<吉祥寺残日録>増税より怖い建設国債の流用!戦前の反省から守ってきた防衛費の歯止めが密かに外されていく #221224

今日はクリスマスイブ。

そしてロシアがウクライナに侵攻してからちょうど10ヶ月が経った。

21日、軍事侵攻後初めてウクライナを離れ電撃訪米したゼレンスキー大統領に対し、バイデン大統領は迎撃システム「パトリオット」の提供を含む2400億円規模の新たな軍事支援を約束した。

厳しい冬を迎えたウクライナ各地ではロシアによるインフラ施設に対するミサイル攻撃が続き、電気やガスが失われた状況の中で多くの人が暮らしている。

これに対してプーチン大統領は、パトリオットを破壊すると強気の姿勢を崩さず、早ければ年明けにも新たに動員した予備役の訓練が終了し、再び大規模な軍事作戦が始めるとの観測も流れる。

短期決戦を狙った戦争が指導者の思惑通りには進まず長期化し、多くの一般市民を巻き添えにするというケースは歴史上枚挙にいとまがない。

長期化に伴って、ロシアの兵器不足や西側の支援疲れもからみ、戦争の行方は全く予想することができない状況に陥っている。

こうして終わりの見えないウクライナでの戦争は、世界の安全保障に対する考えを根底から覆した。

ロシアの脅威に直面するヨーロッパではNATOの存在感が飛躍的に高まり、各国がGDPの2%を軍事費に充てるという合意が一気に現実化し始めている。

このGDP2%という数字はダイレクトに日本にも飛び火した。

長年GDP1%という上限をはめられていた日本の防衛予算は、しっかりとした議論もないままにパンドラの蓋を開けられようとしている。

「GDP2%」という数字自体には戦争を抑止する確たる根拠はない。

しかし「右に倣え」と世界の潮流に身を任せることは政治リーダーたちにとって最も簡単な決断であり、ひとたびそう決めてしまえば、後はその金をどこから調達するかを考えるだけである。

政府は23日、一般会計で過去最大となる114兆3800億円の来年度予算案を決定した。

このうち防衛費は6兆7900億円と大幅に増額。

ずっと5兆円程度で推移してきた日本の防衛費は、5年間で43兆円、GDPの2%という目標を目指して、来年度予算から一気にそのステージが上がることになる。

さらに防衛力の整備のために特別会計の剰余金などを基に創設される「防衛力強化資金」として3兆3800億円が確保されている。

しかし、目標とする金額だけが先行して、この予算を使って実際に何が行われるのかまだよくわからない。

この予算案が審議される通常国会ではその使い道や必要性について野党からの追及が予想されるが、国防という機密のベールに隠されて、具体的にどのようにこの予算が使われるのか国民に対してはっきりとした説明は行われないのだろう。

「防衛力抜本的強化『元年』予算」と銘打った予算の中身を報道から見ておこう。

防衛省は過去最大の6兆8219億円となった防衛関係費(米軍再編経費などを含む)を「防衛力抜本的強化『元年』予算」と銘打った。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、有事で戦い続ける「継戦能力」を重視した。

防衛費はこれまで国内総生産(GDP)比の1%を目安に抑えてきた。戦闘機や艦艇などの正面装備の取得を優先し、弾薬の確保や装備品の整備にしわ寄せが及んでいた。増額を機に防衛予算の使い道を転換する。

弾薬の整備費は契約ベースで8283億円を計上した。2022年度当初予算と21年度補正予算の合計(2480億円)と比べて3.3倍に増やした。弾道ミサイル防衛に使う迎撃弾は必要量の4割程度が不足しており取得が急務だ。

部品不足も深刻で、防衛装備品の3割弱が稼働していない。維持整備費に1.8倍の2兆355億円をあてた。戦闘機や艦艇などは動かなければ戦力にならない。5年以内に非稼働を解消する。

