いやはや、惜しい試合だった。
カタールW杯、決勝トーナメント初戦の相手は過去ワールドカップで2度対戦しまだ勝ったことのないクロアチアだった。

今大会2得点の堂安を先発に起用し、守備陣はイエローカードの累積でこの試合出場できない板倉に代わって富安と谷口が吉田を支える形をとった。
対するクロアチアは、モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチという“黄金の中盤”を中心に不動のメンバーだ。
モドリッチは4年前のロシア大会で最優秀選手に選ばれたテクニシャンで、この中盤をいかに抑えるかが注目された。

前半は予想通りクロアチアがボールを支配し、日本が守る展開が続く。
しかしドイツやスペインに比べて、クロアチアの攻撃は鋭さがなく、多くの選手が一気に日本のゴールに迫るようなヒヤヒヤするシーンはほとんどない。
攻撃と守備のバランスを重視しているように見える。

日本は、遠藤と守田のボランチがクロアチアの中盤に対応し、決定的な仕事をさせないよううまく守る。
一方で、自分たちでボールをキープすることがなかなかできず、守りの時間が長く続いた。
それでもスペイン戦に比べれば日本にもチャンスがあり、徐々にクロアチアの選手たちの動きが悪くなるにつれ、日本がボールを回せるようになってきた。
中3日の強行スケジュールがクロアチアのパフォーマンスを落としているようにも見えた。

このまま0−0でハーフタイムを迎えるかと思われた前半43分、日本にビッグチャンスが訪れる。
ショートコーナーから堂安がゴール前に鋭く蹴り込んだボールを吉田が頭で落とし、それをフォワードの前田大善が左足で合わせた。
1−0。
今大会初めて日本が先制点を奪う。

これはいけるかもしれない、とその瞬間思った。
クロアチアの動きには、ドイツやスペインのような怖さがない。
森保ジャパンは後半に強みを見せてきただけに、これは理想的な試合展開に見える。

後半、森保監督は選手交代を行わなかった。
延長戦も見越して予選とは選手起用を変えてきたのだろう。
しかし・・・

後半10分、右サイドのロブレンからのクロスにゴール前のペリシッチがドンピシャで合わせ、ボールは日本ゴールの右隅に吸い込まれた。
これで1−1、同点に追いつかれる。
非常に正確なクロスと精度の高いヘディング。
さすがヨーロッパの一流チームということだが、クロアチアの中盤をしっかり抑えたものの、ディフェンスの選手たちに点を奪われたのは残念な瞬間だった。

森保監督が動いたのは後半19分、長友に代わって三笘、前田に代わって浅野を投入する。
予選リーグでの必勝リレーに日本のサポーターたちが大いに盛り上がる。
カタール大会で株を上げたのは、三笘、堂安、そして森保監督の選手交代である。
三笘は期待に応えて何度かいいチャンスを作ったが、決めきれない。

浅野もクロアチアの強力なディフェンスに阻まれ全く仕事をさせてもらえない。
ドイツ戦の浅野のシュート、スペイン戦での三笘の折り返しのような神がかったプレーがなければ、日本の得点力はやはり欧米の強豪国に比べて見劣りしてしまう。
何よりも、パスの精度、足元のテクニックには明らかな開きがあって、それが如実にボール支配率の数字に現れるのだろう。
相手が前がかりで攻めてきてくれればカウンターのチャンスも広がるのだが、クロアチアは攻守のバランスを崩さないチームなので、お互い決定的なシーンを多く作れないまま試合は延長戦に突入した。

延長前半終了間際、三笘が一人で持ち込んで強烈なシュートを放つがキーパーがナイスセーブ。
これに対してクロアチアはモドリッチを含む4人を次々に交代させ、フレッシュな戦力で動きが活発になった。
延長後半は再び守備に追われる時間が増えたものの、日本はゴールを守り切りそのまま120分の激闘は終わった。

試合は今大会初めてのPK戦に持ち込まれた。
ワールドカップでの日本のPK戦は南アフリカ大会の決勝トーナメント1回戦でパラグアイで敗れて以来2回目となる。
日本先攻で始まったPK戦、日本の最初のキッカーは南野拓実だった。
森保ジャパンで長く司令塔を務め、最も多くのゴールを挙げた南野だが、ワールドカップでは急成長した鎌田に司令塔のポジションを奪われ、この日も延長戦に入る直前の途中出場だった。
報道によれば、自ら志願して最初のキッカーとなったという南野だが、無情にもキーパーに阻まれいきなり日本を不利な立場に追い込んでしまった。
続く三笘も失敗し日本は絶体絶命に追い込まれる。

ところが3人目の浅野は決め、クロアチア側の3人目が失敗。
日本にかすかな光が見える。
4人目のキッカーはキャプテンの吉田。
吉田はゴール左隅に低い球を蹴ったが、またもやキーパーのリバコビッチに阻まれた。
リバコビッチは、クロアチアの地元チームに所属する若手のキーパーで、ドイツのノイアーなどに比べて知名度は低い。
しかし、この日はことごとく読みが当たり、日本の3本のペナルティーキックを完璧に止めたのだ。
3本のキックは南野は右、三笘と吉田は左への低い弾であり、決して非難されるほど悪いキックではなかった。
もちろん、欧米の一流選手のようにキーパーが動くのを見極めてから蹴るような技がなかったといえばそれまでだが、過去のワールドカップでもスター選手が度々PKを外すシーンを目撃したものだ。
ここは素直に相手のキーパーを誉めるべきだろう。

敗れた選手たちはピッチに倒れ込み中には号泣する者もいた。
PKを失敗した南野や三笘はなかなか立ち上がれなかった。
しかし、これは致し方のないことである。
できれば流れの中で、クロアチアのあのゴールを防いでいればとか、鎌田のループシュートが枠に飛んでいればとか思うが、これが今の日本の実力だろう。
いや、森保ジャパンは実力以上の結果を私たちに見せてくれたのだ。

日本の敗戦の後に行われたブラジルと韓国の試合は、ネイマールが復帰したブラジルが前半に4得点を奪い、4−1で韓国を圧倒した。
やはりブラジルの攻撃力は半端ない。
これに比べれば、日本はヨーロッパの強豪相手によく戦ったと心を強くする。

前日には、フランスとイングランドがベスト8に勝ち進み、ここまではランキング上位のチームがいずれも勝ち進んでいる。
そして予選を首位通過したチームで負けたのは日本だけである。
準々決勝はオランダーアルゼンチン、イングランドーフランス、クロアチアーブラジルの3試合が決まった。
残る2チームがスペインとポルトガルであれば、ベルギーを除く全てのランキング上位チームが勝ち残ったことになる。

1次リーグでは、アジアやアフリカのチームが下剋上を起こし、実力差の縮小を感じさせたが、決勝トーナメントになるとやはり強豪チームが強いのだ。
疲労も蓄積してくる大会の中で勝ち進むためには、一人一人の個の強さ、パスの精度、そしてここぞという時の決定力が求められる。
今大会を一番盛り上げたと海外からも評価された日本代表だが、トップチームの仲間入りをするためにはまだまだ越えるべきハードルがいくつもあると感じさせられた。
それでも、ここまで楽しませてくれた森保ジャパンの活躍に最大限の賞賛を送り、残る試合を純粋に楽しんでいこうと思う。
ちなみに、午前0時から始まったこの試合はフジテレビが中継し視聴率は34.6%、これに対しABEMAの視聴数は過去最高の2300万を超え「アクセス制限」も行われたという。