<吉祥寺残日録>日本は韓国より貧しくなったのか? #210506

バイデン政権発足以来初めての日米韓外相会談が実現した。

「アメリカファースト」だったトランプ政権から、同盟国重視のバイデン政権に変わり、日韓関係も少しは改善していくのだろうか?

3国での会談の後、茂木外相は2月に就任した韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相と20分間の初会談に臨んだという。

基本的には双方が従来通りの主張をして議論は平行線だったようだが、韓国側の反応が知りたくていくつかの韓国メディアのサイトを眺めてみた。

聯合ニュースは『韓日外相 未来志向確認も歴史問題では隔たり』という見出しで比較的フラットに伝え、保守系の朝鮮日報もほぼ同じトーンだったが、文在寅政権に近いとされる「ハンギョレ新聞」には韓米外相会談については報じているが日韓については記事が見当たらなかった。

日本語版サイトなのでまだ更新されていないだけかもしれないが、少し気になるところだ。

その「ハンギョレ新聞」の日本語サイトで別の記事に目が止まった。

『[寄稿]日本は韓国より貧しくなったのか』という立命館大学のイ・ガングク教授が書いたものだった。

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とかく反日ばかりが注目される韓国だが、日本との経済格差が急速に縮まり最近の統計だと1人あたりの豊かさで日本は韓国に負けているという。

そこで調べてみると、2020年の一人当たり実質国民所得(購買力平価為替レート)のランキングを見ると、日本が28位なのに対し、韓国は24位となり順位が逆転していた。

ちなみに、1位はルクセンブルク、2位シンガポール、3位カタールと小国が上位を占め、スイスが5位、アメリカが7位、台湾14位、ドイツ15位、フランス23位、イギリス25位などとなっている。

このランキングを受けて、日本でも4月はじめ『なぜ、日本は韓国よりも貧しくなったのか』(WEDGE Infinity)という記事が話題となった。

名古屋商科大学ビジネススクールの原田泰教授が書いた記事であり、「ハンギョレ新聞」に掲載されたイ教授の寄稿もこの原田教授の記事を踏まえたものとなっている。

原田教授は、冒頭から次のように日本の現状を憂いている。

 日本の生産性が先進国の中で低いということは知られるようになった。生産性が低いということは実質所得が低いということであり、貧しいことである。

 世界で広く使われている豊かさの指標は一人当たり実質購買力平価GDPである。日本は、この豊かさの指標で、韓国よりも貧しくなった。

引用:WEDGE Infinity

「韓国に負けている」というとやたらにショックを感じる日本人の心理をついたタイトルと書き出しである。

しかし、いたずらに危機感を煽っているだけではないことは統計に基づいたランキングに表れている以上、何が原因なのかは知りたいところだ。

原田教授はこう分析している。

 私は、日本の遅れの大きな理由は、「日本はキャッチアップを終えて先進国になったのだから、もはやキャッチアップ型の成長はできない。これからの成長を支えるのは独自性と独創性だ」というような主張にあると考える。少なからぬ人がこの主張を信じているようだが、まったくの誤りである。事実として、日本は、アメリカを追い越したことがなく、90年代以降はアメリカとの差が開くばかりだった。この間、アジアの国々は着実にキャッチアップ型の成長を進め、シンガポールはアメリカを追い越し、香港はアメリカに追いつき、台湾と韓国は日本を追い越した。

 日本はキャッチアップどころか、キャッチダウンしているのだから、必要なのは他国の優れたものを学ぶことだ。日本にウーバーがなく、有機ELパネルを作れず、安価に電子決済できるシステムが普及していないのは独自性と独創性がないからではない。農業、運輸、電力、金融、建設、卸・小売、食品産業などの生産性が低いのもそうだ。アメリカや他国の優れた事例を真似ることができないような規制、制度、慣行があるからだ。

 産業だけでなく、政府の機能においても、遅れている。コロナショックの中で、日本の政府も世界の水準に追いついていないことが多々あると分かった。

引用:WEDGE Infinity

バブル時代、「ジャパンアズナンバーワン」と浮かれ他国から学ぶことを忘れてしまった日本。

「独自性と独創性」の名の下に追求してきた結果は、世界標準とはかけ離れた「ガラパゴス」だったというわけだ。

コロナ前までは、アベノミクス礼讃の風潮の中で、「日本はスゴイ」という奇妙な幻想がまん延していたが、今回のコロナ禍で化けの皮がすっかりハゲ落ちてしまった。

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これを受けて、イ教授は日本と韓国の社会を比較しながら、互いに学ぶべき点があると論じている。

