<吉祥寺残日録>韓国・尹錫悦大統領就任!フィリピンはマルコス・ジュニア#220510

韓国の新しい大統領に尹錫悦さんが就任した。

文在寅政権下で冷え切った日韓関係の改善が期待されている。

大統領就任式は国会議事堂前の広場で行われた。

尹錫悦新大統領は、歴代大統領が執務した青瓦台から出て、国民に近い場所で仕事をするという。

政治経験のない異色の大統領は、韓国独特の権力構造からまず変えようとしている。

5年間韓国を率いた文在寅前大統領は多くの支持者に見送られながら、5年間暮らした青瓦台を後にし、大統領就任式に出席した後は故郷である慶尚南道梁山市の自宅に戻った。

青瓦台を出る際、文在寅さんは「もう一度出馬しましょうか?」と軽口を叩きながら、「多くの方々が私の退勤を祝ってくれて私は本当に幸せだ。今後は妻とともに、前任大統領として、充実して過ごしていると言われるよう幸せに生きていきたい」と述べた。

「前大統領として幸せに生きる」というのは韓国ではとても難しいことだ。

文在寅さん自身、大統領として前大統領だった朴槿恵さんを完膚なきまでに叩きのめした。

私が注目したのは、その朴槿恵元大統領が尹錫悦新大統領の就任セレモニーに招待されていたことだ。

女友達のスキャンダルにより、国民からの激しい非難にさらされ、前大統領としての権威を全て剥奪され晒し者にされた朴槿恵さんは、保守系大統領の誕生によって復権を果たすのだろうか?

検察官として、朴槿恵氏の捜査の陣頭指揮をとったのが尹錫悦新大統領。

その手腕を見込まれて文在寅政権で検察のトップとなるが、今度は現職閣僚の不正を摘発し政権と対立した。

保守と革新が激しく対立する韓国の政治にあって、どちらの権力にも尻尾を振らず捜査に手心を加えなかったことが政治経験のない尹錫悦氏を大統領の地位にまで引き上げたのだ。

就任式で尹錫悦新大統領は、文在寅前大統領に歩み寄り握手を交わしたが、今後韓国の伝統通り、文在寅さんが捜査の対象になるスキャンダルがきっと浮上するだろうと私は予想する。

文在寅政権の北朝鮮政策はある意味一線を超えていて、南北首脳会談が実現した裏で、何らかの密約がなされていたと私は見ている。

それは韓国の保守派から見れば売国奴的な譲歩であり、韓国を北朝鮮に売り渡すような内容を含んでいたのではないかと思う。

政権交代が決まり、文在寅さんは自身が捜査対象とならないように法律の改正を行ったとされる。

さらに議会では今も文在寅さんの与党・共に民主党が多数派を形成し、尹錫悦政権の首相候補を承認しないなど新政権の門出を露骨に妨害しようとしている。

こうして与野党の対立が激しくなればなるほど、検察出身の尹錫悦新大統領は前政権のスキャンダルを必死で掘り起こそうとするだろう。

叩けば必ず埃が出る。

文在寅さんは夜もおちおち寝ていられない状況に追い込まれるだろう。

文在寅政権の下で冷え込んだ日韓関係の改善に新大統領は意欲を示している。

岸田総理が外相時代に取りまとめた慰安婦合意に立ち戻れるのか、それがまず試される。

野党はもちろん韓国国内の世論も、そう簡単には変わらないだろう。

明治時代以来の日本による蛮行を許すことには抵抗を持つ韓国人も多いだろうが、あの慰安婦合意は日韓両政府が一旦はまとめた正式な国家間の約束事であり、それを文在寅政権が一方的に破棄したことで日韓の亀裂が決定的になったことは間違いない。

韓国の革新系の人たちから見れば、朴正煕・朴槿恵親子が行った約束など認められないと思うのかもしれないが、さすがにそれは外交上通用しないだろう。

尹錫悦新大統領には、国内世論を説得しつつ日本との関係改善を進めるという難しい作業が待っている。

せめて日本の政治家や保守派が余計なことを口走って、韓国世論を不必要に刺激しないことを祈るばかりだ。

アジアでは、韓国以外にも新たなリーダーが誕生する。

私も注目していたフィリピンの大統領選挙では、革命によって追放された故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス上院議員が大差で新大統領に当選しそうだ。

父と同じ名前なので、フィリピンでは若い頃から「ボンボン・マルコス」と呼ばれてきた。

依然高い人気を誇るドゥテルテ大統領の政策を引き継ぎ、ドゥテルテ氏の娘を副大統領候補として手を結び、SNSを通じて若者たちに支持を広げたとされる。

でも、1986年の革命を取材した私は、日本や欧米のメディアの報道とは少し違う印象を持っている。

故マルコス元大統領は、確かに独裁者として晩年は私財を不正に蓄え恐怖政治のようなことをやったのも事実だが、一貫して貧しい農村にお金を回したため地方では最後まで熱烈な支持者がいた。

反マルコスのシンボルとなったアキノ女史はマニラの富裕層の出身で、経済界や都市部の住民からは強く支持されていたが、フィリピンが抱えていた最大の課題である貧困の問題に取り組んだのはむしろマルコス氏だったと私は考えている。

だから、国際社会の印象とは別に、フィリピン国内、特に貧しい地方では今でもマルコス元大統領の人気が高く、それがマルコス・ジュニアの堅固な支持基盤になっているのだと想像する。

ただ日本にとっては、中国との関係を重視するマルコス新大統領は最良の候補ではなかったはずだ。

できれば親米政権が誕生し、対中包囲網の重要な一翼を担ってもらいたかったのだろう。

しかし、外国の政治は思い通りにはいかない。

ドゥテルテ大統領も当初心配された反米色をあまり表に出しすぎず、中国とアメリカや日本とのバランスをうまく取りながら自国の国益重視の外交を展開してきた。

それによって中国からの投資を呼び込み、フィリピン経済は好調だったようだ。

途上国のリーダーにとって最も重要なのは、自国の経済であり、貧困の解決であり、麻薬撲滅といったローカルな課題なのだ。

香港では、習近平政権に忠誠を誓う李家超(ジョン・リー)前政務官が新たな行政長官に決まった。

民主化運動を力で弾圧した責任者であり、ますます香港の中国化は進むだろう。

自由を満喫してきた香港の人たちには気の毒で仕方がないが、これは香港返還の日から決められていた運命なのだ。

北京が変わらない限り、香港に自由が戻ることはない。

長いスパンで物事を考え、数十年単位で目標を達成していく。

私たちはそんな時間軸の異なる大国の隣で生きているのだ。

ヨーロッパが長い試行錯誤を経て、EUとNATOを基盤とした国家連合を形成して自国の安全を守ろうとして要るのに比べて、アジアではいまだに信用に足る国家間の枠組みは何もなく、各国がバラバラに右往左往しているだけだ。

歴史的に見て、東アジアの秩序は常に中国を支配する王朝を中心に回っており、今でもそれに変わる新たな枠組みは存在しない。

韓国で新たな大統領が誕生したこのタイミングで、日本はアメリカだけではないアジアでの仲間づくりが求められている。

文在寅

コメントを残す