総選挙で絶対安定多数を確保し、いよいよ本格的に始動する岸田内閣。
しかしどうも様子がおかしい。

まず飛び出してきたのが、「18歳以下の子供に一律10万円」を支給するという気前のいい現金給付案。
選挙中に公明党が公約していた案である。
現金給付というと思い出すのが、去年安倍政権が実施した国民全員に10万円というバラマキである。
あの時、生活困窮者に30万円という自民党をまとめた取りまとめたのが当時の岸田政調会長だったが、安倍総理が公明党と組んで岸田案をひっくり返した。
私は岸田案の方がずっと良かったと思っているが、今回もまた公明党の公約に歩み寄るのだろうか?
今度は支給対象を子供に限定しているので前回よりはマシかもしれないが、本来ならば生活困窮者の救済に集中すべきだと思う。
それ以上に気になるのは、菅政権では表に出てこなかった一律現金給付というバラマキ案が岸田政権になった途端に息を吹き返してきたことだ。
「成長と分配」と繰り返しながら、具体的に出てきた政策がこれでは先が思いやられる。

菅政権が力を入れていた脱炭素社会に向けた行動も、早速足踏みをしそうな雲行きである。
選挙翌日に急遽イギリス入りした岸田総理は、わずか8時間の滞在し「アジアの脱炭素をめぐる技術支援に5年間で100億ドルを追加支援する」と訴え、一応体裁を整えた形だ。
しかし、このCOP26を前にして、日本政府は石炭火力の規制が強くなりすぎないよう働きかけていたとして名指しで批判された。
議長国のイギリスが、先進国などは2030年代、世界全体は40年代に石炭火力を廃止することなどを盛り込んだ声明を発表し46カ国が賛同したが、日本は賛同しなかったという。
国際的な環境NGOからは不名誉な「化石賞」に再び選ばれるのもやむをえないだろう。
石炭火力プラントの輸出に固執し温暖化対策に消極的だった安倍政権時代に逆戻りしたような反応の鈍さ。
「グリーン」を政策の柱に掲げながらも、岸田さんには本気で脱炭素社会に踏み出そうという意欲も具体策も感じられない。

確かに発展途上国では安価な石炭からの脱却は容易ではないだろう。
しかし、日本は石炭も海外からの輸入に頼っているのだから、そこにしがみつくことが得策とはどうしても思えない。
石炭に固執することで国際的なイメージを悪くする方がずっとマイナスなのではないかと思ってしまう。

さらに、再生エネルギーの技術で出遅れることが、日本企業の将来にとってもマイナスとなるのが気がかりだ。
もともと環境問題に神経質なヨーロッパ諸国はもちろん、中国も政府主導で大々的に太陽光や風力の導入を進めていて、巨額の投資によって自国の企業の競争力を高めている。
せっかく菅政権が本格的にグリーン政策に転換し、経済界もそれを歓迎していたのに、ここで再び政府がストップをかけたのでは10年後、20年後の日本は国際競争力を失ったただの年老いた国家に成り下がってしまうのではないか。

日本に優位性があった分野として、地熱発電がある。
火山国である日本にとって、地熱は優位性のあるエネルギー源だとずいぶん前から指摘され研究も進められてきた。
しかし、国立公園の問題や温泉業者の懸念もあって、なかなか地熱発電は実用化されない。
そうしている間に世界では日本とは違う地熱利用の技術が主流となろうとしているという。

それは「バイナリー方式」と呼ばれ、取り出した熱水で水より沸点の低い別の液体(例えばアンモニアと水の混合液)を蒸気化してタービンを回す技術だそうだ。
アメリカやトルコを中心に近年バイナリーの導入が進んでいるが、地熱発電機の分野で圧倒的なシェアを握っていた日本企業はバイナリーでは完全に出遅れている。
グズグズしている間に先行の利を失い、後発の国にシェアを奪われる。
他の分野でもこれまで何度も見てきた光景である。
いろいろと批判された菅政権だが、歴代政権に比べて圧倒的に仕事をする内閣だった。
おそらく菅さんが続投していたら、COP26での日本のスタンスも違ったものになっただろう。
明らかに自民党内の原発推進派が巻き返している。
ようやく進むかに見えたグリーン&デジタルの改革も、かけ声倒れの昔ながらの自民党政権に戻りそうな気がする。
岸田さんには、ぜひバラマキではない具体策を一つ一つ打ち出して実行していってもらいたい。
専門家会議ばかり立ち上げても、何も進まないことは過去を見れば容易に想像できるのだから・・・。
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