香港の人たちは、今どんな気持ちなのだろう?
巨大な“母国”が、本気で自分たちを飲み込もうとしている。

北京で開かれていた全国人民代表大会(全人代)は28日、反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定方針を採択した。
賛成2878票に対し、反対はわずかに1票、文字通り圧倒的な賛成多数で可決された。
これが中国である。
新型コロナウィルスの最初の震源地となった中国。一時は習近平体制を揺るがすかとも見られたが、徹底した対策によって短期間で封じ込めに成功したため、逆に共産党指導部の権威を高めた。
ネット上では「愛国」世論が政府批判する人を総攻撃していて、今は誰も習近平氏に反対できない。

香港では中国政府の支配に反対する市民らが抗議活動を行ったが、去年のような勢いはもはやない。
香港市内各所には、重装備の警官隊が警備に当たっている。
人間は、何度も絶望的な戦いに立ち上がることはできないのだ。
一般市民は、今もウィルスへの警戒心が強いため、抗議のために街頭に出ることはためらうだろう。去年のような100万人デモの再現は難しい。
若い活動家たちは、それでもまだ国際社会の支援を期待している。
しかし、去年も書いたが、彼らはきっと裏切られるだろう。
アメリカ政府は香港問題を理由に中国に制裁を課すと脅しをかけるが、戦争をしてまでも香港を守る意思はない。所詮はブラフに過ぎないことを中国も見透かしているため、中国政府は規定方針通り粛々と香港へのプレッシャーを強めていくだろう。
日本政府も懸念を伝えたが、本気で中国と事を構える気など毛頭ない。
歴史を振り返れば、香港が古くから中国の一部であったことは明白だ。侵略戦争によってイギリスに租借した領土であり、99年の租借期間が終わり、正式にイギリスから返還された。
イギリス人がやってくるまで香港はごく小さな漁村に過ぎなかった。そこには街さえなかったのだ。そのため、香港の人たちの多くは、植民地に生まれ事実上のイギリス人として育った。
こうした不幸な歴史が原因で、中国人にとっての正義と香港人にとっての正義が対立する、だから悲劇なのだ。
香港の若者たちには気の毒だが、天安門事件同様、早かれ遅かれ多くの香港人が故郷を捨て海外に逃れることになるだろう。
香港返還の時にも多くの香港人が海外に逃れた。
香港に残るのは、言論の自由よりも経済的な利益を重視する人たち、そして海外に逃れる金のない貧しい人たちだ。
民衆が権力を打ち倒す「革命」は、いくつかの条件が整わなければ達成されない。外国が武力介入するには、中国はあまりに強くなりすぎている。

しかし一方で、中国に飲み込まれようとしている香港の人たちの恐怖心は痛いほどよくわかる。
「もし日本がその立場に置かれたらどうか?」、そんなことを想像してみればいい。
日本人の多くは中国に対し漠然とした恐怖心を抱いているが、日本が本当に中国に占領されること、もしくは中国と戦争することをまともに考えたことがある人は少ないだろう。
その前にアメリカが助けてくれると思っている日本人も多いかもしれない。
今やアメリカと並ぶ世界の超大国になった中国。
毎年巨額の予算を軍事費に投じ、アメリカの軍事的プレッシャーにも対抗する構えを見せている。
多くの国内問題を抱えながらも、IT産業や宇宙産業といった先端分野からマスクのような日用品の生産まで、今や日本よりもずっと先をゆく強大な国になってしまったことを、今回の新型コロナ危機で私たちは目の当たりにした。
これからの日本人は、常に中国という存在を強く意識せざるを得なくなるだろう。
それは単なる経済問題ではなく、安全保障という面がより強くなると予想される。
現在の対中関係は、両者が懐の刀を隠しているので、表面上は穏やかな関係が続いている。このあたりは安倍総理のしたたかな部分でもある。ポスト安倍が誰になるにしても、安倍さんのように我慢強く、しかも言うべきことは言うという態度で中国に向き合うしかない。
中国からのプレッシャーは今後ますます強くなるだろう。
日本の保守勢力の中には、中国に対抗して日本も独自の軍事力を強化する必要があると主張する人たちがいる。確かに、アメリカ頼りの安全保障政策がいつか機能しなくなる可能性は頭に置いておかなければならない。その場合には、今とは桁違いの莫大な防衛予算が必要となるだろう。
左派の人たちは、いつも中国との協調を主張するが、日本が誠実にそれを願ったとしても、いつか必ず理不尽な要求を突きつけられる局面が訪れる。その時に、中国に擦り寄るのか、それとも・・・。
そうして香港の人たちの立場に身を置いて考えてみると、我々に与えられた選択肢は多くはない。
そして、香港の次は台湾、台湾の次は日本、日本の中でも沖縄である。
香港と違って、台湾は歴史的に中国の領土とは呼べない。日清戦争で日本の支配下に入った時も、漢民族が抑えていたのは海岸部分だけで内陸部は漢民族以外の原住民たちが割拠する島であった。
だが中華民国は戦後、台湾を自国の領土とし、それを現在の中華人民共和国が「一つの中国」という論理を持ち出して自国の領土と主張している。
沖縄についても、歴史的には微妙な存在だ。琉球王国時代、中国を宗主国としていたところへ薩摩が攻め込んだ。それ以来、中国と日本の双方に気を使いながら生きることが琉球に運命付けられた。
そして日本に正式に併合されたのは明治以降の話である。日本にも強く正当性を主張する論拠が乏しいのだ。
将来、尖閣諸島のみならずかつて琉球だったエリアの領有を中国が主張する日が来ると私は考えている。
その時、日本人はどのように対応するのか?

習近平さんが、いつまで中国のトップに君臨するのかはわからない。
しかしその権力は今や鄧小平さんを凌ぎ、毛沢東さんを意識していると言われる。
欧米諸国が台頭する以前の「世界最大の帝国」を目指しているされる習近平総書記。
香港を完全に吸収した次には、台湾の併合まで自らの手で成し遂げたいと考えていることは間違いないだろう。
台湾の併合となれば、激しい戦争も予測しておかなければならない。その時、日本やアメリカは台湾を本気で守るのか?
北朝鮮どころではない、東アジア全体を揺るがす大問題だ。
そうやって考えれば、香港の問題が、日本にとっても極めて重要な問題だということがわかる。
アメリカは、トランプ大統領も野党民主党も、中国との対決姿勢を強めている。多分に大統領選挙を意識したものだが、ウィグル人の人権問題やファーウェイの副会長の身柄引き渡し問題も絡んで米中の対立は今後危険水域まで高まる可能性がある。
その時、日本は中国に対してどのような態度で臨むべきか?
日清戦争の時、文明開化したばかりの日本が「眠れる獅子」と呼ばれた清に戦いを挑んだ。その頃の日本人たちの度胸には、今さらながらに驚かされる。
戦争嫌いの私から見ても、明治の日本人は、本当にすごい決断をしたものだ。
さて、私たちの世代や子孫たちは、どのように中国と付き合っていくのだろうか?
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