<吉祥寺残日録>契約を解除できるのはIOCだけ!「開催都市契約」を見ながら日本の五輪ヒステリーを考える #210517

東京オリンピックはいつの間にか、すっかり悪者になってしまった。

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野党やメディアが政府批判の材料として五輪を利用し、コロナを怖がる国民の心理がそれに共鳴して実態以上に「オリンピック=コロナ」という構図が常識化してしまった。

共同通信の最新の世論調査では、6割の人がオリンピックの中止を求めているという。

しかし私には、この世論が、正確な情報に基づかないまま形成されたように感じられ、気持ちが悪いのだ。

オリンピックが予定通り行われると、確かに多くの外国人が入国するので、感染拡大のリスクは存在する。

しかし一方で、報道されないところでは日々多くの外国人が入国していて、プロ野球も大相撲も観客を入れてやっていて、街を歩けば不要不急の人々がたくさん歩き回っている現実もある。

それなのに、どうしてオリンピックだけが目の敵にされるのか、私にはやはり違和感があるのだ。

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コロナ前には日本中が口を揃えて「お・も・て・な・し」と大騒ぎしていた。

もうみんなすっかり忘れてしまったようだが、あれは日本人の美徳ではなかったのか?

今、メディアやネットで流れているオリンピック論議を見ていると、基本的な認識がずれているような気がして仕方がない。

オリンピックというのは、良くも悪くもIOCが独占的に行う国際イベントであり、日本や東京都はそのホストにすぎないというのが私の認識だ。

やや違法な手段まで使って招致活動を勝ち抜き、東京での開催をお願いし、お招きしている立場であり、自ら招いた以上、当然責任もある。

日本政府や東京都が主催するイベントであれば、日本側がやめると言えば中止できるのだろうが、中止の決定はあくまでIOCではないのか?

そのあたりがずっとモヤモヤしていた。

テレビを見ても、その基本的な部分の議論はスルーしたまま、かわり映えしない議論ばかりしている。

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そんなモヤモヤを感じていた時、BBCでこんな記事を見つけた。

「なぜ日本政府は東京五輪を中止しないのか 事態は簡単ではなく」

アンドレアス・イルマーという外国人記者によるこのリポートは、日本の報道では触れられない私のモヤモヤにいくつかの答えを与えてくれた。

とても重要なポイントが含まれているので、ここに詳しく引用させてもらいたい。

IOCと開催都市・東京都の契約は、明確だ。開催契約を解除し、開催を中止する権利はIOCのみにある。開催都市側に、その規定はない。

なぜかというと、オリンピック大会はIOCの「独占的財産」だからだと、国際スポーツ法を専門とするアレクサンドル・ミゲル・メストレ弁護士は、BBCに説明した。オリンピックの「所有者」として、開催契約を解除できるのはIOCなのだという。

契約解除、つまり開催中止の正当な事由としては、戦争や内乱などのほか、「IOCがその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合」という項目が記載されている。パンデミックはこの、深刻な脅威に相当するのではないかという主張もあり得る。

オリンピック憲章にも、「選手のための医療と健康対策を促進し支援する」、「安全なスポーツを奨励」という規定があると、メストレ弁護士は指摘する。

しかしこうした諸々にもかかわらず、IOCはなんとしても大会を実施するつもりに見える。

それでは、IOCの意向に反して日本が自ら率先して、開催をやめることはできるのか?

「この開催都市契約の様々な取り決めのもと、もし日本が一方的に契約を解除する場合、それによるリスクや損失はもっぱら地元の組織委員会のものとなる」と、豪メルボルン大学のジャック・アンダーソン教授(スポーツ法)はBBCに話した。

スポーツ法に詳しいアンダーソン教授によると、この開催都市契約はよくある内容のもので、東京都はもちろん内容を承知して締結した。東京都が承知していなかったのは、パンデミックの発生だ。

「契約はいくつかの不測の事態は予見できるものの、現状の性質は言うまでもなく前例がないものだ」と教授は言う。

「オリンピックは最大のスポーツイベントで、日本とIOCにとっては放送権とスポンサーシップという意味で数十億ドル規模がかかっている。巨大イベントなだけに、全ての当事者に巨大な契約上の義務が伴う」

つまり、日本とIOCが開催都市契約の枠組みの中で、共に中止を決定することが、唯一の現実的なシナリオになる。

もしそういう展開になれば、ここに保険という要素がからんでくる。IOCは保険に入っているし、地元の組織委員会も保険に入っているし、放送各社やスポンサー各社も保険をかけているはずだ。

「もしも東京五輪が中止になるなら、こうした大会に関わる保険金支払いの案件として、おそらく過去最大規模のものになるはずだ。紛れもなく」と、アンダーソン教授は言う。

保険金は大会主催者側の経費実費は補償する。しかし、五輪開催を期待して日本国内で行われた数々な関連投資はほとんど補償されない。たとえば、海外から観客が押し寄せると期待して各地のホテルやレストランが投資した改修費などは、取り戻せない。

