<吉祥寺残日録>迷走するマイナンバーカード!日本人はどこまでアナログ好きなのか? #230805

夏休みのレジャーシーズンを直撃した台風6号。

沖縄本島を通過した際には風速50メートルを超える猛烈な風が吹き、沖縄では多くの観光客が帰れなくなり大規模な停電も起きるなど大混乱となった。

当初の予報では沖縄を通過した後、中国大陸に向かうはずだったのだが、太平洋高気圧が東に退いたため突如Uターンして再び沖縄・奄美方面に戻ってきてしまった。

そのため、空の便は再び運休となり、帰れない観光客はさらに増えそうな雲行きである。

台風はその後北に進路を変え、九州を直撃する予報が出た。

西日本にも広く影響が広がる見通しで、8日に予定していた高野山へのお参りや帰京のスケジュールも日々更新される台風の進路予想を睨みながら決めることになりそうだ。

迷走といえば、マイナンバーカードをめぐる混乱も収まる気配がない。

マイナポイントで釣って国民の7割まで普及が進んだものの、個人情報が間違って紐づけられるなどのミスが各地で見つかり、一気に国民の間で不信感が広がった。

特に、マイナカードを健康保険証と一体化して、来年秋には健康保険証を廃止するとの政府決定に対しては野党やメディアからも批判が高まり、自民党内からも安倍派を中心に廃止時期見直しの意見が強まっている。

こうした世論を受けて、岸田さんはいつものように「風見鶏」の本性を表す。

国民の間に浸透している健康保険証がなくなることに不安を抱く高齢者に配慮するという名目で、官邸も廃止時期を遅らせる判断に傾き、政府内の調整に動いた。

ところが、健康保険証を所管する厚生労働省の加藤大臣やマイナンバーカードの司令塔であるデジタル庁の河野大臣からは廃止時期見直しに反対され、公明党の山口代表からも廃止時期について「今決める理由がない」と否定的な意見が出された。

報道によれば最後は麻生副総裁が見直し反対に立ったことで流れが決まり、岸田さんも「来年秋に今の健康保険証を廃止する方針を当面維持する」ことを決めた。

あえて「当面維持」と言ったあたり、風向きによってはさらに迷走が続くことを自ら宣言するようなものである。

はっきり述べておくが、私は一貫してマイナンバーカード推進派であり、人為的なミスをことさらに騒ぎ立てて、国民の不安を煽ったマスコミの報道に強い違和感を感じている。

以前にもこのブログで書いたが、海外では個人を識別するための番号や証明書はとっくの昔に導入されていて、デジタル化の進展に伴い、それが行政の効率化の鍵となってきた。

ところが日本では、国民総背番号制導入に失敗して以来、政府も国民も個人番号制度には後ろ向きだった。

自民党支持者の多くが個人事業主や中小企業の経営者であり、個人資産を国に把握されることを極度に嫌ったため導入に後ろ向きだったんだと私は理解している。

しかし一般のサラリーマンは、所得も全て把握されていて脱税したくてもやりようがない。

国民総背番号制が導入されても実害はほとんどないにもかかわらず、多くの国民が反対する背景にはメディアの伝え方に問題があるのだろうと私は考えている。

先日NHKスペシャルで放送されたインドの事例は大変興味深かった。

もともと戸籍が整備されていないインドでは政府が音頭をとって、個人番号を利用した独自の決済サービスが広まっているという。

マイナンバーカードのようなものを全ての国民に配布して、瞳の虹彩や指紋といった生体情報も登録することで、個人を認証するシステムを作り上げた。

それによって貧しい人でもお金を借りたりネットで買い物ができるようになり、国民の生活や経済システムが便利になったという。

さらにこのインドのシステムは他の発展途上国にも広がり、インドはそのシステムを無償で使わせることでグローバルサウスでの影響力を高めているというのだ。

未だに紙を捨てられない日本は、こうして中国にもインドにもデジタル化でどんどん遅れをとっているのである。

マイナンバーカードの議論をさらにややこしくしているのが、後から出てきた「資格確認書」という意味不明なものである。

マイナンバーカードを取得しない人にも医療を提供するため、従来の健康保険証に代わってこれを発行するというのだが、「手間も費用も無駄だ」「それなら健康保険証のままでいいではないか」といかにも真っ当は批判にさらされている。

