香港民主化運動のシンボルだった周庭さんが有罪判決を受けて収監された。

判決は禁錮10ヶ月、容疑は無許可集会扇動罪である。
有罪判決を言い渡された時、周庭さんは涙を流したという。
純粋な気持ちから民主化を求め、いつの間にかリーダー的な存在となっていた。
自分だけ逃げるわけにはいかない。
彼女の気持ち、置かれた立場は痛いほどわかる。
同じく民主化運動のリーダー黄之鋒氏は禁錮13ヶ月、林朗彦氏は7ヶ月だった。
中国当局は、彼らを国家安全維持法でも起訴する可能性もあり、もしそうなれば最高刑は無期懲役となる。
新型コロナウィルスが世界中で猛威をふるい、中国に圧力をかけてきたアメリカでは大統領選挙の混乱と分断が続く中で、中国はもはや「衣の下の鎧」を隠そうともしなくなった。
今、中国に対して真正面からダメージを加えられる国はない、そう読み切っているのだろう。
中国国内では、政府によるコロナ対策が評価され、経済的に苦しむ各国を他所に、一人V字回復を謳歌していると伝えられる。
中国国内では習近平独裁体制はますます強固となり、香港に対する同情の声はほとんど聞こえてこない。
2019年の年越し、私は香港で迎えた。
わずか2年のうちに、香港の一国二制度がここまで完膚なきまでに叩き壊されるとは想像もしていなかった。
しかし当時すでに、香港が中国化しつつある現実を私は目の当たりにして驚いたことを今も鮮明に覚えている。

この時私は、2018年10月に開通したばかりだった「港珠澳大橋」を渡った。
香港とマカオ、そして中国本土の珠海を結ぶ世界最長40kmの橋である。
中国政府はこの橋の建設に2兆円を費やした。
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中国の高速鉄道が香港まで伸びたのが2018年9月だった。
翌年6月に香港から深圳に行った際、この高速鉄道を利用してみた。
広州・深圳・香港を結ぶ「広深港高速鉄道」の香港側の起点となる「香港西九龍駅」は、香港・九龍地区のど真ん中に作られたが、駅の中に国境線が設けられ、黒と黄色のラインがはっきりと描かれていた。
香港の中心部まで中国の行政権が侵食してきた、黒と黄色のラインはまさに香港の中国化の象徴だと私は感じた。
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そしてこの頃には、香港で激しい抗議デモが連日続いていて、周庭さんたち若者は強まる中国の支配に必死で抵抗していた。

私も集会が開かれるとされる立法院に行ってみたが、そこに集まっていた若者たちには高揚感よりも悲壮感のようなものをすでに感じていた。
天安門事件のリーダーたちがみんな国外に逃亡したように、香港のリーダーたちもいずれ同じ運命を辿るとの予感があった。
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そして今年、「香港国家安全法」が北京で可決された日に、私はブログにこんなことを書いている。
『 香港では中国政府の支配に反対する市民らが抗議活動を行ったが、去年のような勢いはもはやない。
香港市内各所には、重装備の警官隊が警備に当たっている。
人間は、何度も絶望的な戦いに立ち上がることはできないのだ。
一般市民は、今もウィルスへの警戒心が強いため、抗議のために街頭に出ることはためらうだろう。去年のような100万人デモの再現は難しい。
若い活動家たちは、それでもまだ国際社会の支援を期待している。
しかし、去年も書いたが、彼らはきっと裏切られるだろう。
アメリカ政府は香港問題を理由に中国に制裁を課すと脅しをかけるが、戦争をしてまでも香港を守る意思はない。所詮はブラフに過ぎないことを中国も見透かしているため、中国政府は規定方針通り粛々と香港へのプレッシャーを強めていくだろう。
日本政府も懸念を伝えたが、本気で中国と事を構える気など毛頭ない。
歴史を振り返れば、香港が古くから中国の一部であったことは明白だ。侵略戦争によってイギリスに租借した領土であり、99年の租借期間が終わり、正式にイギリスから返還された。
イギリス人がやってくるまで香港はごく小さな漁村に過ぎなかった。そこには街さえなかったのだ。そのため、香港の人たちの多くは、植民地に生まれ事実上のイギリス人として育った。
こうした不幸な歴史が原因で、中国人にとっての正義と香港人にとっての正義が対立する、だから悲劇なのだ。
香港の若者たちには気の毒だが、天安門事件同様、早かれ遅かれ多くの香港人が故郷を捨て海外に逃れることになるだろう。
香港返還の時にも多くの香港人が海外に逃れた。
香港に残るのは、言論の自由よりも経済的な利益を重視する人たち、そして海外に逃れる金のない貧しい人たちだ。
民衆が権力を打ち倒す「革命」は、いくつかの条件が整わなければ達成されない。外国が武力介入するには、中国はあまりに強くなりすぎている。』
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香港の若者たちが救いの手を求める西側先進国は、どこも新型コロナウィルスとの戦いで全勢力を奪われている。
頼りのアメリカに至っては、大統領自ら民主主義を破壊し、国民に対しフェイクニュースを発信し続けている。
今は誰も助けてはくれないのだ。

