安倍総理の後継を決める自民党の総裁選び。
小泉進次郎氏ら若手の署名活動にもかかわらず、二階幹事長の計画通り今月14日に行われる両院議員総会で決まる運びとなった。
「ちゃんと総裁選をやればいいのに」と思いながら、党員投票を求める石破さんや小泉さんの話を聞いていた。
でも決まった以上、仕方がない。
昨日、岸田さんと石破さんが出馬を表明し、1日遅れて菅官房長官が今日夕方、立候補を表明した。

菅さんが出馬の記者会見を開いた午後5時に、私はちょうど歯医者の予約が入っていたので、録画して菅さんが何を語るのかを聞いた。
相変わらず慎重な話ぶりで面白くはなかったが、省庁の垣根を超えた規制改革にはちょっと期待を抱かせる会見だった気がした。
これで安倍総理の後継争いは、菅、岸田、石破の3人の争いになることが確定した。
この3人なら、私は誰が総理になっても特に依存はない。
石破茂さんは、顔は怖いが気さくなところがあり、テレビにも気軽に出演するためだろう国民の人気がなぜか高い。
私もテレビの収録で石破さんに何度かお会いしたことがある。
一度は、鉄道で旅をする旅番組に鉄道オタクとして出演していただいた。
当時は確か大臣だったような気がするが、とても自然体で緊張することもなく車内でいろいろお話させてもらった記憶がある。
勉強家で何を聞いてもはぐらさずに真面目に答えてくれる政治家でもある。
ただ、なぜか自民党の国会議員の間ではまったく人気がなく、今回も「石破はずし」の動きが露骨に出た。
強いと言われる地方票が頼りだったが、二階幹事長が早々に党員投票見送りを打ち出したため、石破さんが総理になる目はほとんどなくなってしまった。
石破さんが総理になったら何をやるか個人的には見てみたいが、今のままだとそのチャンスは永遠に巡ってこないのだろう。
岸田文雄さんは、自民党の保守本流「宏池会」の流れを受け継ぐ党内の“ハト派”で、みんなが言う通りとてもいい人なのだろう。
「宏池会」の先輩である、大平さんや宮澤さんの後継者といった印象が強く、インテリで平和主義的だが押しが弱い、そんな感じを受ける。
安倍さんとは同期で仲がいいとよく言われ、安倍さんからの禅譲を期待していたが、政界ではそんなタナボタはうまくいった試しはない。
今回も見事に梯子を外された。
きっと、騙しやすいいい人なのだ。
そもそも話をすれば、安倍さんと岸田さんではまったく目指す方向が違うはずだ。
だがテレビに出演した岸田さんの話を聞いても、言葉に具体性がなく、聞くものの心に響いてくるものがない。
岸田さんの致命的な弱点は、発信力のなさ。
これって、政治家にとっては本当に致命的に見えてしまう。
ただ、過去の日本の総理を眺めてみると、岸田さんのような没個性の「弱い総理」も結構いた。
そして「弱い総理」は大胆なことができないぶん、世の中は意外に平和だった気もする。
昔風の言葉で言えば、「平時の岸田」なのだろう。
それでも、安倍さんと違って、悪いことはしなさそうな岸田さんが総理になるのも、私は日本らしくて悪くはないと思うのだが・・・。
そうは言っても、もはや勝負はついてしまった。
勝つのは、菅義偉官房長官だ。
菅さんの能力に対する私の評価は、世間一般よりもかなり高い。
実務能力という意味では、やはり菅さんがピカイチだとは思うので、菅新総理に実は大いに期待している。
菅さんは、7年半安倍総理を支え続けたので安倍さんと同一視されることもあるが、かなりタイプの違う政治家だと私は思う。
安倍さんは、政界のプリンスと呼ばれ若い時から虎視淡々と総理の座を狙ってきただけあって、政治センスがよく、仕事の仕方だけでなく自らの見せ方にも「俺が俺が」の日本人離れしたものがあった。
それも、父親の安倍晋太郎ではなく、おじいちゃんの岸信介を手本とするバリバリの保守イデオロギーが安倍さんの根底にはあって、それがある日暴走するのではないかという不安を私は常に感じていた。
それに対して菅さんはイデオロギーの政治家ではない。
秋田の農家に生まれ、高校卒業と同時に集団就職で上京した菅さんは、今の政界には珍しい叩き上げの職人タイプである。
私の勝手な連想だが、菅さんを見ていると、昔の後藤田さんや野中さんといった政治家を思い出す。
二人とも強面だったが、実務能力が極めて高く、心の奥には強い反戦意識を持った実力者たちだった。
菅さんが自らの政治信条を語るのをあまり聞いたことがないが、菅さんを知る人たちから聞く限りでは安倍さんとはなかり目指す方向は違う印象を受ける。
イデオロギーではなく、目の前の課題を一つ一つ解決することに全勢力をかける、そんな政治家なのだろう。
そういうイデオロギーのない実務家として、私は菅さんに大いに期待している。
しかし、問題は内閣の顔ぶれである。
「安倍総理には菅官房長官がいたが、菅総理には菅官房長官がいない」
まさにこれが問題なのだ。
個人的には、無派閥の菅さんにはぜひ派閥の圧力を押し返して、若手を積極的に登用し、清新な内閣を作ってもらいたい。
俺様ではない菅さんには、自民党内の世代交代を進める触媒になっていただきたい。
自民党ではまたぞろ長老政治が復活し、派閥政治に戻ってしまった印象がある。
二階派がいち早く菅さん支持を表明すると、麻生派、細田派、竹下派、石原派、さらには無派閥議員まで一斉に菅さんに雪崩を打った。
狙いは勝ち馬に乗って大臣ポストを少しでも多く手に入れること。
安倍さんに拒否された使えない大臣待望組の厄介者を無理やり押し付けられる可能性も高い。
果たして菅さんがそれを拒否して、自らのスタイルにあった実務型内閣を作れるかどうかが注目である。
石破さんや岸田さんの処遇だけでなく、頭角を現し始めたとされる河野さんや茂木さん、さらに小泉さん。ほかにも無名だが能力の高い若手をぜひ大臣に抜擢してもらいたい。
あとは二階さんの処遇だ。
二階幹事長の強さはどこからくるのだろう?
今回も、キングメーカーとして菅総理の流れを作った以上、ご本人は幹事長残留を希望するだろう。
公明党との関係、さらには中国との関係もあって二階さんを怒らせるわけにはいかない事情もわかるが、党役員人事でも菅色を出して欲しい。
その意味では、正規の総裁選をやって、党員投票も行って菅さんを新総裁に選出した方が、菅さんにとってもよかっただろう。
地方票があってもきっと、菅さんは圧勝しただろう。
14日には新しい総裁が選出される。
立憲民主党と国民民主党が合流する野党再編は、すっかり自民党の影に隠れてしまった感じだ。
そして16日には安倍さんに変わる新しい総理大臣が誕生する。
コロナに加えて米中対立が激化する世界で、どんな舵取りをしていくのか?
久しぶりに政治から目が離せない。