有事で自衛隊の部隊や施設への被害を最小限にとどめる取り組みも進める。陸上自衛隊の那覇駐屯地(那覇市)や健軍駐屯地(熊本市)で司令部を地下に設置する。

弾薬や燃料、通信、衛生などの後方支援拠点になる陸自の補給支処を沖縄本島の沖縄訓練場に新設する。九州南端から台湾に至るまでの南西諸島に補給処・支処がなかった。台湾有事に備え、迅速な部隊支援や輸送負担の軽減を目指す。

防衛力の強化策は7本柱からなる。①スタンド・オフ防衛能力②統合防空ミサイル防衛能力③無人アセット防衛能力④領域横断作戦能力⑤指揮統制・情報関連機能⑥機動展開能力・国民保護⑦持続性・強靱(きょうじん)性――だ。

継戦能力の向上は主に「持続性・強靱性」の施策となる。陸海空の3自衛隊の「領域横断作戦能力」を高めるため、フィンランド・パトリア社製の装輪装甲車の26両取得で136億円、警戒監視に特化した哨戒艦の4隻建造で357億円を盛った。

戦闘の新領域となるサイバー分野は専門人材を育成するため、陸自の通信学校(神奈川県横須賀市)を「陸自システム通信・サイバー学校」に改編する。

引用:日本経済新聞

トマホークの購入など「反撃能力」ばかりが注目されるが、那覇駐屯地などの地下司令部建設や沖縄訓練場への補給支処新設など「継戦能力」向上のための軍事拠点整備にも巨額の予算が使われるらしい。

岸田総理は「今を生きるわれわれが未来の世代に責任を果たすためにご協力をお願いしたい」と国民に対して防衛費のための増税を呼びかけたが、案の定、評判は芳しくない。

多くの国民が防衛強化には賛成しつつも、自分たちの懐が痛まない形でやってほしいという非現実的な意見が大勢のようだ。

こうした世論の動向を見据えて、岸田さんの決定を批判する政治家やメディアも目立つ。

でももしも日本がこれまでの範囲を超えて国防に力を入れるのであれば、やはり増税は避けて通れない道なのだとみんなが共通認識を持つ必要がある。

戦後の日本は、安全保障をアメリカに依存する道を選び、国民の税金は主に経済成長につぎ込んできた。

しかし隣国・中国が猛烈な勢いでアメリカに迫る軍事大国に成長し、武力による台湾併合も辞さない姿勢を強める中で、戦後77年目にして日本人も自らの力で自国を守る必要に迫られたのだ。

しかし、増税を嫌がる世論に迎合するように、安倍派を中心に防衛費を国債で賄おうという主張は根強い。

そして、いつの間にか建設国債を防衛費に流用するという道筋が出来上がっていた。

新たに発行する建設国債を、自衛隊の施設整備費や艦船の建造費に当てるというのである。

戦前の日本で、軍事費を戦時国債によって捻出したことで、軍拡に歯止めがかからなくなった歴史への反省から、戦後の日本では防衛費には国債は使わないという不文律が守られてきたが、何の議論もないままに増税論議のどさくさに紛れるように重要な歯止めが打ち壊されようとしているのだ。

誰だって増税は嫌に決まっている。

しかし増税は一人一人に痛みが伴うだけ抑止力が働く。

ところが一旦、国債すなわち借金で賄うことが許されてしまうと、現在の納税者には目に見える痛みが出ないため自ずと世論が関心を持たないままに防衛費がどんどん増えていってしまう危険性があると私は危惧している。

