<吉祥寺残日録>日米同盟・IPEF・クアッド! バイデン初来日で「対中包囲網」をアピールするも、アメリカで注目されたのは台湾発言のみ #220524

アメリカのバイデン大統領が就任後初めて日本にやってきた。

韓国での日程を終えて横田基地に降り立ったのは22日、案の定、大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」が吉祥寺上空を飛んで都心に向かうのがマンションから見えた。

今のような緊迫した世界情勢では、アメリカ大統領が狙われる可能性もないとは言えない。

私は2機のヘリの行方を見届けようとした。

ヘリは六本木ヒルズのあたりに降りていくのが見えた。

六本木の星条旗新聞がある米軍施設ってヘリポートがあるんだっけ?

ひょっとすると、対空ミサイルを警戒してダミーのヘリを飛ばしているかもしれない。

いろいろ妄想を巡らしていたが、その後の報道を見るとバイデンさんを乗せたヘリは六本木の米軍施設「ハーディ・バラックス」に降り立ったらしい。

やはりあれは本物の「マリーンワン」だったのだ。

初来日したバイデンさんは、翌日から精力的に公務をこなした。

23日には皇居で天皇と会談し・・・

岸田総理夫人のいれたお茶を飲み・・・

拉致被害者の家族たちとも面会した。

高齢の横田早紀江さんたちと話す際には、バイデンさんは片膝をついて目線を合わせ、笑顔で一人一人に言葉をかけたという。

「私も2人の子供を亡くした」というバイデンさんの言葉は共感力を高め、トランプさんとは全く違う優しい物腰に家族会の皆さんも好印象を持ったようだ。

そして迎賓館で行われた岸田総理との日米首脳会談。

バイデンさんが目指す「対中包囲網」構築のベースとなる日米同盟の強化が目的だ。

2時間にわたって様々なテーマを話し合ったようだが、最大のポイントはアメリカが核兵器も含めて日本を守る「拡大抑止」を改めて明言し、日本側もそれに応えるように防衛力の強化と防衛費の目に見える増額を約束したことだ。

一昔前ならかなりの騒ぎになりそうな話だが、ウクライナでの戦争が日本人やメディアの論調をだいぶ変化させたようで、これまでのところ大きな反対論は聞かれない。

ただ韓国の革新系「ハンギョレ新聞」は、『米、日本の「敵基地攻撃能力」の足かせを解いた』『米日「矛と矛」の役割を決議』などの見出しを立て、戦後日本が守ってきた「専守防衛」という足かせが失われることに危惧を表明している。

確かに、「専守防衛」という金看板を変えるのであれば、きちんとした議論が必要だろう。

ウクライナの戦争と中国の脅威を単純に結びつけてなし崩し的に原則を無くしてしまうことは、後々禍根を残すことにもなりかねない。

中国に対抗する準備は必要だが、勢いに任せて異論を許さない姿勢は危険だ。

さらに私は素朴に思うのだが、岸田さんはどこから防衛費の増額分を捻出するつもりなのだろう?

GDPの1%を守っている今でさえ、多額の赤字国債に頼っているのに、もしも自民党内から声が上がっているように2%まで増額するとすると、さらに5兆円ぐらいの予算が必要になる。

現在の日本の国家予算の大半は社会保障費と国債の利払いであり、福祉を削らない限り防衛費の原資は見当たらない。

岸田さんが福祉に手をつけるとは思えないので、そうするとまたまた赤字国債を増発する以外に方法がないということか。

もしも日本国民の多くが安全保障にもっと予算を割くべきだと考えるのならば、そろそろ増税の議論をしなければならないはずだ。

続いてバイデン流「対中包囲網」の二段目となるのが「インド太平洋経済枠組み」、通称「IPEF」の始動である。

「IPEF」は、中国の影響力が年々強まるアジア太平洋地域にアメリカの影響力を取り戻すために画策された。

TPPのような関税引き下げを伴う経済協定は、アメリカ国内の労働者から評判が悪いため、バイデン大統領もオバマ時代に作ったTPPへの復帰には踏み切れない。

その代わりに打ち出したのが関税引き下げを伴わない「IPEF」で、デジタルを含む貿易のほか、サプライチェーン、クリーンエネルギー・脱炭素、税制・汚職対策の4分野を扱うとしている。

岸田さんの「デジタル田園構想」に似た曖昧さが否めない枠組みではあるが、日米のほかに、韓国やインド、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国など13カ国が参加を表明した。

