<吉祥寺残日録>地球のために今するべきことは、経済成長ではなく生活のダウンサイジング #211110

先日の総選挙の結果を受けて、今日特別国会が召集された。

「成長と分配の好循環」を掲げる岸田さんが第101代の総理大臣に選出されたが、真っ先に打ち出した政策は公明党が公約に掲げていた18歳以下の子供たちに1人10万円相当の給付を行うことだった。

日本が抱える最大の課題が超高齢化だということを考えれば、将来の社会保障を担う若い世代を大切にする、すなわち子育て世帯を助けることは理にかなっている。

しかし、一時的に10万円をバラまいても本質的な問題解決にはならない。

高齢者がみんな年金をもらっているように、働いていない子供たちが恒常的に政府からお金を受け取れる仕組みがあってもいいぐらいだと個人的には思う。

とはいえ、財源の問題がまったく語られることなく、コロナを口実にして気前のいい話ばかりが先行することには不安もある。

公明党は所詮、自らの支持者に金銭をばら撒いて自画自賛したいだけなのだから。

岸田総理が唱える「新しい資本主義」がどんなものなのか、まだ何も見えてこない。

「成長の果実を一部の者が独占するのではなく、広く分配されるべきだ」という建前には異論はないし、ぜひそんな社会を実現してもらいたいと思うのだが、これだけ年寄りが多くなると、どうしても社会保障費ばかりが膨れ上がり必要な政策に使えるお金が出てこないのだ。

仕方なくプライマリーバランスの話を後回しにして、赤字国債に頼ろうとする。

今は100年に一度のコロナという非常時だから仕方がないと、何でもかんでもコロナを口実にして支出を増やそうとするのだが、コロナが収束すれば今度は首都直下地震だ、富士山噴火だと次々に非常事態の口実を作っては人気取りのためのバラマキをしようとするのだ。

確かに国民の懐が暖かくなって、みんながどんどん消費することになれば、税収も増えてプライマリーバランスも改善する。

でも、それは本当なのか?

安倍総理が吹聴してきた成長神話には重大なウソが隠されていると私は考えている。

アベノミクスとは、異次元の超低金利と財政出動によって株価を吊り上げ、いかにも経済成長しているように見せかけることだった。

「人生100年時代」という言葉をまるで夢のある話のようにでっち上げ、超高齢化社会がもたらすマイナス面から人々の目をそらそうとしている。

「人生100年時代」なんて、ちっともいいことじゃない。

「長寿=幸福」が嘘っぱちであることは、近くの老人ホームを覗いてみればすぐにわかる。

自分は将来、ああいう施設で長生きしたいか?

私は、ノーである。

先日「アナザーストーリーズ」という番組で、30年前のイトマン事件を取り上げていた。

個人的には直接関係していないので、許永中の顔ぐらいしか覚えていなかったが、バブル時代を象徴するこの事件のきっかけは住友銀行から中堅商社「イトマン」の社長になった河村良彦氏にあった気がする。

河村社長は、「大前年比」の数字にとにかくこだわったという。

売り上げや利益で常に前の年を上回ることを全社員に強く求めた。

歴史ある繊維商社だったイトマンが、次々に新しいビジネスに手を広げていったのもこの「対前年比プラス」を達成し、増収増益を達成するためだった。

私が勤めていたテレビ局でも、ある時から「対前年比」という言葉をよく聞くようになった。

それまで丼勘定だった会社が、月次決算を行うようになり、現場に対しても予算を守ることが徹底されるようになる。

それまでは、いい取材をしていい番組を作ることが評価につながっていたが、この頃から予算管理やコンプライアンスといった管理的な業務がどんどん増えていった。

おそらくバブルの反省から生まれた時代のキーワードだったのだろう。

しかしこの頃からテレビは面白くなくなった気もする。

似たような番組が増えて、危ない現場には人を出さなくなった。

番組の出来よりもお金のことで責められることも増えていった。

職人よりも商売人が求められる時代に入ったのだ。

「対前年比」にこだわったイトマンの河村社長が、最も確実に対前年比プラスを達成できるものとしてのめり込んでいったのが土地取引だった。

バブル全盛期の狂乱の中で、イトマンには怪しげな人物が出入りするようになる。

住友銀行から紹介された伊藤寿永光や許永中。

こうした得体の知れないブローカーたちがイトマンから巨額の資金を引き出していく。

「成長」という耳障りの良い言葉には、「成長」の名の下に無理が通り道理が引っ込む面もある。

アベノミクスの主役となった日銀の異次元緩和は今も続いている。

果たしてどうやって出口を見つけるのだろう。

今国会から、細田さんを衆院議長に祭り上げて、安倍さんが派閥の会長に戻ってくるという。

最大派閥・安倍派の誕生である。

コロナ禍の最中で体調を壊し、一番しんどい時期を菅さんに交代してもらった安倍さんは、三度目の再登板を狙っていると言われる。

安倍さんが総理を辞める時、私は「安倍さんは死んでいない」と書いたが、予想通りすっかり元気になってしまったようだ。

今のところ、岸田さんが意地を見せて、安倍傀儡と呼ばれないよう人事も工夫しているようだが、人のいい岸田さんが果たして安倍さんを封じられるかどうか、私はとても心配だ。