問題の核心がどこにあるのかと言えば、デジタル化に対する政府の腰が定まっておらず、マイナンバーカードの取得を「任意」としていることだろう。

行政システム全体をデジタル化し効率化することが目的ならば、これは「任意」ではなく日本国民が全員持つべき証明書として問答無用で配布する必要があった。

そして紙の書類をなくし、ハンコをなくし、事務手続きのための公務員の数を減らせば、無駄な行政経費は相当な額削減することができるはずだ。

そうすれば、資格確認書などという訳のわからないものを発行する必要もない。

市役所の窓口の非効率的な働き方をみているといつも絶望的な気分になる。

このところ、相続の関係でさまざまな役所に行かねばならず、その旧態依然とした仕事ぶりに呆れ返るばかりである。

何十年も繰り返されてきたやり方を変えるには、トップの強い意志が必要だ。

ある程度のトップダウンはやむを得ない。

期限を決めて、この日から新しいやり方に変えるという宣言も必要だ。

その期日がぐらぐらしていたのではデジタル化などできるはずがない。

どこかで明確にデジタル化しなければ、公務員もいつまで経ってもアナログのままで、今回のミスもそうしたデジタル慣れしていない公務員によって引き起こされたのだ。

役所の窓口で働くほとんどの公務員はデジタル化によって必要なくなり、余った公務員は介護や保育、ゴミ処理などの他の重要な社会サービスに回すことができる。

公務員からすれば、今の事務作業の方が介護現場などより遥かに楽でお気楽なので当然反発は出るだろう。

しかし、行政のデジタル化のメリットとは、コンビニで住民票が取れるなどという低次元のことではなく、無駄な事務作業をなくして国民が自分のスマホやパソコンで手続きができるようにすることで、その仕事に携わっていた公務員の数を減らし歳出を減らすことにあると私は考えている。

だから、公務員の組合を支持母体とする立憲民主党などがマイナカードに反対するのは当然で、そんな抵抗を押し切ってでもデジタル化はなんとしても断行しなければないのだ。

さて、政府与党内での綱引きを受けて、昨夜岸田総理は記者会見に臨んだ。

「自らの口から国民に丁寧に説明する」と述べていた岸田さんはその場で何を語ったのか?

会見の一部を引用しておきたい。

岸田さんはまずこう述べた。

2020年に私は党の政調会長としてコロナとの戦いの最前線に居た。その際に我が国のデジタル化の遅れを痛感した。  国民への給付金や各種の支援金の給付遅れ、感染者情報をFAXで集計することによる保健所業務の逼迫、接触確認アプリやワクチン接種システムにおける混乱、欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが我が国では実現できないという事実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことに愕然とした。  このデジタル敗戦を二度と繰り返してはならない。主要先進国に大きく遅れを取っている我が国行政のデジタル化の遅れを取り戻したい。この強い思いから、デジタル田園都市国家構想、マイナカードの早期普及を進めてきた。

 なぜマイナカードの早期普及が必要なのか。それは、多様な公的サービスをデジタル処理するための公的基盤を欠いていたことが、コロナ時のデジタル敗戦の根本的な原因だったと政府全体で認識したからだ。  少し詳しく説明すると、私達の普段の暮らしでは、免許証やパスポートが身元確認の役目を担っている。では、顔が見えず、なりすましも簡単なオンラインの世界で、身元確認や本人確認をするにはどうすればいいか。その役目を担うのが電子証明書を内蔵しているマイナンバーカードだ。

「我が国がデジタル後進国だったことに愕然」とし、「デジタル敗戦を二度と繰り返してはならない」というならば、どうしてもっと毅然としないのか?

岸田さんの曖昧さはまったくデジタルとは対極にある。

そして、一番の懸案となっている健康保険証廃止の問題については明言を避けた。

質疑応答の中でその点を聞かれた岸田さんは次のような曖昧な発言をした。

 総点検をしっかりやると申し上げている現時点では、健康保険証の廃止の時期の見直しありきではないと思っています。ただし、総点検とその後の修正作業の状況を見極めた上で、更なる期間が必要と判断される場合には、資格確認書の円滑な交付、マイナ保険証の利便性向上、そして健康保険証の廃止の時期の見直しも含め、適切に対応する、このように申し上げております。

要するに、時期を見直さないつもりだが、総点検の結果によっては見直すかもしれないということだ。

これでは、現場は動きづらい。

トップがこれでは、抵抗勢力を押し倒してデジタル化を進めることは困難だろう。

岸田さんが語っている状況認識や進むべき方向性は決して間違ってはいないように思う。

しかし残念ながら、岸田さんには明確な哲学がなく、何がなんでもやり抜こうというパッションがない。

それでは大事業をなすことはできないだろう。

そうしてデジタル化への舵きりが遅れれば遅れるほど、日本の借金は膨らみ、国力は衰えていくのである。

嫌われようが、選挙に負けようが、岸田さんの心の中に「二度とデジタル敗戦はしない」との決意があるのであれば、その信念を貫いてもらいたい。

昨日のニヤついた岸田さんの記者会見を聞きながら、そんなことを私は思っていた。

<吉祥寺残日録>定年後を考える😄 明日から前期高齢者!市役所から介護保険証が送られてきて感じた行政の無駄 #230301

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