世界のGDPの40%を占める新たな経済協定の創設だ。

台湾の創設メンバー入りは見送られたが、半導体の重要な供給国として将来的には台湾もこの枠組みに組み込むこともアメリカは想定しているのだろう。

当面のメリットは定かではないが、アメリカからの誘いを断るのも後が怖い。

そんな思いから参加を表明したASEANの国々も多かったようだ。

対米貿易でのメリットのない協定にどれだけの国が参加するのか当初危ぶまれたが、ベトナムやフィリピン、マレーシアなど南シナ海に面する国々やインドネシア、タイ、シンガポールなどASEANの中核的な国がこぞって参加したことの意味は大きいだろう。

逆にASEANの中でも中国に近いカンボジアやラオス、さらに軍事クーデターで国際的に孤立するミャンマーはあえて排除していて、東南アジアを分断する意味合いもありそうだ。

しかしこの「IPEF」の発足により、アジアの枠組みは複雑さを増すことになる。

アメリカの離脱により日本が主導する格好になった「TPP」と中国が主導する「RCEP」に、そしてアメリカが主導する「IPEF」が加わり、東南アジアの国々を奪い合う形だ。

東南アジア諸国はどこも中国が最大の貿易相手国だが、同時に中国の影響力が強くなりすぎないようアメリカを利用したい思惑もある。

そしてサプライチェーンの問題で、西側諸国が脱中国の動きを強めることになれば、東南アジアがその受け皿となる可能性もあり、各国にとって将来重要な意味のある枠組みに進化するかもしれない。

「アジア版のEU」として各国の国内事情には目をつぶり経済的な利益だけを共有して発展してきたASEANだが、米中対立は今後一層厳しさを増すとみられる中で中国を取るかアメリカにつくか国益によって分断される可能性も出てきたように見える。

そして今日、「対中包囲網」の三段目として東京で催されたのが日米豪印4カ国の「クアッド」首脳会合だ。

オーストラリアからは、9年ぶりの政権交代を果たしたばかりのアルバニージー首相も出席した。

アルバニージー首相が率いる労働党は、以前中国に対して宥和的な政策を取っていたため、新政権がどのような対中政策を打ち出すのか注目を集めたが、アルバニージーさんは「クアッド」との連携を重視し中国に対しては前政権同様厳しい姿勢を変えないと明言した。

4カ国は中国を念頭に「力による現状変更の試みに反対する」との共同声明を発表、途上国のインフラ投資に5年間で500億ドル以上の支援を約束し、中国の「一帯一路」に対抗する姿勢を示した。

このように東京を舞台にバイデンさんは強力な「対中包囲網」を作り上げたことを大きな成果としてアピールしたかったのだろうが、アメリカのメディアの反応は冷ややかなようだ。

アメリカの大手メディアのサイトを見てみても、日米同盟の話はもとより、「IPEF」や「クアッド」についてもほどんどニュースになっていない。

唯一アメリカで注目されたのは、バイデン大統領の台湾に関する「失言」だった。

日米首脳会談後の記者会見で一人の女性記者がバイデン大統領に聞いた。

「大統領はウクライナ紛争に軍事的に関わりたくなかったが、いざとなったら台湾を防衛するために軍事的に関与する気はあるか?」

この問いに対してバイデンさんは「YES」と答えたのだ。

台湾有事については明確な回答をしないことによって抑止するという「あいまい政策」を歴代米政権はとってきているが、バイデンさんはそれを変更するのかが注目されたのだ。

バイデンさんはこれまでも何度か台湾問題で同様の発言をしている。

その度にホワイトハウスが軌道修正をして大統領の「失言」として処理されてきた。

今回も同様に、「台湾政策に変更はない」と周囲は火消しに走っている。

しかしバイデンさんはあえて同じ発言をしているのだから、よほどボケていない限り、きっと台湾が攻撃されたらアメリカは助けるべきだと本気で思っているのだろう。

ただこのバイデンさんの発言にどれほど実効性があるのか、それが問題なのだ。

アメリカ人の間で中国に対する敵対心が育っているのは間違いなさそうで、たとえ共和党政権に変わっても対中強硬姿勢は基本的に変わらないとみられる。

しかし中国が台湾を攻撃した際に、直接介入して台湾を守るべきと考えるアメリカ人は決して多くないだろう。

それは日本が攻められた時も同じだ。

同じキリスト教の国であるウクライナでさえ、国内世論を配慮してバイデンさんは早い時期から米軍は送らないと明言してきた。

ましてや中国人と区別できない台湾が攻撃されたからといって、わざわざ米軍を投入して中国との戦争に突入することをどれだけのアメリカ人が支持するだろうか?