しかし問題なのは、永田町の権力争いなどではなく、地球レベルで考える私たちの未来の話である。

先週末、NHKスペシャルで「グレート・リセット〜脱炭素社会 最前線を追う〜」という番組をやっていた。

内容的には既視感のある今ひとつの番組だったが、その中で興味深い一冊の本が紹介されていた。

「DRAWDOWN THE MOST COMPREHENSIVE PLAN EVER PROPOSED TO REVERSE GLOBAL WARMING」

22か国、70人の研究者が結集して、80種類の地球温暖化対策について、どれくらい二酸化炭素を減らせるか徹底検証した本である。

その結果、太陽光や風力などへのエネルギー転換が強調されてきたが、他にもいろいろな脱炭素の対策がありえることがわかったという。

チームは、様々な対策ごとに今後30年間に削減できる二酸化炭素量を計算し、ランキングにまとめた。

その結果は、こんな順番になったのだ。

  1. 冷媒 897(億トン)
  2. 風力発電(陸上) 846
  3. 食料廃棄の削減 705
  4. 植物性食糧を中心にした食生活 661
  5. 熱帯林 612
  6. 女児の教育機会 596
  7. 家族計画 596
  8. ソーラーファーム(大規模太陽光発電) 369
  9. シルボパスチャー(林間放牧) 311
  10. 屋上ソーラー 246
  11. 環境再生型農業 231
  12. 温帯林 226
  13. 泥炭地 215
  14. 熱帯性の樹木作物 201
  15. 植林 180
  16. 環境保全型農業 173
  17. 関作林 172
  18. 地熱 166
  19. 管理放牧 163
  20. 原子力 160
  21. クリーンな調理コンロ 158
  22. 風力発電(洋上) 140
  23. 農地再生 140
  24. 稲作法の改良 113
  25. 集光型太陽光発電 109
  26. 電気自動車 108
  27. 地域冷暖房 93
  28. 多層的アグロフォレストリー 92
  29. 波力と潮力 92
  30. メタンダイジェスター(大型) 84
  31. 断熱 82
  32. 船舶 78
  33. 家庭用LED照明 78
  34. バイオマス 75
  35. 竹 72
  36. 代替セメント 66
  37. 大量輸送交通機関 65
  38. 森林保護 62
  39. 先住民による土地管理 61
  40. トラック 61

1位の「冷媒」とはエアコンや冷蔵庫で使う冷媒を炭素を出さないものに変えることだという。

温暖化対策の象徴とされる電気自動車は26位と、順位がそれほど高くない。

そして番組が注目していたのは、3位の食料廃棄の削減と4位の植物性食糧を中心にした食生活

多くの人が今の食生活を見直すことで、風力や太陽光発電に匹敵する量の二酸化炭素を減らせるということだ。

現在イギリスで開かれている「COP26」は閣僚級会議が始まっている。

議長国のイギリスは、2040年までに世界中でEVなどの「ゼロエミッション車」に移行するとする宣言を進めようとしていて、すでに24か国が参加を表明した。

カナダ、オーストリア、イスラエル、オランダ、スウェーデンなどの国に加え、アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州など38の地方政府や都市も加わり、さらに米ゼネラル・モーターズやフォード、独メルセデス・ベンツなど自動車大手6社が賛同したという。

これに対して日本は、35年までにすべて電動車にする方針は打ち出しているが、その中にはハイブリット車を含める計画で、世界的なEVシフトには戸惑いを見せている。

各国政府の脱炭素議論を聞いていると、どうもエネルギー転換や電気自動車にばかり目が行っているように見えるのだが、本当に必要なのは私たちの生活をダウンサイズすることなのではないかと思えて仕方がない。

上記のランキングをよく眺めて見ると、私たちの暮らし方や農業・牧畜の仕組みを見直すことが極めて有効であることがわかる。

飽食をやめ、無駄な消費をせず、質素で健康的な生活を送ること。

特に日本人には、アメリカ型の大量消費社会を追いかけるのではなく、先祖が心がけてきたような自然と共生した身の丈にあった生活をする方が向いていると思う。

世界の中でも幸福度が高く、一人当たりのGDPもトップレベルに位置する北欧型の社会を目指すべきではないのか。

高い消費税を受け入れる代わりに、教育、医療、介護など生活に不可欠な公共サービスは政府が責任を持つ社会。

将来の不安が軽減されると、人間の幸福度は上がるようだ。

北欧諸国を訪ねていつも感じるのは、街の様子や人々の暮らしが日本よりも質素なことだ。

アメリカや中国で目に付く超高層ビルやバブリーな場所が存在しなくても、人は幸せになれるのである。

今こそ、日本的な価値観に立ち返る時であろう。

このところ、値上げのニュースが連日賑やかだ。

原油価格が国際的に高騰し、他の資源や食糧も値段が上がっていて、中国では卸売物価が10%も上昇したという。

メディアでは庶民生活を直撃する大問題と報じているが、原油価格の高騰はひょっとすると一番の温暖化対策になるかも知れない。

高くなれば人は購入を断念する。

車での遠出も控えるし、原油から作られる衣服も買わなくなるだろう。

もっともっと原油価格を高くして、人間の活動を抑えることができれば、きっと地球や将来世代にとっては望ましいことなのだ。

人類の数が増えすぎたことこそ温暖化の原因、そう考えれば、問題視されている少子化も地球にとっては良いことであるに違いない。

会社を辞めて、体重とともに生活もかなりダウンサイジングしてきた。

それでも幸福度はむしろ上がった気がする。

対前年比でGDPの上昇を目指す「成長」に固執するよりも、一人一人が自分の生活を見直して本当に大切なもの以外を捨てる「ダウンサイジング」の方がひょっとすると幸福への近道なのかも知れない。

それは間違いなく、地球にとって良い方向である。

<吉祥寺残日録>岸田政権で再び停滞しそうな日本の脱炭素社会への道 #211105

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