<吉祥寺残日録>今年の漢字は「戦」!安倍派が主張する「戦時国債」発行による防衛予算倍増など論外だ! #221212

年末恒例、京都・清水寺で発表される今年の漢字は「戦」だった。

北京五輪やカタールW杯の戦い、円安や資源高による生活の戦いという意味も込められているそうだが、何と言っても今年最大のニュースと言えばロシアによるウクライナへの軍事侵攻である。

戦争が始まったのはもう随分前のことのように感じるが、実際には今年2月の出来事なのだ。

先日授賞式が行われたノーベル平和賞も、ウクライナ戦争に絡んで、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの人権団体や活動家に贈られたことを見ても、2022年は世界中の人たちが戦争について改めて考える年となった。

東アジアに目を向けると、北朝鮮によるミサイル発射が常態化し、韓国では北朝鮮に宥和的だった文在寅大統領が退陣し日米韓の軍事的な連携が強化された。

そして何より重要なのは中国の動向だ。

習近平氏が異例の3期目入りをした中国は、今世紀半ばには経済力でも軍事力でもアメリカを凌駕することを目標に掲げ、台湾への軍事侵攻も排除しない強硬な姿勢を保っている。

ペロシ議長の台湾訪問に抗議して中国が台湾近海に多数のミサイルを撃ち込み、そのうちの数発は与那国島沖合の日本の排他的経済水域に着弾した。

ウクライナでの戦争と台湾有事に対する危機感が西側諸国の結束を急速に高めた一年だった。

これまでエネルギーをロシアに依存し、中国に対しても宥和的な姿勢を示してきたドイツをはじめヨーロッパの多くの国々が権威主義的な国々と距離を置くスタンスに転換し、冷戦終結後有名無実化しつつあったNATOが一躍脚光を浴びた。

そしてNATOの合意事項である国防費はGDPの2%という数字が日本にも飛び火する。

岸田総理は日本も防衛予算をNATO並みのGDP2%に引き上げる必要があると度々言及、今月に入ると来年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とするよう具体的な数字を入れて指示を出した。

さらに、歳出の見直しや国有財産の処分などを行なっても不足する1兆円について増税で賄うことまで明言したのだ。

何事にもはっきりとした態度表明をせず曖昧な美辞麗句に終始してきたこれまでの岸田さんとはまるで別人のようである。

突然岸田さんの口から飛び出した増税発言をめぐって自民党内は大騒ぎだ。

安倍派の若手の求めで9日に開かれた政調全体会議では怒号が飛び交い、発言者の7割が反対したという。

会議に出席した西田参院議員はカメラの前で堂々とこう語った。

「防衛費の財源的には国債でいいんです。全く問題ないわけ。財源があるとかなしに関係なしに必要なことは出さなければいけない」

安倍派幹部も次々に増税に公然と異論を唱えていて、萩生田政調会長は「日本の防衛力を高めるうえでの必要な財源はあらゆる選択肢を排除しない。国債も排除しない」としたうえで、岸田総理の発言は「27年度以降の国内総生産(GDP)2%を確保した後の安全保障費を言ったのだと思う」と身勝手な解説している。

岸田内閣の閣僚である高市経済安全保障相は「岸田文雄首相から突然の増税発言。反論の場もないのか、と驚いた。賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信した首相の真意が理解できない」とツイッターに投稿、世耕参院幹事長や西村経産相も法人税の増税は賃上げの動きに水を差すと公の場で反対の意向を示した。

この背景にあるのは、生前の安倍さんが防衛費の増額分を国債の発行でまかなうよう主張していたことだ。

しかし、岸田さんはすでに腹を括っているようだ。

臨時国会閉幕後の記者会見で岸田総理は、自民党内で噴出している増税ではなく国債発行で防衛費を賄うという考えをキッパリと否定した。

「安定した財源が不可欠だ。国債は未来の世代に対する責任として取り得ない」

「増税が目的でなく防衛力の強化、維持が目的だ。あらゆる努力をしたうえで最終的に国民に一定の負担をお願いせざるを得ない」

私は岸田さんを見直した。

総理就任から1年が経ち、この人もようやく自分の本心を口にできるようになったんだなと感じた。

岸田さんは自民党内のハト派だが、最大派閥の安倍派に配慮せざるを得なかったが、その安倍さんはもういない。

今回の増税発言については事前に麻生さんや茂木さんと調整済みのようで、タカ派である安倍派を完全に蚊帳の外に置いて一気に公明党と妥協できる線で防衛力強化を進めようと決断したのだろう。

岸田さんの決断を受けて、自民・公明の税調幹部の間では具体的な増税案がどんどん詰められている。

法人税で7000〜8000億円、たばこ税で2000億円、さらに東日本大震災の復興特別所得税の一部を防衛費に回して2000億円を確保する方向だ。

来年度の増税は見送り、2024年からの段階的な増税を目指すという。

また、自民・公明の実務者会議では今日、国家安全保障戦略など防衛3文書の改定内容に合意した。

防衛力強化に向けた自民・公明両党の実務者協議は15回目の会合を開き、政府が策定する▽「国家安全保障戦略」▽「国家防衛戦略」▽「防衛力整備計画」の3つの文書の案について合意しました。

このうち、
▽国の外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」には安全保障上の課題となる国として中国と北朝鮮に加え、ウクライナへの侵攻を続けているロシアも新たに加えられています。

