岸田内閣が昨日で政権発足から1年を迎えた。
結局、何もしないまま1年が過ぎてしまった感がある。
十八番である「聞く力」はいいが、聞いただけで何もしないのでは意味があるのか。
国葬と統一教会の問題で一時に比べて支持率が下がったとはいえ、いまだに4割の人が岸田内閣を支持しているというのだからこの国では何もしない方が好まれるらしい。

世論を二分した安倍元総理の国葬も終わり、ようやく臨時国会が始まった。
野党は国葬や統一教会の問題で政府を厳しく追及すると張り切っていて、当面その話ばかりが注目されることになるだろう。
所信表明演説に臨んだ岸田総理は、統一教会の問題について「国民の声を正面から受け止め説明責任を果たす」と述べたが、岸田さんの説明とは同じ話の繰り返しに過ぎず、国会でも堂々巡りになるに違いない。

総理就任当時によく口にしていた「分配」という言葉が所信表明から消えた。
代わって、物価高対策など目先の経済問題が演説の中心となったが、相変わらず「取り組みます」ばかりで具体策が何もない。
岸田さんが政治家には珍しく謙虚に人の意見を聞く人だということは認めるが、一国のリーダーとしては実行力こそが問われるのだ。
「数十年に1度といっていい大きな事態が次々と起こり、それに向き合ってきた1年だった」
岸田さんはこの1年を振り返ってそう語ったという。
しかし、コロナはすでにできた路線を踏襲、ウクライナは欧米追随、円安は放置では、ただ傍観していただけで自ら決定を下したのは安倍さんの国葬ぐらいと言われても仕方がないだろう。

そんな岸田政権1年の日に、北朝鮮からまたとんでもないプレゼントが届いた。
4日の午前7時22分ごろ、北朝鮮内陸部から1発の弾道ミサイルが発射され、日本上空を通過して太平洋に落下したのだ。
北朝鮮ミサイルの日本上空通過は5年ぶりのことである。
これを受けて日本政府は7時27分、北海道と東京都の島嶼部に「Jアラート(全国瞬時警報システム)」を発令した。

テレビ各局は一斉に特番体制に移行し、突然Jアラートの黒画面に切り替わりお茶の間に恐怖をもたらしたようだ。
我が家ではこの時間はテレビがついていなかったので、テレビ局のドタバタぶりを目撃することはできなかったが、個人的には北朝鮮のミサイルに関する報道は過剰だと常に感じている。
今回のミサイル発射は、現在行われている米韓軍事演習に対応するためのもので、これまでも演習のタイミングに合わせ毎回なんらかのミサイルを発射してきた。
無断で日本上空を通過するのはけしからんというのは間違いないが、北朝鮮は国連決議を無視する形である明確な意図を持ってミサイル開発を進めている。
中長距離ミサイルの実験を行おうと思えば、どうしても日本の上空を通過せざるを得ないのだ。

今回北朝鮮が発射した弾道ミサイルはこれまでで最も遠くまで飛び、飛距離は4600キロ、最高高度は1000キロだったと分析されている。
もし北朝鮮が本気で日本を狙う意思があれば、中国が台湾に対して行ったように、もっと刺激的な海域を着弾地点に設定するはずである。
北朝鮮が意識しているのはアメリカであり、今回の実験も明らかにグアムの米軍基地を意識したものだろう。
そうした冷戦な判断があったならば、ミサイルが無事に通過した段階で報道特番は早々に打ち切った方がいい。
何の新たな情報もないままに闇雲にJアラートの断片的な情報を繰り返すだけでは、国民を不必要に不安にさせてしまうだろう。
テレビ報道に関わっていた元テレビマンとしては、ダラダラと中身のない特番を繰り返す今のマニュアルをぜひ見直してもらいたいと思うばかりだ。

さらに今回は対象地域ではないエリアにまで「Jアラート」が出てしまうなどのミスも起きた。
7時27分の出された最初のJアラートでは、対象地域が北海道と東京都の島嶼部だったが、2分後の第2報では青森県と東京都に変更となり、7時42分には最終的に北海道と青森が対象地域となった。
しかし、ミサイルが日本上空を通過したのは7時28〜29分ごろと見られ、対象地域をめぐる混乱はシステムの信頼性に大きな疑問を抱かせた。
私は、発射直後は正確な方向が判断できず、幅広に北海道から東京に太平洋の至る広い範囲に注意を呼びかけたのかと理解したが、会見した松野官房長官は本来は東京都への発令は間違いだったと単なるミスであることを認めたのだ。
Jアラートが東京都に発令されたのは今回が初めて。
これを受けて東京都は直ちに危機管理対策会議を開催、小池都知事は「強い警戒感を持って対応を」と指示を行った。
実際に在日米軍の本部が置かれる横田基地は東京都にあるので、万一有事ともなれば東京がミサイルの標的となる可能性はとても強いため、間違いとはいえこうした訓練も時には必要だろうが、国民に無用の不安を与えたという意味では看過されるべき問題ではないだろう。

しかし、これから厳しい国会論議に臨む岸田さんにとってみれば、北朝鮮のミサイル騒ぎはやっぱりプレゼントかもしれない。
国民の関心が安全保障に向けば、すでに終わった国葬や旧統一教会の問題など瑣末なことだと風向きが変わる可能性もあるからだ。
年末にかけて大きなテーマとなる軍事費の増強にとっても追い風だ。
岸田さんのことだから、軍事費についても結局は増税には踏み切らず戦時国債の増発で先送りにしようとするだろうが、これこそ戦前の日本が犯した大失敗であり、危険な道に踏み込む第一歩となるだろう。

総理就任から1年にあたり、岸田さんが唯一決断したのは、長男の翔太郎氏を首相補佐官に任命することだった。
安倍さんの国葬に続く、岸田さん自ら決断したこの人事が新たな火種にならねばいいが。
岸田さんには息子以外、気楽に何かを頼むことのできる人が周囲にいないのだろうか。
そんなことを感じた岸田政権発足1年目であった。
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