 もちろん国民所得の数字が示し得ない種々の差も存在する。高齢者の貧困と青年失業問題は韓国の方がより深刻だが、高齢化と財政問題では日本の方が深刻だ。暮らしの不安定さは韓国の方が大きいかも知れないが、社会の活力は韓国の方が高く見える。何よりも両国はお互いの社会を見て教訓を得られる隣国であることを忘れてはならない。例えば韓国は、日本から低成長と人口変化の準備だけでなく、大企業と中小企業の格差の小ささや、最近の労働市場改革に関して学ぶ点が多い。日本は情報通信など新産業の躍動性や労働者の賃金を上げるための努力に関して韓国から学ぶべきだろう。

 所得以上にさらに大事なことは、暮らしの質と幸福だろう。経済協力開発機構(OECD)の「より良い暮らし指標」は、住宅、仕事、共同体、健康、環境を含む11の指標を提示する。韓国は助けが必要な時に頼れる誰かがいるという共同体指標が先進国の中で最も低く、環境も同じだった。一方、日本は市民として政治に参加する程度が非常に低かったが、韓国は非常に高かった。暮らしに対する満足と仕事と暮らしの調和は、両国共に他の国よりもずっと低かった。

引用:ハンギョレ新聞

政治的な対立が激しく、財閥優遇の韓国社会も多くの問題を抱えている。

しかし、PCR検査への取り組みや社会の活力は韓国の方が優れているとイ教授は指摘する。

日本人は、いたずらに韓国を批判するのではなく、自国よりも優れている点はどんどん真似て吸収していく姿勢が必要なのだ。

少なくとも明治人たちは言うに及ばず、戦後の高度成長を成し遂げた昭和の日本人も必死に外国の良い点を真似てきた。

最近の日本の若者たちは海外留学にも行きたがらないというが、政府の方にも海外に学ぶという姿勢が足りないことの反映ではないのか・・・。

イ教授は寄稿文の最後をこう締めくくっている。

2021世界幸福報告書は、2018~2020年の幸福順位が日本は56位、韓国は62位で、両国共に所得水準に比べて低いと報告している。両国双方に必要なことは、単に所得を比較することを越えて、成長の果実がすべての人の元に返ってきて、人々がどれくらい幸せに生きていけるかどうかに神経を傾けることだ。

引用:ハンギョレ新聞

まさに、その通りだと思う。

こうして相手をリスペクトしながら切磋琢磨する日韓関係が築ければ、中国の支配下に飲み込まれることなく、世界の中で一定の役割を担う地位を保てるだろう・・・と私は考える。

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ちなみに、世界の覇者を目指す中国のランキングは73位、である。

13億人を超える全人口を豊かにすることは容易でないことを示す順位だが、テレビで見る中国大都市での超富裕層の急増ぶりは「豊かさとは何か?」という問いを私たちに突きつけてくる。

日本が徐々に貧しくなっている原因は、大企業が内部留保をため込んで賃金を上げないことにもあるが、最大の原因はやはり世界一の高齢化にあると私は考える。

総人口に占める65歳以上の比率、すなわち高齢率のランキングを見ると、日本は28%と断トツの1位。

2位のイタリアに5ポイントの差をつけている。

アメリカは16.21%で38位、韓国は15.06%で48位、中国は11.47%で64位であり、この差はものすごく大きい。

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高齢者が多いということはそれだけ国民全体の平均所得を下げるわけだが、日本の高齢者の中には収入は少ないが資産は持っているという人も多い。

だから世界90カ国以上を旅した私の皮膚感覚で言うと、日本はまだまだ相対的には豊かな国だと感じるし、何よりも地獄のような貧民街のない良い国だと思う。

格差が拡大したとはいえ、世界的に見ればまだ貧富の格差は少ない方だろう。

ただ高齢化によって新たなリノベーションを生み出す社会の活力を失ってきているのも事実であり、過去の財産を食い潰しながらじりじりと後退しているというのが現状は認めざるを得ない。

大切なのは、日本が今後どのような社会を目指すのかみんなで真剣に議論することである。

米中に伍して世界の大国であり続けたいのか、それとも北欧型の幸福度の高い社会を目指すのか?

私の考えは後者だが、果たしてみんなはどう考えるのだろう?

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