もしも防衛費を増強するのであれば、国民全員が痛みを感じるような増税で行うべきだ。

それが歴史の教訓であり、それを平気で破ろうとする人たちは何を目指しているのか知りたくなった。

そこでネットで少し調べていると、ある記事に行き当たった。

『防衛費の財源として「建設国債」が使える「これだけの理由」 青山繁晴と高橋洋一が指摘』

ニッポン放送のラジオ番組で放送された発言内容をまとめた記事らしい。

青山氏は自民党の参院議員、高橋氏は安倍シンパの経済学者である。

この記事の中で、高橋氏はこんな話をしている。

何でもそうなのですけれど、防衛の話ですから、将来にわたって便益があるわけです。いまだけではなく、将来にわたって便益があるものは、実は「建設国債」なのです。防衛省はないと言うのだけれども、防衛省の会計課長に財務省の人間が行っているから、予算要求がなかっただけです。

予算要求すればできます。海上保安庁は国土交通省ですけれども、国土交通省は平気で予算要求をしているから、海上保安庁の巡視船は建設国債の対象経費になっているのです。

「要求するか、しないかですよ」という話をしました。要求すれば海上保安庁の船が建設国債の対象経費になるのに、なぜ海上自衛隊は違うのかと聞かれたら、理論がないでしょう。

将来にわたって便益のあるものは国債で対応できるという話は、ずいぶん前から言っていました。安倍さんは「防衛国債」という言い方をされましたが、これは普通です。

要するに建設国債というのは、予算書の総則のところに表があって、各省ごとに「これは建設国債」と書いてあるのです。その表に防衛省は書いていないというだけです。だから防衛省の欄を1個設けて、そこに書き込めばいいのです。

単純な話、予算総則に1表を書き込んでおくだけなのです。私は人工衛星を建設国債の対象経費にしたこともあります。人工衛星は上部を取り換えるとミサイルになるでしょう。ロジカルではそこまでできるのです。

引用:ニッポン放送

全く、ひどい話だと感じた。

こんな人が安倍政権でアドバイザーをしていたのだ。

そこにはどのようにして戦争を防ぐかとか、戦前のような軍部の暴走をいかにして止めるかという発想が全くない。

国防強化は必要なんだから、何にでも使える建設国債を防衛費にも使えるようにすればいいというテクニック論だけを語っているのだ。

高橋氏も関与する形で長く続いてきたアベノミクスでは、政府がどんどん国債を発行し、その大半を日銀が買い取るという打ち出の小槌が魔法のように使われてきた。

その結果、今月発表された最新のデータによれば、発行済みの日本国債の5割を日銀が保有するという世界でも例を見ない歪な構造が出来上がってしまった。

デフレ脱却という大義名分を掲げて日銀がいくらでも国債を買ってくれるこの異常な構造は、政府に現実逃避する甘えを生んだ。

歳入が足りなくてもいくらでも国債で賄えばいい。

国民に現金をばら撒いていい顔して、厳しい改革は全部先送り、目の前の選挙に勝てれば将来のことはどうでもいい、そう考えているとしか思えない内向きで近視眼的な発想にしか思えない。

中央銀行が国債の半分を握るとこの先何が起きるのか、誰か専門家に教えてもらいたいぐらいだ。

戦後の日本が歯を食いしばって痩せ我慢してきた最低限の歯止め。

ひとたびこの歯止めを失えば、軍備拡張論者はあらゆる口実を駆使して大量の国債を発行し、国民の預かり知らぬところで勝手に防衛費を膨らませていくだろう。

これは日本に限らず古今東西どこでも行われてきた悲劇である。

敵の脅威を大声で主張し国民の不安を煽り、冷静な判断力を奪っていく。

軍事機密に守られた防衛費には必ずブラックボックスが付き纏い、国民だけでなく政治家のチェックも及びにくい。

そしてそのブラックボックスの中で暴利を貪る人間が必ず現れるのだ。

増税であれば国民の理解を得なければ進められない。

しかし国債ならば永田町や霞ヶ関の小さな世界の根回しで実現してしまう恐れが高い。

だから国防を国債でやってはならないのであり、それこそが歴史の教訓なのである。

<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 100分で名著「カント “永遠平和のために”」 #220427

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