7月10日に行われる参院選、今日が公示日である。
この選挙が終わると3年間大きな国政選挙がないという意味ではとても重要な分岐点となる選挙なのだが、残念なことに「投票したい政党」が見当たらない。
各党の主張を聞いていても、物価高対策や消費税引き下げ、防衛費の増額といった目先のことばかりで、日本をどんな国にしていくのかという大きなビジョンや議論が欠けているように感じる。

私は日本が抱える最大の課題はやはり世界一の超高齢化だと思う。
国家予算の多くを社会保障費と借金の返済に充てるこの国では、未来に向けた投資にまで手が回らない。
そうした状況を長年放置してきたツケが国力の衰えに繋がっているというのが私の問題意識である。
これだけ政党があるのだから、その中に北欧型の高負担高福祉型国家を志向する政党があれば私はその政党に一票を投じるだろう。
しかし野党はどこも消費税の引き下げや廃止、さらには国民一律での現金給付といった目先の利益で国民を欺くような政策ばかりを掲げていて、これでは与党の方がマシに見えてしまう。
国民一人あたり1000万円も借金をしていても、政治家たちがこぞって大盤振る舞いをやめようとはしないのは民主主義の最大の欠陥のように見えてしまう。
では与党に票を投じるかといえば、とてもそういう気分になれない。
岸田自民党は安倍さん時代のようなギラギラした野心が見えない分、安心感は与えるが、自民党内では今も右翼的な主張を堂々と叫ぶ保守派が力を持っていて、もしこの参院選で与党が圧勝すれば憲法改正だけでなく日本の急速な右旋回も懸念されてしまう。
そうしていろいろプラスマイナスを考えていると、「投票したい政党」がまったく見つからず困惑してしまうばかりである。

日本経済新聞の世論調査によれば、一般有権者の関心は年代ごとに自らの生活に直結した分野に集中し、現役世代は景気対策、高齢者は年金・医療ということになり、日本の将来といった私が考えるような大きなテーマに基づけて投票する人はほとんどいないようだ。
だから政治家たちも有権者が興味を示しそうな目先のエサばかり公約に掲げるのだ。
日本の政治の稚拙さは有権者である私たちの稚拙さに他ならない。
私たちはどんな社会で暮らしたいのか?
どんな価値観を大切にしたいのか?
そういう私にとって最も重要なテーマは日本の選挙ではあまり省みられることはないらしい。

超高齢化という日本が抱える最大の課題に向き合うためにはどのような政策が話し合われるべきなのだろう?
思いつくままに羅列しただけでも、さまざまなアプローチが必要になる。
- 安定した老後を支える財源の確保
- 少子化対策
- 若者世代の所得アップ
- 外国人移民の受け入れ
- 尊厳死・安楽死の普及
まず何と言っても、財源の問題は本来避けて通れない。
そのためには最低ヨーロッパ並みに国民負担率を上げる必要があると私は考える。
世界一、それもぶっちぎりで高齢化している国が、広く国民に負担をお願いすることなくいたずらに借金を積み上げているのはあまりにも無責任である。
仮にこの高齢化が一時的な現象であるならば、借金で賄うというのも一つの手段だろう。
しかし日本の人口ピラミッドを見れば、今後も子供の数は減る一方で、逆三角形の不安定な形が解消する見込みは全くないのだ。
であるなら、受益者である高齢者も含めみんなで必要なお金を負担するしかない。
それによって将来の安心が得られるならば、多く税金を取られたとしても人間の幸福度は高まるということを高負担高福祉の北欧諸国が教えてくれている。

政府は少子化対策を強化しようとしているが、これは高齢者にかかる費用を削るような政策は選挙に不利だからだ。
しかし少子化を食い止めるのは非常に難しい。
出産や子育てにかかる費用を補助したからといって、若者たちが結婚し子供を設けるという話には結びつかないだろう。
これは生き方の問題であり、価値観が多様化する中で国家が強制できる問題ではない。
もしも高齢者を支える現役世代を増やしたいならば、即効性があるのは移民を受け入れることだ。
「日本は単一民族国家である」という日本社会に根づいた神話のようなものが生理的に外国人の受け入れの障壁となってきた。
あれほど「インバウンド」で大騒ぎして「おもてなし大国」を装ってみても、日本に住みたい外国人に対して日本という国は恐ろしいほど冷たい。

