはや、驚きはない。
だから、ニュースでの扱いも最初の時に比べれば熱が感じられない気がする。

大谷翔平がアメリカンリーグの最優秀選手MVPに選ばれたのは、アメリカの16日、日本時間の17日午前のことだ。
今シーズン、44本のホームランを放ち、日本人初のホームラン王に輝いたほか、投手としても10勝を挙げ、誰も成し遂げたことのない2年連続の10勝10本塁打の記録を打ち立てたのだ。
去年のジャッジのような強力な対抗馬もなく、大谷のMVP獲得は間違いないと予想されていた。
とはいえ、30人の記者による投票で決まるMVP、何が起きるか蓋を開けるまでわからない。
結果は、30人全員が大谷に投票、一昨年に続く2度目の満票でのMVPが決まった。
満票でのMVPを2度獲得した選手は長いメジャーリーグの歴史でも誰もおらず、またまた史上初の快挙となった。

受賞の瞬間、大谷は自宅から犬と共に出演し、淡々と喜びを語り手術を受けた肘の状態も順調だと答えていた。
今や、大谷が前人未到の記録を作ることに多くの人は驚かなくなってしまった。
将棋の藤井聡太八冠がタイトル戦に勝利するのと同じ感覚だ。
もはや当たり前で驚きがなく、そんな偉業もニュースではないと感じてしまう。
そのためか、メディアの注目も大谷と一緒に映像に映る犬に集中した。
今シーズンの終了前後から飼い始めたという説はあるが、真相はまだわからない。
犬種は日本では珍しい「コイケルフォンディエ」という小型犬だという。
今まさにストーブリーグでは激しい大谷争奪戦が繰り広げられており、数百億円とも言われる契約金を大谷は手にすることになるだろう。

そんなニュースを横目に見ながら、私の妻などは、大谷がどんな人を伴侶にするのかに興味があるらしい。
世界的な名声と莫大な富を手にした大谷がどんな女性をパートナーに選ぶのか、確かに興味が湧くところではある。
ただ、同じく世界的な名声を手にし多くのファンに愛されたフィギュアスケートのスーパースター羽生結弦が、突然離婚を発表したニュースにはとても驚かされた。
羽生は今年8月に一般女性との結婚を発表したばかりだが、度重なる誹謗中傷やストーカー行為、過熱報道に悩み離婚を決意したという。
「未来を考えたとき、お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断をいたしました」
スーパースターには、我々一般人には縁のない周囲の雑音がついて回る。
女性ファンが多いフィギュアの世界と野球の世界は違うのかもしれないが、大谷翔平には静かな環境で個人の幸せも手にしてもらいたいと願うばかりだ。

世界の頂点に立った大谷翔平。
野球だけではなく、CM出演などでも莫大な収入を得ている一方で、ストイックなまでに野球に打ち込む大谷にとって、お金の使い道を考えるのは容易ではないだろう。
そんな大谷が先日発表したのが、日本のすべての小学校に野球のグローブを3つずつ、計6万個を配布するという計画である。
大谷から贈られたグローブ、一度使ってみたいと思う少年たちも多いだろう。
サッカーに比べれば世界的にはマイナーなスポーツである野球、日本でも野球少年の数は確実に減っている。
大谷のグローブがきっかけで、再び野球をする少年少女が増えれば、未来の大谷翔平がそこから生まれてくるかもしれない。
いかにも野球愛にあふれた大谷らしい、未来につながる素晴らしい計画ではないか。

16日から始まった「アジアプロ野球チャンピオンシップ」では、若き日本代表が安定した強さを発揮している。
初戦は台湾に4−0、第2戦は最大のライバル韓国に2−1で勝利した。
井端弘和監督率いる新生侍ジャパンは、基本24歳以下の若手選手で争われるため、普段プロ野球を見ない私には知らない選手が多い。
WBCに出場した村上宗隆や佐々木朗希らは出場していないので全体的に小粒に見える日本代表だが、それでも投手力は非常に安定感があり、高校野球をベースにした日本野球の層の厚さを感じさせた。

そういえば、この秋、TBSの日曜劇場枠で放送されている『下克上球児』もベタなのになぜか見てしまう。
万年一回戦負けの高校が一人の教師の愛情あふれる指導のもとで奇跡を起こす物語。
ど定番のストーリーなのに、ついつい見てしまう魅力的なドラマに仕上がっている。
定評のある演出チームの力によるところも大なのだが、高校野球が持つ独特の魅力が知らぬ間に私の中に染み付いていることもこのドラマは教えてくれる。
プロ野球とは違い、負ければ終わりの一発勝負。
しかも選手たちに与えられているのは3年という決められた時間なのだ。
人間としてもまだ未熟な高校生が、野球を通して成長し、人間関係も磨いていく。
団体競技であるとともに投手対打者という1対1の要素もあり、単なるスポーツを超えた物語が野球にはある。
星飛雄馬の時代の熱血スポ根ものから、のびのびと野球を楽しむ大谷翔平の時代へ。
日本の野球は確実に進化しているように思う。

手術のため、来シーズンは打者に専念する大谷。
どのチームのユニフォームを着ることになったとしても、来年も彼の一挙手一投足から目が離せないだろう。
大谷翔平は紛れもなく、21世紀を象徴するヒーローであり、現役にして既に伝説となった私たちの「同時代人」なのだから。
ひょっとすると、打者に専念し少し余裕が生まれる来年、大谷の結婚というビッグニュースが世界を駆け巡ることになるかもしれない。
私たちは、彼ができるだけ雑音のない環境で活躍できるよう、ただただ静かに見守ること。
それをみんなで心がけたいと思う。