久しぶりにドキッとさせられるニュースが飛び込んできた。
ミャンマーで1日、軍部がクーデターを起こし、事実上の政権トップであるアウンサン・スーチーさんら政府高官がことごとく拘束されたという。
スーチーさんのほか、ウィン・ミン大統領も拘束されたとされ、今も所在は明らかにされていない。

立法・行政・司法の全権はミン・アウン・フライン国軍総司令官が掌握。
ミャンマーには1年間の「非常事態宣言」が発令され、国軍出身のミン・スエ副大統領が大統領代理として署名したと伝えられている。
長く軟禁生活に置かれていたスーチーさんが政治活動を再開できたのは2010年のこと。
そして2015年11月の総選挙で、スーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝、スーチーさんは国家顧問兼外相としてついに政権を握る。
スーチーさんの父であるアウンサン将軍は、第二次大戦中、日本の力を利用して反英闘争を展開し、戦後「ビルマ建国の父」と呼ばれた英雄だった。
民主化運動のシンボルだったスーチーさんの下で、ミャンマーの民主化は進んだのか?
コロナさえなければ、去年2月に私はミャンマーに旅行する予定だった。
バンコク特派員時代に観光客を装って一度首都ラングーン(現ヤンゴン)に行ったことがあったが、当時はネ・ウィン軍事独裁政権によって事実上の鎖国状態が続いていた。
当然、スーチーさんに接触することなどできるはずもなく、ビデオカメラの持ち込みすらできなかった時代の話だ。
ぜひもう一度ミャンマーを訪れて、その変貌ぶりを自らの目で確かめたかった。
政権を握ったスーチーさんは、ロヒンギャ問題などでは国際社会からは批判され、民主化運動のヒロインだった当時のカリスマ性は衰えたように感じられた。
それでも国内での人気は衰えていないようで、去年11月に行われた総選挙ではスーチーさん率いるNLDが大勝を納め、軍の影響力の強い野党「連邦団結発展党」は議席を大きく減らしたという。

しかし軍部は「選挙に不正があった可能性がある」と批判を続け、スーチーさんら政府と軍の緊張が高まっていると伝えられていた。
私がバンコク特派員をしていた1980年代には、東南アジア諸国でクーデターは日常茶飯事であった。
フィリピンでもタイでもインドネシアでも軍の力は極めて強く、高級軍人は最高のエリート集団だったが、21世紀に入ってからの経済発展によってお国柄もずいぶん変わったと思っていたのだが・・・。
ミャンマーは再び軍政に復帰して民主化は頓挫してしまうのか?
しばらく様子を注意深く見守るしかない。
しかし、民主化が危ぶまれるのはミャンマーに限ったことではない。
ロシアでは、反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の拘束に抗議する全国規模のデモが広がり、2週連続で警官隊と激しく衝突し、数千人規模の逮捕者がでたと報じられている。
デモ隊は青い下着やトイレブラシを持ってプーチン政権に抗議の意思を表しているという。
青い下着は昨年8月、ナワリヌイ氏が神経剤ノビチョクを使った毒殺未遂の被害に遭った際に、連邦保安局(FSB)のスパイがナワリヌイ氏の青い下着の裏地に毒を仕込んだと伝えられていることを象徴している。
そしてトイレブラシは、プーチン大統領が黒海沿岸に所有していると告発された1400億円の豪邸で使われているとされる1個9万円の高級トイレブラシのシンボルだそうだ。
プーチン大統領は断固とした措置で反政府デモを押さえ込むつもりのようだが、今回は初めてデモに参加するという市民が多いそうで、コロナの影響もあって反プーチンの機運がかつてなく広がっていることを感じさせる。
ナワリヌイ氏の処分も含めて、ロシア情勢も当分予断を許さない状況が続きそうだ。
バイデン新政権がスタートしたばかりのアメリカでも、ちょっと変わった混乱が起きている。
SNSでつながった若者中心の個人投資家たちが、ヘッジファンドの戦いを挑み、ヘッジファンドが損失を被ったというのだ。
きっかけは低迷していたゲーム販売店「ゲームストップ」の株価が謎の急騰劇を演じたことだった。
大手金融機関が牛耳るウォール街を個人投資家が屈服させたとして、ブルームバーグはこの現象を「金融界のフランス革命」と呼んだが、企業価値を無視した乱高下を嫌気した資金が市場から離れ、最高値を更新したダウ平均は先週連日の値下がりとなった。
コロナによって貧富の格差がますます拡大するアメリカで、再び貧者の反乱が広がれば、バイデン政権の手足を縛り、経済にダメージを与える可能性もあるだろう。
世界中の国を苦しめる新型コロナウィルスは、それぞれの国が抱えていた社会問題が表面化するきっかけとなっているようだ。
コロナの発生源である中国では、ようやくWHOのチームによる武漢の調査が始まった。
多国籍の調査チームは、当初発生源とみなされた海鮮市場にも足を踏み入れたが、滞在時間はわずか1時間、その前日には中国政府がコロナを封じ込めたことを誇示する展覧会を2時間にわたって案内されたという。
北朝鮮での取材を思い出させるような当局がアレンジした視察ツアー。
見たい場所は見せずに、見たくもない所を連れ回される。
調査チームの滞在は11日までなので、なるべく意味のない場所で時間を潰す作戦なのだろう。

中国政府は今日2月1日から、日本の海上保安庁にあたる「中国海警局」に武器使用も認める「海警法」を施行した。
中国が主張する「管轄海域」内で警備を強化することが狙いで、尖閣諸島も例外ではない。
バイデン政権の出方を探るように、台湾上空への領空侵犯も増えているようで、今後東アジアでの緊張が一段と高まる事態も想定される。
コロナやワクチンに目を奪われるいる間に、民主主義社会の危機はどんどん進行するばかりだ。
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