<吉祥寺残日録>緊急事態宣言エリア拡大、日本の医療体制に存在する問題の核心は何なのか? #210820

本当に今年の夏はどうかしている。

私が帰省している岡山は、今日も朝から雨だ。

デルタ株の全国的なまん延により、今日から緊急事態宣言の適用エリアが13都府県に拡大した。

岡山県でも今日から「まん延防止措置」が発令され、飲食店での酒類の提供自粛が求められる。

「同じことの繰り返し」「自粛疲れ」「オリンピックを開催したのだから」などなど、自らの行動に責任を持たない人たちは、なんでも政府や行政の責任にして自分を甘やかそうとする。

しかし、そうした自分の甘い人たちの行動こそが「同じことの繰り返し」の原因であることは、選挙が近い政治家もメディアも表立って口にしない。

視聴者に迎合するばかりでちっとも新たな視点を提供しないコメンテーターたちの話を聞いていると、「意味のない話ばかりしていないで、問題の核心をちゃんと取材しろ」と元編集長の血が騒いでくるが、テレビ局を既に退職した私は今夜吉祥寺に戻り自粛生活に戻るつもりだ。

コロナ騒動が始まって1年半、私たちはずっと同じような話を聞かされてきた。

「医療現場が危機的な状況なので行動の自粛を」

コロナが厄介な感染症である以上、みんなが行動を自粛することは当然必要なのはわかるが、いまだに理由がよくわからないのが欧米に比べて10分の1の感染者で「医療崩壊」が起きる日本の医療体制の問題である。

医療体制さえ持ちこたえてくれれば、もう少しできることは増えてくるはずだ。

しかし、どうもメディアの報道を見ていても、私の胸のつかえを解消してくれるような記事に遭遇しない。

なぜなのだろう?

政治家たちは、選挙の際に地元の有力者に世話になる。

地方に行けば行くほど、金銭を持っている医者は無視できない存在だろう。

つまり、医師会である。

医師会という組織は、もっともらしい顔をして国民に行動自粛を呼びかけているが、会員である医療関係者に対し、「もっと力を合わせて全員でコロナ対応をしよう」とは言わない。

日本医師会というのは、全国の開業医たちから金を集めて政治家に圧力をかけるための組織であって、国民の健康のために奉仕する団体ではないということがコロナ禍でよく分かった。

そんな中で一つの記事が目に止まった。

「PRESIDENT Online」に掲載されていた『「病床があるはずなのにコロナ患者が入院できない」政府が見落としている医療体制の問題点』という記事である。

書いたのは一橋大学の准教授で東京都地域医療構想アドバイザーを兼任している高久玲音さん。

この記事から気になった部分を引用させてもらおうと思う。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。その結果、医療機能は逼迫しており、コロナに感染した際に入院できるのは既に相当な幸運が必要だと言われている。東京都によると、都内では「自宅療養」は2万2226人、「調整中」は1万2349人となっている(8月18日時点)。  医療現場での混乱も続いているが、第1波の頃とは明らかに異なる点がある。多くの病院の経営は順調なのだ。  突然の流行で混乱を極めた第1波では政府のコロナ対策補助金が整備されておらず、病院は軒並みかつてない減収を記録した。未知の感染症に対する医療従事者の英雄的な奮闘にもかかわらず、ボーナスを削減せざるを得ない病院も多かった。  その後、コロナ対応のための補助金が整備され、2020年度全体でも黒字の病院が増えている。全国自治体病院協議会の調査では6割の自治体病院が黒字となっており、少ない患者数にもかかわらず、例年より黒字病院が増えていることが報告されている。

