<吉祥寺残日録>菅総理訪米に合わせて見る中国戦慄のドキュメンタリー「馬三家からの手紙」 #210417

菅総理が訪米し、バイデン大統領との初の首脳会談に臨んだ。

バイデン大統領就任後初めてホワイトハウスに招いた外国首脳が菅さんだったということは、中国に対する並々ならぬ警戒心の表れである。

菅総理は「初の外国首脳」に選ばれたことを喜んでいるが、米中の間でうまく立ち回ることがもはや許されないことをひしひしと感じているだろう。

両首脳は日米同盟の結束を示す共同声明をまとめ、中国が軍事的圧力を強める台湾海峡について「平和と安定の重要性を強調する」と明記した。「両岸問題の平和的解決を促す」との文言も入れた。

両首脳は「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」と題した共同声明をまとめた。外務省によると日米首脳間の文書に「台湾」が記されるのは1972年の日中国交正常化の前の69年以来およそ半世紀ぶり。

対中国の戦略を擦り合わせた。首相は会談後の共同記者会見で「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、地域の他者に対する威圧に反対することで一致した」と述べた。バイデン氏は「我々は21世紀に民主主義が勝利すると証明する」と強調した。

台湾への言及の背景には有事への懸念が高まっている状況がある。日米が結束して中国の行動に反対する姿勢を明確に示す必要性があると判断した。香港と新疆ウイグル自治区の人権状況を巡り、共同声明で「深刻な懸念を共有する」と表現した。

引用:日本経済新聞「日米声明「台湾海峡」明記 初の会談、中国の威圧に反対」

今回の訪米は、日本にとって大きな転換点になる可能性がある。

台湾をめぐって、中国と厳しく対立する陣営に加わることを宣言するのだ。

中国の巨大市場から締め出されたり、レアアースのような戦略物資をストップされたり、今後中国側からの脅しは間違いなく強まるだろう。

日本企業にとって厳しい時代が始まる。

中国にいる日本人が、理由も明かされず逮捕する事態もまた起きるかもしれない。

そしてもちろん、尖閣周辺での威嚇もさらにエスカレートするだろう。

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しかし、台湾が中国領に組み込まれてしまえば、脅威はずっと大きなものになる。

目先の経済的利益を犠牲にしても、ここはアメリカやG7諸国、さらには東南アジアの国と連携しながら、台湾侵攻を防ぐ手立てを見つけなければならない。

自由と民主主義を守るための「抑止力」構築。

中国が近い将来、アメリカを超える国力を獲得することを前提に、中国共産党による覇権を許さない世界秩序を築かない限り、日本の前途は暗い。

本当の正念場はここから始まるのだ。

そんな大きな歴史的転換点を迎える中、菅訪米に合わせるように私が見たのは、BSで放送された「BS世界のドキュメンタリー『馬三家からの手紙』」という作品だった。

2018年にカナダのプロダクションが制作したドキュメンタリー映画で数々の賞を受賞した。

テーマは中国の人権問題。

それは中国政府に睨まれた男性が味わった戦慄の物語だった。

主人公の孫毅(スン・イ)は、1990年代に中国で急成長した気功集団「法輪功」の活動家として逮捕され、政治犯として遼寧省にある「馬三家(マサンジャ)労働教養所」に送られ拷問を受けた。

この孫毅が発したSOSが偶然アメリカに届いたことから彼の運命は大きく変わる。

米オレゴン州に住む女性ジュリー・キースがスーパーで購入した「中国製」のハロウィーンの飾りの箱に忍び込まれたSOSの手紙を見つけるところから「馬三家の手紙」は始まる。手紙は政治犯として捉えられた孫毅(スン・イ)が中国で恐怖の城と言われた馬三家(マサンジャ)労働教養所の中で書かれたものだった。8000キロ以上の旅を経てクシャクシャになった紙には、信念のために収監され、拷問・洗脳されている状況が詳細に書かれていた。このメッセージは次々と広まり、中国の労働教養所制度を閉鎖させるまでに至った。しかし、これでストーリーは終わらなかった・・・

世界を駆け巡った驚きのニュースの当事者が当局の圧力に苦しみながら製作し、世界中の映画祭で評価された衝撃のドキュメンタリー作品。今頻繁に報道されているウイグル自治区の再教育施設の問題とも重なり、その実態が今暴かれる。

引用:「馬三家からの手紙」公式サイトより

これが、収容所で彼が密かに書いたSOSの手紙だ。

看守に見つからないよう夜音を立てずに書いたという。

孫毅は物静かな学者のような理知的な人物だ。

彼は釈放後、当局からの迫害を恐れて自らの映像を残すことを決める。

協力したのはカナダのドキュメンタリー監督レオン・リーだった。

しかし、危険を伴う非常にデリケートなテーマだけに、映画制作も特殊な方法が取られた。

人権擁護の映画制作で中国の反体制派とみなされているリーは、中国に入って撮影することはできない。そこで孫は自ら撮影することを提案する。リーは孫に必要な機器の購入を指示し、スカイプでトレーニングを提供した。「馬三家からの手紙」は、中国、インドネシア、米オレゴン州で一年掛かりで録画された。撮影のほとんどはデジタル一眼レフとiPhoneで内密に行われた。複数の友人も撮影にあたったが、安全のため匿名を希望している。リーは彼らの撮影訓練にも関わっている。

リーに映像を送信するにあたり、孫はビデオファイルを圧縮し、暗号化されたサイトにアップロードして、リーのフィードバックを仰いだ。数ヶ月に一回、暗号化されたドライブで孫はカナダに映像を送った。送信方法はここでは公にできない。ドライブが届くと、リーは受信確認を暗号化されたテキストで送信。これを受けて孫がパスワードを返信することで、中国政府の傍受を避けた。

暗号解読では、全ての情報が正確に入力されないと、ドライブ内のコンテンツ全てが消えるように設定されていたため、映像の取り出しは非常にストレスの高い作業だった。幸いにも解読はスムーズに行われ、1つも消失した映像はなかった。

引用:「馬三家からの手紙」公式サイトより

法輪功への弾圧が行われたのは、江沢民時代のことであり、現在の習近平体制とは直接は関係がない。

ただ、今の中国は当時とは比較できないほど国力を高め、国内基盤も盤石となっている。

中国政府に睨まれた者たちは、もう逃れることができない社会なのだ。

在日中国大使館のホームページには、『「法輪功」とは何か』と題された1ページがある。

「法輪功」とは、いったい何か。一口で言えば、中国の「オウム真理教」です。その教祖は現在アメリカにいる李洪志という人物です。「法輪功」も「オウム真理教」も他のカルト集団と同様ですが、教義や教祖への絶対服従と絶対崇拝を要求し、信者にマインドコントロールを施すのです。

引用:在日中国大使館ホームページより

「法輪功」をめぐる真実は私は承知していない。

ただ、映画の主人公となった孫毅は、亡命先のインドネシアで命を落とす。

ウイグル族問題に限らず、中国には我々が知らない人権問題が存在する。

そのことの一端を知ることのできる戦慄のドキュメンタリーだった。

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今後、この中国とどのように付き合っていくのか?

政府だけでなく、中国市場に依存する多くの日本企業が直面する大きな問いが目の前に突きつけられている。

<きちシネ> #09 「オペレーション:レッド・シー」(2018年/中国・モロッコ映画)

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