先日放送されたNHKスペシャル「夢見た国で〜技能実習生が見たニッポン〜」。
長年その欺瞞性が指摘されながら、政治家もメディアも真正面から取り上げてこなかった日本の醜い一面をしっかり伝えるドキュメンタリーだった。
技能実習制度は1993年に導入され、まもなく30年が経つ。
その大義名分は「日本の技能、技術、知識を途上国へ移転させ経済発展の人づくりを行う」という国際協力の一環とされる。

番組のオープニング、日本での研修に夢を膨らませるベトナム人女性ティエンさんの言葉から始まる。
『日本は文明国・先進国で法律もちゃんとしている。日本に行ける日が待ち遠しくてワクワクしていました。どうしても日本で技能を身につけたかった』
真っ直ぐカメラを見て夢を語っていたティエンさんは、すぐに日本に失望する。
低賃金長時間労働の現場に送り込まれ、毎日怒られながら奴隷のように単純労働に明け暮れる日々。
受け入れ企業と技能実習生の間を取り持つ監理団体は、顧客である企業には何も言えず違反行為があっても見て見ぬふりである。
技能実習制度に深く関わってきたある官僚が匿名で語った。
『ある種の「人的補助金」というか、中小企業の一番困っている「人手」というところを供給している制度なのではないですかね。単純労働者を「移民」として受け入れることについて、世論としては否定的だったわけですし、技能実習というのは実習期間を終えたら(母国に)帰るということで「移民」という議論に踏み込まない形で人をどうやって労働力を受け入れようかというところの工夫の中でできた制度だとは思います』
要するに、移民を受け入れたくないが安い労働力は必要なので「技能実習制度」を作ったということである。
自分の国が恥ずかしくなってくる許し難い「欺瞞」そのものだ。

誰も助けてくれる人がいない異国で追い詰められていく外国人の若者たち。
そこにコロナが追い討ちをかける。
コロナ解雇、残業代の未払い、さらには受け入れ企業の倒産。
多額の借金をして日本に働きにきた多くの外国人たちが路頭に迷い、新たな仕事を求めて「失踪」した。
そうした食べるに窮した外国人たちに高利で金を貸したり、犯罪に誘い込むネットサイトが広がっている。
コロナ禍でベトナム人同士の犯罪が急増しているが、これは異国で収入を絶たれた人たちが自暴自棄になって悪に手を染めたものだ。
日本に来なければ、彼らの多くは犯罪を犯すことはなかったにもかかわらず、技能実習制度を作った日本政府は、票につながらない彼らの境遇には無頓着。
私たちはそんな国に生きていると思うと、とても恥ずかしく居心地が悪い。

番組では技能実習生を食い物にする半グレグループにもインタビューしている。
その手口は、技能実習生として来日した外国人を組織化し、彼らを通して金に困っている同国人に10日で1割という高利で金を貸す。
その際に彼らの個人情報を担保として受け取り、その情報を使って携帯電話を契約したりAmazonで高額の買い物をしたりするという。
そうして返済ができなくなった外国人を犯罪に利用したり風俗に売り飛ばしたりして利益を得るのが半グレの手口だそうだ。
中小企業や農家の人手不足を解消するため、移民ではなく技能実習生という偽りの制度をでっち上げた結末がこの悲劇であり、外国人たちの悲劇は日本人の目に届かないところで進行しているのである。
こうした制度の欺瞞は帰国した実習生たちによって広まり、急速に進む円安も手伝って、今では日本で技術を身につけたいという外国人は少なくなってしまった。
せっかく日本に来たいと言ってくれている外国人がいる間に、日本社会にうまく溶け込めた外国人を移民として正式に迎え入れる制度ができれば、高齢化社会を大きく変える第一歩となるかもしれないが、そんな公約を掲げる政党は一つもない。
日本人はいつからこんなに近視眼的な民族になってしまったのだろう。

それでも世界を見回せば、自由にものが言えない独裁国家が増えているので、日本はまだ幸せな方かもしれない。
それでも将来を見通せば、日本の未来は決して明るいようには見えないのだ。
人口やGDPという尺度ではなく、国民の幸福度が高く、他国から尊敬される国であるという誇りを感じられる日本を実現できるよう、政治家の皆さんには志高く理想を語っていただきたい。
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