<吉祥寺残日録>菅総理が1年で退陣へ!総裁選不出馬に追い込まれた世論の恐ろしさ #210903

「ここ数日の間に、菅総理の再選は絶望的な雰囲気になってきた。」

と書き始めたところで、菅総理が総裁選に出馬しないというビッグニュースが飛び込んできた。

菅総理に期待していた私としては残念で仕方がないが、落ち目になると一気に人心が離れるという世の中の縮図を見るようである種の虚しさも感じる。

民主主義国家である以上、世論の支持がなければリーダーは務まらないし、コロナ禍の不満が政府に向けられるのもやむを得ない。

ただ、菅さんは本当にダメな総理だったのだろうか?

リーダーの評価は、その仕事ぶりや実績だけで判断されるのではなく、その人の見た目や話し方、メディアやネット上での評判によって大きく左右される、そんな世論の恐ろしさや危うさを感じさせられる出来事だった。

菅さん退陣への流れを振り返ると、8月31日の22時26分に配信された毎日新聞のスクープ記事が決定的だったように思う。

『首相、9月中旬解散意向 党役員人事・内閣改造後』

その記事はこんな内容だった。

 菅義偉首相は自民党役員人事と内閣改造を来週行い、9月中旬に衆院解散に踏み切る意向だ。複数の政権幹部が31日、明らかにした。自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)は衆院選後に先送りする。

引用:毎日新聞

菅総理が二階幹事長の交代を決断し勝負に出たその夜に流れたこの一本の記事は、人事をてこに反転攻勢をかけようした菅さんの思惑を完全に打ち砕く厳しい一手となった。

菅さんを降したい人たちからすると、まさに将棋の藤井二冠並の絶妙の勝負手だったが、個人的にはこの情報を毎日新聞に流した「複数の政権幹部」が誰なのかがずっと気になっている。

もしも本当に菅さんが解散を考えていたならば文字通り「自業自得」と言わざるを得ない。

しかし、「菅降ろし」のために巧妙に仕掛けられた罠という可能性も大いに考えられる。

「コロナ対応が最優先、解散などできる状況ではない」と言い続けて任期切れ間近まで仕事に打ち込んできたはずの菅総理が、総裁選で自分が不利だからという理由で解散に打って出るとするとそれは「個利個略」のそしりは免れない。

それこそ、若手の不満が渦巻いている党内の支持が一気に離れて求心力を失い、私のように菅さんの仕事ぶりを評価してきた少数の支持者さえも失望させることは確実だ。

案の定この報道が流れると自民党内は大騒ぎとなり、翌朝菅総理は解散を否定する羽目になるが、メディアには安倍さんや小泉さんに諫められて翻意したという情けないストーリーが踊った。

これでは、菅さんはただのバカ者である。

安倍政権を長年支えて絶体絶命の危機を何度も乗り越えてきた菅さんのような策略家が、こんな素人でも予想がつくようなバカな一手を打つのだろうか?

それとも本当に追い込まれて「ご乱心」してしまったのか?

私にはどうしても今回の解散話が腑に落ちない。

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しかし一旦世に出た情報は一人歩きする。

情報の真偽などお構いなしに、菅さんの姑息さを叩く記事がネット上で量産されていく。

昨日の段階で、菅総理再選の目はほぼなくなったと私は感じていた。

菅さんには「安倍応援団」のような批判するメディアを攻撃するような熱狂的な信者はおらず、どんなに批判しても怖くない相手をメディアは徹底的に叩く。

有権者向けのメッセージだけでなく、メディア対策も菅さんは不得手だった。

有権者やメディアから見放されると、総選挙を控えた党内から「菅さんでは選挙を戦えない」との声が高まり、結局菅さんほどの仕事師も起死回生の一手を見いだせず就任からわずか1年での退陣に追い込まれることとなった。

この1年で菅さんは多くの難しい決断を下したが、一般の国民にはほとんど理解されていないようだ。

菅総理の弱点は、発信の下手さに尽きる。

休みなく必死で働き何を成し遂げても、その成果をうまく国民に伝えられない。

批判されても、説得力のある説明ができないまま、ただ黙って頭を下げるだけ。

民主主義社会では、アピール力のないリーダーは有権者の支持を維持できないのだ。

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インターネットの登場によって、世論の動向は劇的に変わった。

既存のメディアもネット世論に大きな影響を受けている。

ネット上には膨大な情報が日々発信されるが、何が真実で何が嘘なのか、一般のユーザーが見極めるのはもはや不可能である。

だから、人は信じたい情報を信じる。

それが真実なのかウソなのかさえさほど重要ではなくなっているように感じる。

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菅さんとは話は全く変わるが、今年1月に起きたトランプ支持者による連邦議事堂乱入事件などは世論の恐ろしさを象徴する出来事だろう。

「民主党が選挙を盗んだ」という意味不明な主張を信じる熱狂的なトランプ支持者たちが全米から集まり、「悪の巣窟」と信じる国会議事堂を占拠したのだ。

トランプ支持者たちの間では、「Qアノン」と呼ばれる陰謀論が広く信じられ強い影響力を持っているとされる。

この「陰謀論」というのは一体何なのだろうか?