引用:BBC

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この記事が指摘するとおり、重要なのは、IOCと開催都市(東京)の間で交わされている契約の中身である。

私は今回初めて、「開催都市契約」というものを見た。

その中に「契約の解除」という項目があり、こう書かれているのだ。

66. 契約の解除

a) IOC は、以下のいずれかに該当する場合、本契約を解除して、開催都市におけ る本大会を中止する権利を有する。

i)  開催国が開会式前または本大会期間中であるかにかかわらず、いつでも、戦 争状態、内乱、ボイコット、国際社会によって定められた禁輸措置の対象、 または交戦の一種として公式に認められる状況にある場合、または IOC がそ の単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされ ると信じるに足る合理的な根拠がある場合。

ii)  (本契約の第 5 条に記載の)政府の誓約事項が尊重されない場合。

iii)本大会が 2020 年中に開催されない場合。

iv) 本契約、オリンピック憲章、または適用法に定められた重大な義務に開催都 市、NOC または OCOG が違反した場合。

v) 本契約第 72 条の重大な違反があり、是正されない場合。

引用:開催都市契約 Ⅺ-66

つまり、パンデミックは「IOC がそ の単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされ ると信じるに足る合理的な根拠がある場合」に当てはまると解釈すれば中止することは不可能ではなさそうだ。

しかし重要なのは、その決定ができるのはIOCだけとはっきり契約に書かれていることである。

契約書の中には、開催都市の方が中止を決定できるという規定はない。

開催都市の方に義務違反があった場合にIOCが契約解除できるという規定があるだけなのだ。

そして・・・

理由の如何を問わず IOC による本大会の中止または IOC による本契約の解除が 生じた場合、開催都市、NOC および OCOG は、ここにいかなる形態の補償、損害 賠償またはその他の賠償またはいかなる種類の救済に対する請求および権利を 放棄し、また、ここに、当該中止または解除に関するいかなる第三者からの請 求、訴訟、または判断から IOC 被賠償者を補償し、無害に保つものとする。OCOG が契約を締結している全ての相手方に本条の内容を通知するのは OCOG の責任で ある。

引用:開催都市契約 Ⅺ-66

つまり、中止に伴う損害はすべて開催都市の側が負担するというわけだ。

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まさにIOCの傲慢な金権体質が剥き出しになったような契約なのだが、日本側はそれを承知で熱心にオリンピックを誘致したのは周知の事実である。

契約を結んだ以上、それを守るのが国際的なルール。

この契約内容を無視して行われている国会の議論やメディアの報道はどう考えてもおかしい。

本当にオリンピックの中止を求めるのであれば、どうやってIOCとの交渉を政府に迫るべきだし、IOCがどうして中止や延期をしないのかを取材するべきなのだ。

契約の中には、こんな条文もある。

開催都市、NOC(前述の開催都市およ び OCOG の財務上の責務に関しては除く)、および OCOG は、いかなる性質であっても、 また、直接または間接を問わず、本契約の規定違反に起因する、すべての損害、費用 および責任について連帯責任を負う。IOC は開催都市、NOC、および/または OCOG に 対して、IOC の単独の裁量にて、IOC が適当とみなす場合、訴訟を起こすことができ る。

引用:開催都市契約 Ⅰ-4

訴訟のリスクもしっかり検討する必要があるのだ。

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可能なのであれば、もう1年延期して、みんなが心からオリンピックを楽しめる環境で実施されるのが望ましいと私も思う。

しかしそれができないのであれば、グダグダ騒がず可能な限りの感染対策を取って粛々とやればいい。

それが現在の私の考えだ。

残念だが選手たちは一般の国民とは接触せず、ボランティアも大幅に縮小し、純粋なスポーツ競技として世界中の人がテレビで応援する。

それで十分ではないか。

できれば、競技会場に大型スクリーンを用意し、世界中の人がオンラインで応援できるような仕掛けぐらいは用意して欲しいものだ。

すでに各国ではオリンピックの代表選考会が行われ、アスリートたちはオリンピックのために頑張ってきた。

もちろん思うように練習ができず、記録は平凡なものになるかもしれないが、私は見たい。

戦争の代わりにスポーツをやるのだ!

各地で武力による人権侵害が日常化しているコロナ禍の世界だからこそ、「平和の祭典」というイメージを曲がりなりにも保ち続けているオリンピックのメッセージを東京から世界に発信してもらいたい。

少なくとも私は、そう願っている。

パンデミックよりも怖いのは、社会全体が感染する集団ヒステリーであり、今のオリンピックを取り巻く日本の状況は「五輪ヒステリー」のように私には見える。

もう少しみんな、冷静に見守った方がいい。

<吉祥寺残日録>コロナがなければ東京五輪が始まっていた日 #200724

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