中国の動向については「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述し、アメリカの戦略と足並みをそろえています。

▽「国家防衛戦略」は、防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」に代わる文書で、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」を保有することを明記しています。

反撃能力を「必要最小限度の自衛の措置」と定義し、専守防衛の考え方に変わりがないことを強調しています。

▽「防衛力整備計画」は、防衛費総額や装備品の整備規模を定めた「中期防衛力整備計画」に代わる文書で、計画の期間を「10年」に延長した上で前半の5年間の防衛力整備の水準を今の計画の1.5倍程度にあたる43兆円とするとしています。

また、反撃能力を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の量産など、防衛力の抜本的な強化策が7つの分野ごとに具体的に盛り込まれています。

引用:NHK

「専守防衛」に徹してきた戦後日本の防衛政策は急速に変化しようとしている。

こんなニュースも流れた。

日本と英国、イタリアの3カ国は9日、2035年の配備を目指し次期戦闘機を共同開発するとの首脳声明を発表した。各国の技術力を集めて共通の機体をつくり共に生産する。高度な装備品の調達を米国に頼ってきた日本が米以外との開発に本格的に乗り出す。

米国にとっても同盟国と装備品開発で役割分担できるようになる。米側が持つ軍事技術・情報が他国を通じて流出する懸念も少なくなる。米国防総省は9日、防衛省と発表した声明で「支持する」と表明した。

3カ国は新たに「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」を立ち上げた。日本の次期戦闘機構想と、英国とイタリアがすでに着手していた戦闘機「テンペスト」の開発計画を統合する。

共同開発によりコストを下げる。24年ごろまでに機体のコンセプトやGCAPの体制を決める。開発費用の分担は課題となる。

日本はF2戦闘機、英国とイタリアは現在の主力戦闘機「ユーロファイター」の後継機にする。

各国が持つ計300機規模の現有機を順次置き換える。日本は将来的な海外への輸出解禁を織り込み、英国やイタリアが持つ販路に期待する。

引用:日本経済新聞

一度軍備増強に歯車が動き出すと、止めることは難しい。

敵に対する不安心理は限りがなく、どれだけ準備してもキリがないのだ。

こうした防衛費強化の動きと財源問題を多くの国民はどのように受け止めるのかが気になった。

NHKの世論調査の結果はなかなか興味深い。

岸田総理が打ち出した防衛予算を5年間で43兆円に増額することについては賛成51%に対し反対派36%。

中国、ロシア、北朝鮮の脅威が日本国民の意識に大きな影響を与えていることがわかる。

私自身、野心を隠そうともしない習近平さんの登場で備えが必要だとの考えに変わった。

領土的な野心を持つ指導者が現れた時には宥和策では平和を維持できないというのが歴史の教訓だからだ。

「反撃能力」、すなわち敵の基地を攻撃できるようなミサイルなどの保有についても賛成が55%、反対派31%だった。

島国である日本の防衛を考えた時、戦車よりもミサイルの方が必要だと私はかねてより考えている。

一方的に他国を攻撃したロシアに対してNATOが直接手を出せないのは、ロシアが核兵器を大量に持っているからに他ならない。

好むと好まざるとを問わず、「核抑止力」は今日の世界では依然として効果的なのだ。

中国やロシアのような人権を軽んじる国を相手ではミサイルの抑止力も限定的だとは思うが、欧米諸国の支援を頼る前に自前で抵抗する手段としては長距離ミサイル以上に抑止力となりうる兵器はないといくつかの戦場を取材した私は思う。

そして一番興味深い調査は、財源についてだった。

防衛費の増額で不足する財源をまかなうため、法人税を軸に増税の検討を進めることへの賛否を問うと、私の予想とは違い賛成が61%、反対が34%という結果だった。

これが法人税ではなく所得税や消費税だったら答えが違ったかもしれないが、多くの人が防衛費を増税で賄うことを受け入れるという答えは意外だった。

私は、もしも防衛費を大幅に増額するならば、それは増税で行うべきであり「戦時国債」の発行など言語道断だと考えているので、この世論調査の結果を見て少しホッとした。

なぜならば、財源問題に関する記事に付けられたネットユーザーのコメントが増税反対ばかりだったからだ。

「増税」という言葉から感じる抵抗感は容易に理屈で覆すことは難しい。

メディアも安易に増税反対を口にしたりするので、戦前のような国債頼りの軍事費拡張が始まるのではないかとすごく心配だったのだ。

問われるべきは、増税か国債かではなく、増税してでも防衛費を増強するか、それとも防衛予算の増額を諦めて別の安全保障の道を模索するかの二択である。

岸田さんにはブレずに安倍派と対峙してもらいたい。

しかし、国民にはこの防衛力増強の決断が何をもたらすのかを考える時間が必要だ。

日本が巡航ミサイルを持つと中国はどう出るのか?

東アジアの緊張が高まった時、欧米の支援はどの程度得られるのか?

きちんとした情報と分析を理解したうえで日本の進路を自分たちで判断したい。

その結果としてもしも日本が防衛力強化に舵を切るならば、その時は安倍派ではなく岸田さんのようなハト派のリーダーが自身の信念に基づいて進めてほしいと私は願っている。

<吉祥寺残日録>日米開戦80年に考える「毅然とした主張」の危うさ #211208

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