私には今一つよくわからないのだが、昨夜この陰謀論を取り上げたテレビ番組が放送されたので、この番組についてちょっと触れておきたい。

BSプレミアムで放送された「ダークサイドミステリー『なぜ人は陰謀論にハマるのか?〜イルミナティからQアノンまで250年〜』」。

『誰かが裏で世界を操っている』という陰謀論はアメリカ建国当時からずっと存在するという。

この番組から、私が参考になった部分を記録しておくことにする。

まずは、「なぜ人は陰謀論にハマるのか?」という問題から・・・。

番組冒頭で登場する一人の元Qアノン信奉者はこう語る。

「私は当時付き合っていた人からQアノンのことを聞きました。その人は頭が良く信頼できる人で尊敬していました。そんな彼がQアノンを信じていたのでQアノン陰謀論は真実に違いないと思ってしまったのです。それ以来、朝起きたらまずインターネットのニュースやSNSで陰謀の証拠を探すのが習慣になるほどのめり込みました。恐ろしい陰謀論をたくさん見ていると一日中憂鬱になって心がどんどん病んでいくんです。そんな毎日を続けているうちに、私は“このままいくと人類滅亡の日が来る”と恐るようになりました」

Qアノン信者たちは最新情報をもとにネット上で意見交換をし、日々様々な陰謀論が飛び交っている。

そうした膨大なQアノン陰謀論を図式化したのが「Q-WEB」と呼ばれる表で、陰謀の中心にいるのが世界支配を目論む「ニューワールドオーダー」、一部のエリートが全人類を家畜化するために陰謀を続けているというのだ。

多くの陰謀論が絡まりあうコントロールできない状況を「超陰謀論」と名付けたシラキュース大学の政治学者マイケル・バーカンさんによると、陰謀論の本質は我々の不安と安心だという。

「陰謀論というのは“世の中に存在する邪悪な勢力が裏で糸を引いている”という考えが一般的です。ところが奇妙なことに、陰謀論者たちの『自分たちはその物事が起きている理由を知っている』という主張には、人々の心を落ち着かせる効果があるのです。特に悪いことが起きると我々は必死に答えを求めます。そういう時に人は陰謀論に引き寄せられてしまうのです。」

番組では、陰謀論ができあがる流れが次のように説明される。

  1. 社会に不思議・理不尽なことが起きる
  2. 「定説」に対して疑問を感じる
  3. 「巨大な組織の陰謀」で筋が通る
  4. 同じような怪しい情報が集まる

そして、2001年に起きたアメリカ同時多発テロを使って具体的に陰謀論を説明している。

① 社会に不思議・理不尽なことが起きる

2機の旅客機が突っ込んだ「世界貿易センタービル」が一瞬にして崩れ落ちる光景は、アメリカ人にかつてない衝撃を与えた。

なぜビルは一気に崩壊したのか?

人々は強い不安の中で納得できる答えを求める。

② 「定説」に対して疑問を感じる

2005年にビル崩壊の最終報告書が提出され、「飛行機の衝突による衝撃と火災による高熱により鉄骨の耐久性が失われ、上層階の重みに耐えきれず崩壊した」と結論づけた。

これが「定説」となり、いったんは人々は納得し安心する。

しかし陰謀論を信じる身近な人やインターネット情報が疑問を投げかける。

「あの不自然な崩れ方は陰謀よ! あれはビルの制御解体だと思うの。崩れる瞬間、ビルの横から煙が出ているでしょう。同じことが911でも起きているの。爆弾を仕掛けた連中の目撃証言がインターネットにあったのよ。」