 筆者がとりまとめた東京都の病院を対象とした経営状況調査でも、赤字の病院はあるものの、コロナ患者の受け入れが期待されている都内の急性期病院は2020年度全体で億単位の黒字だ。多くの通常医療がキャンセルされた中での黒字は、病院に対する補助金がいかに潤沢だったかを示している。  コロナ患者の受け入れが少ない、もしくは受け入れていない病院は通常医療の縮小の結果赤字が続いているが、受け入れが可能な病院が金銭的理由で受け入れを増やせないという状況ではない。なお、急性期病院とは、急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行う病院のことを指し、救急患者の受け入れなどもそうした病院が担う重要な機能となっている。  黒字のカギは政府が設けた空床確保料にある。コロナ患者を診るためには、他の患者と隔離するために多くの空床を事前に準備する必要がある。空床を確保するには通常の患者の診療を停止する必要があり、そうした機会損失を補塡(ほてん)する補助金が設けられた。  政府はコロナ患者を診る体制が盤石であることを示すために、急ピッチで病床の確保を進めていた。そのため、かなり潤沢な空床確保料を設定しており、その結果として多くの通常医療がキャンセルされた上に病院の経営難が緩和された。  具体的には、ICU(集中治療室)では1床当たり最大で43万6000円/日、HCU(高度治療室)では21万1000円/日、それ以外の病床では7万4000円/日が支給される。  この空床確保料には問題も多く、例えば、もともと稼働率の低い病院が、患者のいない病床をコロナ患者のための「空床」として申請して儲けているケースもある。

引用:PRESIDENT Online

政府や自治体はコロナ病床を確保するために、対策は行っている。

しかしその対策は主に金銭的なインセンティブによるものであり、決して行政によって強制されるものではない。

どうやら、こうした仕組みは医療機関の懐を豊かにしているだけで、肝心の「使える」コロナ病床を増やすことにはあまり効果を発揮していないようなのだ。

記事はアメリカとの比較に言及している。

 コロナに限らず、「緊急の患者を断れる」というのは、平時から続く日本の医療提供体制の特徴でもある。例えば、平時から東京では1%程度の搬送が搬送困難事例となっている。医療事故が相次ぎ診療報酬も削減された2006年前後には、患者のたらい回しが社会問題化し「医療崩壊」と呼ばれた。  「患者を断る病院」という報道に長い間慣れきっていると、救急医療とはそういうものかと思ってしまうが、患者の「たらい回し」は海外では日本のような社会問題には発展はしてない。  最も有名な例は米国だろう。米国では1986年に制定されたEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA法)で、病院が救急患者に対して適切な診療を行わない場合には罰則の対象となっている。当時米国では、無保険者が民間病院に救急搬送の受け入れを拒否されることが社会問題化しており、EMTALA法はその解決策として制定された。  なお、EMTALA法は救急車内にいる病院搬入前患者の搬送要請には適用されていないので、「ベッドが満床なので断る」ということは依然として可能だ。そのため、日本の上記のような搬送困難事例の解決策として考えるのは必ずしも正しくないが、「どんな救急患者でも受け入れる」という救急医療提供体制はER型(北米型)と呼ばれており、近年日本でも地域的に導入するところが増えてきている。

引用:PRESIDENT Online

やはり必要なのは政治家と官僚による法整備のようだ。

しかし、医療界にとって不都合な法律を作らせないことこそ医師会の役割である。

開業医偏重の有事に弱い日本の医療体制を築き上げたのは、日本医師会だと私は考えている。

高久准教授の記事は、中小病院の統廃合に言及している。

 ER型で実施されている「24時間365日断らない医療」のためには、人材を含めて多くの医療資源をその病院に集中する必要があり、弱い機能の病院では難しいことから、おのずと医療機能の分化が進む。既に高い水準にある医療者の労働負担を下げながらこうした強い病院を作ることは集約化なしには難しく、多すぎる病院の統廃合も実際には必要だろう。少なくとも、搬送を断らない病院は日本国内に既にあり、そうした病院のノウハウや知見がもっと広く共有され、診療報酬上も高く評価される必要がある。