そんな中、中国の無人探査機「嫦娥(じょうが)5号」が月面への着陸に成功した。
計画通り月面の土壌を持ち帰れば、アメリカ、ロシアに次いで中国が3番目の国となる。
2030年までにアメリカに並ぶ「宇宙強国」となる目標を掲げる中国。
世界の混乱を横目に、その野望は着々と前進している。
考えてみれば、ドローンや電気自動車の技術では世界最高の技術力を有する中国、IT分野でもアメリカに対抗できる実力を蓄えていて、宇宙開発も国家プロジェクトとして莫大な予算を投入している。
中国にとって、「宇宙=軍事」であり、科学技術予算に頼る日本とはスケールがまったく違う。
なかなか綻びが見えない習近平体制が果たしてどこまで独裁色を強め、世界秩序を揺るがすのか、今もって予測がつかないものの不気味さは確実に高まっている。

そういえば、数日前に見たドキュメンタリー番組がとても興味深かった。
私が大好きなプロダクション「テムジン」が制作し、NHKのBSで放送されたBS1スペシャル「真実への鉄拳〜中国・伝統武術と闘う男〜」という番組だ。
総合格闘技で闘う一人の男が、動画サイトを舞台に次々に中国の伝統武術の達人たちを倒していくのだが、ある日突然当局から目をつけられ弾圧されるのだ。
中国では愛国心高揚のために中国武術を奨励していて、その権威を揺るがす男を当局が排除しようとしたのだと見られている。
中国では今、キリスト教の弾圧も始まっていると聞く。
キリスト教徒の数が急速に増え、共産党員の数を上回る危険性が出てきたからだという。
真偽のほどはわからないが、中国共産党や習近平体制にとって危険な芽となりそうな人物や団体は徹底して弾圧される状況が生まれつつあるのかもしれない。
中国では昔から、「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉がある。
権力に対して歯向かうわけではなく、上手に骨抜きにして自らの生活を守る庶民のしたたかさを表した言葉と理解しているが、逆にいえば中国では常に皇帝のような絶対権力者がいて、庶民もそれを受け入れる土壌があるということだろう。
そうした中国に対し、菅政権は中国からのビジネス客の入国受け入れを再開した。
日本を訪れる中国人の中には、防護服を着てやってくる人たちもいる。
彼らは日本には自由に入れても、母国に帰ると2週間の待機が義務付けられているという。
香港問題については口頭で形式的に触れるだけ。
周庭さんが連帯と助けを求めてきた日本は、今後この中国とどう向き合っていけばいいのだろうか?
そして、独裁化が強まる世界の中で、「民主主義」はこのままずるずると衰退してしまうのだろうか?
アグネス頑張ってほしいです。
がんばれー!
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