バイデンさんには消極的な国民を説得するほどの強いリーダーシップやカリスマ性はない。

こうして目と鼻の先にある日本で、あからさまな「対中包囲網」構築の動きを見せつけられて、中国が面白いはずはない。

中国外務省の汪文斌報道官は「IPEF」について、「アジア太平洋は地政学の決闘場ではなく、平和的発展の拠点となるべきであり、アジア太平洋の陣営化、NATO化、冷戦化を企てる様々な陰謀がその目的を達成することはできない」と批判した。

また台湾問題についても、次のように述べた。

台湾地区、釣魚島(日本名・尖閣諸島)、海洋関連の問題における中国の立場は一貫した明確なものだ。我々は米日が関連問題を誇張して中国のイメージを毀損し、中国の内政に干渉することに断固として反対する。現在台湾海峡の平和と安定が直面している最大の脅威は、民進党当局が「台湾独立」分裂活動を推し進め、米国など特定の国がこれを煽り立てていることだ。台湾地区問題において中国人民に対して歴史的罪責を負う日本は、なおさらに言動を慎み、歴史の教訓をしっかりと汲み取り、過去の過ちを繰り返さぬようにするべきだ。

引用:人民網日本語版

さらに「人民網日本語版」には、在日中国大使館の報道官の言葉を引用する記事が掲載されたが、これは今回の日米の動きに対する中国政府の猛烈な反発を示していると思われ、日中関係の悪化は避けられそうにない。

『日米首脳会談での中国関連の否定的動きに中国大使館が厳正な立場を表明』との見出しがつけられた記事を一部引用しておく。

日米首脳会談と日米共同声明は悪意をもって中国関連の議題をむやみに取り上げ、中国にいわれなき非難を加え、中国の内政に粗暴に干渉し、国際法及び国際関係の基本準則への重大な違反を犯し、中国の主権・安全保障・発展上の利益を深刻に損なった。中国はこれに強い不満と断固たる反対を表明する。

現在、中日関係は重要な岐路にある。中国は日本に対して、対中認識を正し、戦略的方向性を修正し、対中関係と対米関係をバランスよく取り扱い、建設的かつ安定的な対中関係の構築という姿勢表明を真に具体化させ、他国のために火中の栗を拾うのを止めるよう促す。

日米が「拡大抑止」を強化すると主張しながら、中国の核政策についてあれこれ言うのは、責任を転嫁し、注意をそらすために他ならない。

中国は自衛防御の核戦略を揺るぎなく遂行し、常に核戦力を国家の安全保障に必要な最低限の水準に維持しているのであり、中国の核政策自体が国際核軍縮プロセスの推進と核リスク低減の努力に対する重要な貢献である。米国は自らの核軍縮義務を真摯に履行せず、アジア太平洋地域で地上発射型中距離弾道ミサイルの配備や原子力潜水艦の売却を図っており、こうした行動は核不拡散体制を深刻に脅かすものだ。日本は長期にわたり実際の必要を上回る大量の機微な核物質を貯蔵し、米国の「核の傘」を享受するために、米国による核先制不使用政策の採用を極力妨害してきた。我々は日米に対して、ダブルスタンダードを放棄し、責任ある姿勢で国際的な懸念に応え、実際の行動によって国際社会の信頼を得るよう忠告する。

引用:人民網日本語版

「中日関係は重大な岐路にある」というのは単なる脅しではないだろう。

この中国側の脅しが、今後どのような形で現実のものとなるのかとても気がかりだが、中国のサプライチェーンと巨大市場に依存している日本経済にかなりのダメージが出ることを私たち日本人は覚悟しておかなければならない。

同じく「人民網日本語版」にはこんな記事も掲載されていた。

『日本でバイデン米大統領訪日に抗議デモ』

バイデン米大統領の訪日に抗議し、日米首脳会談と米日印豪「クアッド」首脳会合を阻止するため、日本各地から集まった数百人の市民が22日に東京で集会を開き、デモ行進を行った。

引用:人民網日本語版

昔だったら日本のメディアでもこんな抗議デモが取り上げられていたことを思い出す。

野党が弱くなり労働組合が弱くなる中で、軍備拡大に異を唱える声は日本のメディアからはあまり聞こえてこなくなった。

こうした国際的な問題の場合、いろんな国の論調を比較して自分の頭で考えることが重要だ。

バイデンさんも岸田さんも、習近平さんほど強固な権力基盤を持っていない。

バイデン訪日の上っ面に騙されるのではなく、大きな方向転換が日本に何をもたらすのか、何を目的にこれまでの政策を転換するのか、中国とどこまで本気で事を構えるのか、国民がわかる形でじっくり議論し結論を出していかなければならない重大な岐路に私たちは差し掛かっていることを自覚したい。

<吉祥寺残日録>中国包囲網「Quad」構築で試される日本人の覚悟 #210314

コメントを残す