<吉祥寺残日録>今年の漢字は「密」、第一波の頃を思い出そう #201214

今年の漢字は「密」。

コロナに始まり、コロナで終わる2020年となった。

いつものように体を動かすために井の頭公園へ行ってみると、冷たい北風が時々強く吹き抜けて、砂ぼこりを巻き上げていく。

いよいよ今週から本格的な寒波がやってくる。

「GO TO トラベル」の扱いをめぐって政府と知事たちの調整が続いているが、本格的な冬の到来によって年末年始のコロナ大流行はあるのだろうか?

「吉祥寺残日録」という名前をつけて私が毎日日記を書き始めたのも、今年の3月のことだった。

当時の緊張感をもう一度思い出すために、第一波と呼ばれた3月から5月の日記を読み返してみることにする。

【3月】

日記の最初は3月3日、タイトルは『トイレットペーパー』だった。

<吉祥寺残日録>トイレットペーパー #200303

在宅勤務で時間があるので、妻のお供でスーパーに買い出しに出かけた。

連日テレビを賑わわせているトイレットペーパーや消毒液の欠品を自分の目で初めて確認した。

未知の病気が発生した時、大昔から人間は感染した人たちを迫害し、差別し、殺して焼き払ってきた。

今やインターネット時代になり、もっと人間は賢くなったかと期待したが、デマはネットで瞬時に広がり、むしろ昔よりもタチが悪くなった印象である。

中国でも韓国でも、ヨーロッパでも、コロナに怯える人間たちが醜い争いや差別を繰り返している。

デマだとわかっていてもトイレットペーパーを買ってしまう人間の行動は、どんな時代になっても変わることはないのかもしれない。

その後も、ショッキングな事態が次々に私たちを襲った。

連日こんな世界的な異常事態が続いているのに、3月20日からの三連休には吉祥寺の街も人で溢れかえった。

欧米でのロックダウンが始まっていたが、日本では医療崩壊は起こらないと専門家がテレビで話していた。

この三連休の緩みが突然変わったのが3月の終わりだった。

東京オリンピックの延期が正式に決まり、小池都知事が一気に行動を開始した。

その結果、三連休の翌週末には街から人が消えたのだ。

しかし、一般の人々の行動に最も強い影響を与えたのは月末に飛び込んできたこのニュースだったかもしれない。

<吉祥寺残日録>志村けんさんコロナで死す #200330

志村さんの訃報は、普段ニュースに関心をもたない人たちにコロナに対する恐れを抱かせたんだと思う。

【4月】

4月1日、私は『死者10万〜24万人』というタイトルで、日本でも早く緊急事態宣言を出すべきだと書いている。

<吉祥寺残日録>死者10万〜24万人 #200401

今週になって日本では、テレビの出演者が一斉に座り位置の間隔を広げたり、政治家のマスク姿が多くなってきた。何事も横並びのお国柄、海外ではずっと以前から「ソーシャル・ディスタンス」がコロナ対策のキーワードになっていたが、日本でもようやく追いついた格好だ。

背景にあるのは、東京を中心に感染経路不明な患者が増加していること。

医療関係者やメディアからも緊急事態宣言を早く出した方がいいとの声が強まっているが、安倍総理をはじめ政府は「まだそうした状況にはない」としてなかなか行動に移そうとしない。

東京都や大阪府は医療崩壊を防ぐため、入院している軽症者を自宅や別の施設に移す方針を打ち出しているが、なぜか厚労省がそれにストップをかけているという。こんなこと緊急事態宣言が出なくてもできるだろう。一体、厚労省は何を考えているんだろう。どこの誰がボトルネックとなっているのか、メディアはきちんと取材して犯人を暴き出すべきだ。そうしないと手遅れになってしまう。

緊急事態宣言に関しては、医療態勢を早急に整備するために絶対必要だと私は思っている。今何よりも必要なのは、マスクや防護服、人工呼吸器などの医療物資の不足を解消し、軽症者を隔離するための施設を確保すること。そのために、安倍総理には1日も早く緊急事態を宣言してもらいたい。

しかし、4月1日に発表されたのは「アベノマスク」の全戸配布。

安倍総理が緊急事態を宣言したのは、4月7日のことだった。

とにかくバタバタした1ヶ月だった。

休業要請を巡っては、その対象や期間に関して国と東京都が対立し、いろんな業種の人たちが右往左往した。

そんな混乱の中で、私の身近なところにもじわじわと影響が広がってきた。

<吉祥寺残日録>「芙蓉亭」閉店へ #200420

長期間に及んだ休業の影響で少なからぬお店が閉店に追い込まれた。

私のようなサラリーマンにはピンときにくいが、日銭商売の小規模業者にとって休業要請というのは死刑宣告に近いものがあることを理解した。

そのため、吉祥寺の飲食店を少しでも応援したいとこのブログでテイクアウト企画を始めたのも4月のことだった。

あの頃感じた「吉祥寺が無くなってしまう」という危機感は、第一波を乗り切った後、徐々に消えていったが、果たしてこの冬どれだけの店が死刑宣告を受けることになるのだろう?

【5月】

5月4日、政府は緊急事態宣言の延長を発表し、「コロナ時代の新たな日常」という言葉が生まれた。

結局、緊急事態宣言が全面的に解除されたのは5月25日だった。

そして我が家に「アベノマスク」が届いた日、私は会社を辞めることを決めた。

<吉祥寺残日録>6月末で会社辞めます #200513

38年間勤めた会社を辞める決断をしたということで言えば、コロナは私の人生にも大きな影響を与えたと言える。

緊急事態宣言が解除された時、第一波を振り返って26日の日記に私はこんな総括めいたことを書いている。

1月からの経過を振り返ってみると、日本のコロナ対策は極めて特殊だったことがよくわかる。

2月と3月が大きな山で、緊急事態宣言が出された4月以降は淡々と時が流れた印象が強い。

今回の経験は、第二波への対応にも効果を発揮するだろうか?

私と同様、多くの日本人がこの間に新型コロナウィルスについて多くの知識を身につけた。もしもどこかで感染者が増えたら、再び自粛生活に入ればいいという一種の安心感は得られたのだろう。

旅行業や飲食業など、コロナに直撃される業種の人たちがどこまで生き残れるかという問題はあるが、2月3月のような先の見えない不安には陥らずに済むかもしれない。

後は、政府や医療現場にやるべきことをきちんと準備してもらうだけだ。

欧米諸国に比べれば、日本ではこれまで1日数万人というような大規模感染は起こらず、「GO TO キャンペーン」の効果もあって飲食店や旅行関係の倒産・大量失業もなんとか避けられてここまできた。

そのことは評価しておきたい。

しかし、『後は、政府や医療現場にやるべきことをきちんと準備してもらうだけだ』という部分については、厳しく糾弾せざるをえないだろう。

残念なのは、半年という時間がありながら、有事対応をスムーズに進めるための法整備や制度設計が何もできていなかったことだ。

これは現場の医師や看護師の問題ではない。

医療行政や医療体制全体のシステムやルール、法律を整備し調整し準備するお偉いさんたちの怠慢である。

この冬、大きな感染の波が来ることは多くの専門家たちが予言していたではないか。

それに備えて必要な対策、人的な訓練などを整えておくのが、政治家や厚労省、各自治体や医学界のリーダーたちの仕事だったはずだ。

国民に三密回避を呼びかけるだけでなく、世界に誇れる医療環境を整備できなかったことに、日本という国の劣化を感じた2020年だった。

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