昨日は、いろいろ大きなニュースがあった日だ。
たとえば、厚生労働省がついにファイザーのワクチンを承認したとか・・・
アメリカ議会上院がトランプ前大統領に対する弾劾裁判で無罪の評決を下したとか・・・。
普通ならそれなりに大きく扱われるはずのニュースなのだが、土曜夜に起きた地震で全部吹っ飛んでしまった。
コロナ禍の日本列島を揺さぶった東日本大震災の余震。
震源は福島県沖の海底55メートル、マグニチュードは7.3と推定されている。
M7.3といえば、熊本地震や阪神淡路大震災と同じ規模だが、今回の地震は震源が深かったことと周波数の短い揺れだったために、直下型に比べて被害は小さかったようだ。
テレビを見ていると「まさか10年も経って、東日本大震災の余震が起きるとは思わなかった」などと発言する人がたくさんいたが、東日本大震災の報道に携わった私にとっては、完全な想定内、いやむしろ「まだこんなもんじゃないはずだ」という思いの方が強い。

東日本大震災直後に聞いたある専門家の言葉が今の忘れられない。
『M9クラスの超巨大地震が起きると、ほとんどの場合、M8クラスの「最大余震」が起きている。それは直後のこともあれば、10年以上経ってから起きることもある』
東日本大震災の余震としては、3.11当日に茨城県沖で発生したM7.9の地震が最大のものである。
ほとんどM8なので、これが「最大余震」だったのかもしれないが、今後さらに大きな、本当にM8を超えるような巨大な余震が起きる可能性だって十分あると私は周囲に言い続けている。

