<吉祥寺残日録>沖縄返還50周年報道を眺めながら私は新疆ウイグルを思う #220515

戦後、アメリカの統治下にあった沖縄が日本に返還されてから50年が経った。

メディアはこの週末、沖縄特集に多くの時間を割いているが、扱っている内容はどこも似たり寄ったり。

基地問題と経済問題、そして沖縄の伝統文化を扱った企画である。

「核抜き、本土並み」を合言葉に日本に返還された沖縄。

しかし沖縄は今も、在日米軍の大半を引き受けている。

今日の式典で、天皇は次のような発言をした。

『沖縄には、今なお様々な課題が残されています。今後、若い世代を含め、広く国民の沖縄に対する理解が更に深まることを希望するとともに、今後とも、これまでの人々の思いと努力が確実に受け継がれ、豊かな未来が沖縄に築かれることを心から願っています。』

昭和天皇も平成の天皇も、式典で「沖縄が抱える課題」に言及することはなかった。

「沖縄には、今なお様々な課題が残されている」、まさにその通りなのだということを改めて再認識したいと思う。

沖縄県内にあった米軍基地は、この50年間で34%減少したという。

しかし、それはあくまで面積での比較であり、アメリカのアジア戦略において沖縄の重要性は何ら変わらない。

在韓米軍やフィリピンの米軍基地が大きく縮小または撤去されたことを考えれば、沖縄は世界的に見ても特殊な場所といえる。

当然、日本政府により承認、あるいは共通の利益があればこそ、50年間沖縄の特殊性は維持されてきたのだ。

私がむしろ今回驚いたのは、経済的な「本土並み」がほとんど進んでいないという実態だった。

沖縄県民の所得水準は、今も全国平均の75%にとどまっているという。

この数字は80年代からほぼ変わっていない。

本土から離れていて市場となる大都市がないため、日本の強みである製造業が進出せず、オリオンビールなど沖縄のローカル企業が今も勢力を持つという特有の事情もあるだろう。

しかし、国内市場の弱い台湾企業が世界を相手に半導体産業で成功したようなグローバルな経済開発がこの50年間沖縄では進まなかった。

その原因は日本国政府にあるのか、沖縄の産業界にも責任があるのか、その辺りは私にはよくわからない。

ただ、沖縄の歴史を振り返ってみれば、琉球王国の時代から沖縄は中国と日本、さらに東南アジアを股にかけ交易で栄えた独立国だった。

沖縄は日本の領土だと何の疑いも抱かず信じている日本人も多いだろうが、沖縄戦により日本の捨て石となった沖縄の人たちは、日本への返還ではなく、小さくても独自性を持った琉球の復活すなわち「沖縄独立」を求めてもよかったのだと私は考えている。

沖縄は江戸時代、薩摩藩によって軍事侵略され、中国に対して行っていた朝貢を薩摩=日本に対しても行うよう強制された。

そして明治新政府が成立すると、日本政府は一方的に琉球を「沖縄県」として日本に併合してしまう。

いわゆる「琉球処分」だ。

もしも中国が歴史を持ち出して、沖縄は中国の領土だと主張したとしても日本は反論できない。

歴史的にみれば、沖縄は日本よりも中国の影響下にあったことは間違いないからだ。

日本では、中国の人権問題を取り上げる際、新疆ウイグル自治区の問題が例に出されるが、新疆ウイグルというエリアは18世紀に清朝に征服されそれ以来中国の支配下に置かれている。

そして1884年、新疆省として中国の統治機構に組み込まれたのだが、日本が沖縄を一方的に編入したのとほぼ同じ時代の出来事なのだ。

一旦大きな国に飲み込まれてしまうと、同化政策が実施され多数派民族がどんどん流入し伝統文化が徐々に破壊されていく。

新疆ウイグルやチベットで中国が行ったのと同じことを、日本も沖縄で行い、その歴史を私たちは知らないまま生きているのだ。

「琉球処分」によって琉球王国は消滅し、国王は華族として東京暮らしを強いられた。

沖縄に関して問うべきは、50年前の沖縄返還ではなく、150年前の琉球処分であると私は常々思っているのだ。

当然のことながら、琉球処分を直接経験した人たちはもう生きてはおらず、沖縄の独立を求める運動も盛り上がってはいない。

あれほど苦難の歴史を味わっても、沖縄の人たちが独立を求めようとしないのは、日本の一部であることにメリットがあるのか、それとも歴史を知らないからなのだろうか。

式典の中で、岸田総理はこう述べた。

『復帰から50年を迎える本日、沖縄の歩んだ歴史に改めて思いを致し、沖縄県民のひたむきな努力に深甚なる敬意を表したいと思う』

総理のいう「沖縄の歩んだ歴史」に薩摩の侵略や琉球処分は含まれているのか?

返還50年の節目に、多くの日本人が沖縄の真の歴史を知ることの重要性を私は強く感じた次第である。

いつの日にか、琉球処分を描いたドラマを日本のテレビで見てみたいものだ。

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