ネット上には世界貿易センタービル勤務と称する人物の証言が出ていた。

「事件直前の9月8日と9日、2号棟の上層階は36時間もの間停電になり、普段見かけないつなぎを着たよそ者たちが自由に出入りしていた」

③ 「巨大な組織の陰謀」で筋が通る

陰謀論を信じる友人は言う。

「そんな重要な情報がメディアに出ないのは、メディアがグルなのか圧力に決まっている。そんなことができるのは、アメリカ政府だけでしょう!」

④ 同じような怪しい情報が集まる

同じ日に別の旅客機が国防総省に突っ込んだテロについては・・・

「これは軍のミサイル攻撃。目撃者もいるってネットに書いてあった」

ハイジャックされた4機目が墜落した事件については・・・

「旅客機の破片が半径2.5キロに散乱していたのは、これが墜落ではなく、まだ飛んでいるところを軍が撃墜したから」

などと、不確かな情報も積み重ねると陰謀論は確信へと変わっていくというのだ。

スタジオゲストの国際基督教大学の神学者、森本あんりさんは陰謀論が「癒し」効果を持つと指摘する。

「人間て、わかりにくいものに耐えるのはストレスなんですよ。手っ取り早く理解したいんです。本物か嘘かは別としてですよ。アメリカで陰謀論が多いのはキリスト教的背景です。キリスト教というのはそもそもからして陰謀論なんです。最初2000年前にキリスト教のメッセージが始まった時に、「もうすぐこの世が終わる」っていうことだったんですよ。終末が近いってね。それが2000年も経っちゃってるので、陰謀論の成就しない終末待望ってのは慣れっこですよね、キリスト教では。だからアメリカのキリスト教が元気であればあるほど、そこから出てくる陰謀論は多い。陰謀論というのは、自身に起きた不幸に対する理解の方法ですから、社会が安定してハッピーだと陰謀論は出てこないんですよ」

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日本社会に広がるコロナ対策への不満をアメリカの陰謀論と一緒にするつもりはないが、「政府は何もやっていない」というみんなが口にする不満は、どこか陰謀論に似ている気がする。

確かに、もうすでに1年半以上私たちは不自由な生活を強いられており、多くの人が不満を感じるのは理解できるが、では具体的に何を求めているのかというとはっきりしない。

もちろんコロナに感染したらすぐに入院できるようにしてほしいと思うが、それができないのはすべて政府のせいなのか?

外出自粛が呼びかけられても平気で深夜に飲み歩きコロナに感染している人も悪いし、コロナ患者の受け入れに非協力的な病院も悪い。

もっと強制力のある命令ができるよう法改正のチャンスだった昨年秋には、「私権制限には慎重であるべき」として野党やメディアも反対していた。

地方ごとに感染状況が異なり、地方自治体のリーダーたちの考え方も一枚岩ではない。

こうした中で、総理大臣が何でもできると考えるのは幻想である。

しかし、メディアはなんでも政府を批判してきた。

テレビのコメンテーターたちは、連日政府の対応を「後手後手」「無為無策」と批判し、ネット上でも人々の不満が政府に向けられる厳しい1年だった。

そんな中で厚労省だけに任せてはおけないと、菅さんは自ら様々な専門家から話を聞きながら、ワクチンの調達や治療薬の承認など総理のイニシアティブでいくつかの手を打ってきたように私には見える。

もちろんもっとできることはあっただろう。

だが、誰が総理でも難しい1年だったはずだ。

菅さんにとって不幸だったのは、東京オリンピックが総選挙の直前に延期されていたことだ。

これは安倍さんが決めたスケジュールであり国際公約だった。

オリンピックの中止を求める世論は確実に「反菅」のムードを盛り上げ、多くのメディアも現実を踏まえない中止論を煽り立てた。

オリンピック自体はなんとか無事に乗り切ったものの、デルタ株による感染爆発が起こり内閣支持率はみるみるうちに下がっていった。

パンデミックは3年は収まらない。

もしも安倍さんが体調不良で退陣していなかったならば今頃ボロボロになっていただろうが、安倍さんは菅さんに後を託したことで政治生命を保った。

今や自民党のキングメーカーであり、3回目の総理にも野心満々で、ここは岸田さんを総理にして傀儡として憲法改正を進めようと思っているかもしれない。

そしてコロナが収まった頃を見計らって安倍さんが再登板し、悲願である憲法改正を自分の手で成し遂げようとするだろうと私は見ている。

やっぱり、菅さんの方が良かったなあと思うのだ。

菅さんは習近平的な独裁者になれたとしても、ヒトラーやトランプさんのようなポピュリストには絶対になれない。

日本政治では習近平的な独裁者よりも危険なポピュリストの方がはるかに出現可能性が高いのだ。

菅総理の不出馬により、自民党総裁選は多くの候補が名乗り出る乱戦となる気配だ。

このニュースを受けて日経平均は急上昇し、大型の景気対策を期待して2ヶ月ぶりに2万9000円台を回復した。

日本でオリンピックが開かれた年には総理が変わる。

そのジンクスは4度目となる今回の東京オリンピックでも現実のものとなった。

残念である。

<吉祥寺残日録>トランプ支持者が議事堂突入!東京の新規感染者2447人!緊急事態宣言を前にクリニックはガラガラだった #210107

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