そのため、改めて最大余震について調べていたら、東日本大震災の1年後に書かれたある文章を『日本地質学会』のホームページに見つけた。
日本地質学会の会長も務めた東北大学東北アジア研究センターの石渡明教授が書いた『世界のM9地震と地質学の課題』。
私が気になった部分を引用しておきたいと思う。
まずは本題に入る前に、地震の基礎知識から。
世界で観測史上最大の地震の規模はM9.5だったので,ここではM8.6~9.5をM9クラスの超巨大地震,M7.6~8.5をM8クラスの巨大地震,M6.6~M7.5をM7クラスの大地震と呼ぶことにする。M値が1つ大きいと地震のエネルギーは32倍,2つ大きいと1000倍になる。
M9地震のエネルギーは約1018Jになり,これは長崎型原子爆弾約1万発分,大型水素爆弾約10発分の爆発エネルギーに相当する。
引用:石渡明『世界のM9地震と地質学の課題』
「長崎型原子爆弾の1万発分」という数字は、地震のエネルギーの凄まじさを感じさせると私は思ったのだが、皆さんはどうだろう?
その上で、1990年代からの20年間の日本列島周辺での地震の状況について、石渡教授は次のように分析している。
日本付近の地震の起こり方の特徴を最近20年間について見ると,1995年前後と2005年前後に千島~北海道~三陸北部沖の海溝沿いでM8クラスの巨大地震が頻発し,同じ時期に1995年の兵庫県南部地震や2004年の中越地震など内陸直下型地震も頻発したので,2回の地震活動のピークがあったように見える。
特に2005年の三陸南部沖M7.2地震が発生した前後に,宮城県と岩手県で直下型地震が頻発し,中でも2008年の岩手・宮城内陸地震は規模と被害が大きかった。そして2005年の地震とほぼ同じ場所で,2011年3月9日にM7.4の地震が発生し,ついに11日のM9.1超巨大地震に至った。また,同日中にさらに南の茨城県沖で最大余震(M7.9)が発生した。
このように,最近20年間に千島海溝~日本海溝沿いでM8クラスの巨大地震が多数発生しており,2011年3月11日の超巨大地震はこの海溝型地震の活動域の南端で発生したことがわかる。
一方,日本の内陸各地だけでなく,日本海東縁地震帯の北海道南西沖(1993年)やサハリン(1995年),そして南方の台湾(1986,1999年)や西方の中国(1997, 2001, 2008年)でもこの20年間に大地震が頻発したが,関東・東海・紀伊・四国南部・九州南部・琉球などの南海トラフ沿いの長大な地域で直下型大地震も海溝型大地震も起きていないことが注目される。
引用:石渡明『世界のM9地震と地質学の課題』
千島海溝から日本海溝沿いでは巨大地震が頻発しているが、その一方で、『関東・東海・紀伊・四国南部・九州南部・琉球などの南海トラフ沿いの長大な地域で直下型大地震も海溝型大地震も起きていない』と指摘しているのだ。
その点は私も以前から気になっているポイントで、100年周期で起きると言われている首都直下地震も1923年の関東大震災以降発生しておらず、もうすぐ100年を迎えようとしている。
南海トラフの巨大地震については、1946年にM8の「昭和南海地震」が起きているもののすでに70年以上が経過し、超巨大地震ということでいえば1707年に起きたM8.6の「宝永地震」以来発生していないのだ。
そこで石渡教授は、世界各地(スマトラ、カムチャッカ、南米など)で起きた超巨大地震の起こり方を比較して、次のような予測を立てた。
1.M9クラスの超巨大地震がもう一度来ることはあるか
超巨大地震が500 km以内の地域で続けて起きることは,上述の6つの地域(東北日本,スマトラ,カムチャッカ,アリューシャン,アラスカ,チリ)のうち3地域で発生した。スマトラでは3ヶ月後(と3年後),アリューシャンでは8年後,チリ中部では50年後に次の超巨大地震が来た。東北日本は地震発生後の年数が不足のため事例から除外すると,5地域のうち3地域で50年以内に次の超巨大地震が来たことになる。事例が少ないとはいえ,東北日本でもその可能性があると思った方がよい。
引用:石渡明『世界のM9地震と地質学の課題』
東北地方では、時期は不明ながら、再びマグニチュード9クラスの超巨大地震に襲われる可能性があるというのだ。
さらに・・・
2.M8クラスの巨大地震が今後頻発することはあるか
インドネシアでは,2004年にM9.0の超巨大地震が発生して以後,その震源の南に隣接する地域でM8クラスの巨大地震が年1回程度の割合で発生し続けているが,東北~北海道沖ではこれと逆に,巨大地震が相次いで発生していた地域の南端で超巨大地震が発生した。そして,他の4地域では超巨大地震の前後に隣接地域で巨大地震が頻発するということはなかった。今後もM8クラスの巨大地震が東北~北海道沖で引き続き頻発するか,これで収束するかは判断できないが,もともと日本の地震活動は世界で最も活発なことを念頭に置く必要がある。巨大地震の震源が南方に広がる傾向があり,今後は伊豆諸島沖や関東~九州~琉球にかけての海溝沿いでも巨大地震が発生する可能性がある。
引用:石渡明『世界のM9地震と地質学の課題』
『巨大地震の震源が南方に広がる傾向があり,今後は伊豆諸島沖や関東~九州~琉球にかけての海溝沿いでも巨大地震が発生する可能性がある』。
要するに、日本列島のどこでも巨大地震のリスクはあるということだ。
さらに・・・
3.M7クラスの内陸直下型大地震が今後頻発することはあるか
日本では2000年以後M7クラスの直下型大地震が毎年のように発生している。特に中央~西南日本では,海溝型の巨大地震が発生する前後には内陸直下型地震の発生頻度も高くなることが過去数100年間の歴史資料により明らかになっている。1944年の東南海地震(M7.9)と1946年の南海地震(M8.0)以後,1948年の福井地震から1995年の阪神大震災までの約50年間は比較的地震の発生が少なく,日本はこの間に高度経済成長を遂げた。しかし2000年以後の地震頻発傾向は,今後数10年間続くと考えた方がよい。
引用:石渡明『世界のM9地震と地質学の課題』
戦後の高度成長期からバブルの時代は、たまたま地震が少ない50年で、阪神大震災以降、日本列島は再び地震頻発期に入っているらしい。
そういえば、東日本大震災の時も、本震の2日前にM7.4の地震があったことを石渡教授の論文を読んで思い出した。
福島で暮らす姪夫婦とは無事に連絡が取れとホッとしたところだが、よく考えるとまだ安心はできないのであり、警戒を緩めてはならない。
幸いにも、私はまだ震度6以上の地震を経験していないが、この先死ぬまでの間には、きっと巨大地震に遭遇するだろうと思っている。

今にして思えば、井の頭公園の木の上にカラスがたくさん止まっていて、気になって写真を撮影したのは12日のことだった。
ちょっと嫌な予感もする。
戦争は人間の努力で防ぐことはできるが、巨大地震を止めることは不可能だ。
その時一人一人がどのように行動するか、さらには普段からどれだけ地震に備えることができるかで結果は大きく違ってくる。
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