 政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとは全く別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。  急性期の医療機能の分化の問題とともに、緊急事態宣言下における医療従事者の義務とは何か、将来に向けて明らかにされる機会も必要だろう。飲食店における営業の自由をはじめ、多くの人の基本的権利が感染抑制のため長期間制限される中、医療従事者には強制力を伴う診療協力や米国で行われているような病床拡大の義務化ではなく、病院によっては大幅黒字になるほどの強力な金銭的誘導が行われている。これはバランスを欠いているのではないだろうか。

引用:PRESIDENT Online

非常に的確な指摘だと私は感じる。

確かに病院経営には金がかかるのだろう。

しかし、経済が疲弊した田舎に行くと病院だけが立派という風景を日本各地で目にするのは、それだけ中小の民間病院の経営にうまみがあるということである。

そうした中小病院の利益代表が日本医師会であり、与野党を問わず多くの国会議員が医療界からの支援によって当選している現状では、病院の統廃合が国会での議論の遡上に上がってくることも難しい気がする。

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政府は今頃になって、病床確保のための補助金を受け取りながら患者受け入れに消極的な病院がないかを調べるという。

「今までやってなかったのか」とツッコミたくなるような報道であるが、日本経済新聞からその内容を引用しておく。

日本は一般病床と感染症病床が計88万9000床あり、世界的にも病床が多い。それでもコロナ禍では病床不足が常に問題になった。政府は3月、昨冬の2倍の感染者を想定した病床上積みを都道府県に求めた。確保病床は全国で年初の約2万8000床から約3万7000床に増えた。都では4000床から1.5倍になった。

足元では、病状が悪化しても入院できない患者が相次ぐ。

東京だけでなく、各地で病床使用率が6~7割の段階で逼迫が始まっている。自治体との事前協議で決めた確保病床数通りに患者を受け入れられない病院が影響している。

厚生労働省は2020年末以降、病床を新たに確保した医療機関に1床あたり最大1950万円を支給する制度を設けた。導入時点で2万8000床が対象と説明した。病床を空けておくと1床に1日最大43万6000円を補償する事業などに20年度、1兆円以上投じた。

入院要請を「原則速やかに受け入れ、正当な理由なく断らない」ことが要件だが、拒否する例がある。医師・看護師の不足や、別の病気の患者でベッドが埋まっている場合も正当な理由に該当するためだ。

厚労省は4月以降、再三、入院を断らないよう求める通知を出したが、協力しない病院の実態をつかめていない。国が投じた補助金が患者受け入れにつながったのか効果を検証してこなかった。

厚労省は6日付の文書で、患者を受け入れない場合は補助金の対象外として返還請求する可能性も示唆した。これを受け、都が約170の重点医療機関のうち、受け入れ実績が低い施設に聞き取りしたところ、受け入れ実績が増えた。

補助金を受け取りながら消極的な病院はほかにもあるとみられる。都は19日の都議会本会議で「医療機関に個別にヒアリングを行う。早急に状況を確認する」と表明した。国も各自治体と連携し、同様の実態把握を進める。

政府には悪質な病院名を公表する案もある。改正感染症法では、厚労相や知事は病院に病床確保を勧告し、応じない病院名を公表できる。公表された病院との関係を悪化させるとの慎重論もある。

引用:日本経済新聞「コロナ病床実態調査へ 政府、補助金受け消極的な病院も」

営業自粛に応じない飲食店のチェックも甘いが、こちらは補助金をもらっていて協力しないのだから尚更たちが悪い。

どうして病院に対しては、こんなに甘々なのか?

それこそ私がメディアで働く後輩たちに取材してほしいコロナ問題の核心である。

<吉祥寺残日録>憲法記念日に考える「日本の医療はなぜこんなに対応能力がないのか?」 #210503

1件のコメント 追加

  1. wildsum より:

    感染者数は欧米ほどではないのに、医療崩壊というのは奇妙に思っていましたが、なるほどと思いました。何とかして欲しいですね。救急搬送の受け入れ拒否はドラマなどでも、問題視していますが、なぜ解決できないのか、やはり法整備の問題なのですね。これも納得です。

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