<吉祥寺残日録>世界のメディアが一斉に報じる新疆ウイグルの人権問題が示す「新冷戦」の構図 #210324

EUが、ウイグル族への人権侵害を理由に中国への制裁を決定した。

あの天安門事件以来、実に30年ぶりのことだという。

イギリスとカナダも直ちに同調し、ここに来てアメリカを含む欧米諸国が突然ウイグル問題が世界のホットイシューに浮上してきた。

世界の主要メディアがこの問題をトップニュース扱いしているのだが、その論調の際立った違いがこれから来る時代を暗示しているように私には感じられたので、今日は各メディアの記事を総覧しておきたい。

まずは、イギリスBBCから。

BBCは、『欧米、中国に制裁を発動 ウイグル族への「人権侵害」で』との見出しでトップニュースとして扱っている。

まず今回の制裁内容について引用する。

今回の制裁は、ウイグル族のイスラム教徒に対する深刻な人権侵害が非難されている、以下の新疆の中国共産党幹部らを対象としている。

・陳明国氏=地元警察組織・新疆公安局の局長

・王明山氏=新疆の党委員会メンバー。ウイグル族拘束の「政治的な監督責任者」だとEUはみている

・王君正氏=国営の準軍事的経済組織・新疆生産建設兵団(XPCC)の党事務局長

・朱海侖氏=新疆の元党幹部。収容施設の運営を監督する「重要な政治的職責」にあったとされる

・新疆生産建設兵団公安局=収容施設の運営など、XPCCの治安問題に関する活動方針の実施主体

ラーブ外相は、新疆におけるウイグル族のイスラム教徒に対する虐待を、「現代最悪の人権危機の1つ」と表現した。

ラーブ氏は、「合計30カ国の仲間と共に行動することで、国際社会は基本的人権に対する深刻で組織的な侵害に目をつぶらない、協力して責任を追及すると、最大級に明確なメッセージを中国政府に発しているのは明らかだと思う」と議会で述べた。

一方、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、中国が「集団虐殺(ジェノサイド)と人道に対する犯罪」を犯しているとする声明を発表。王君正氏と陳明国氏に対し、「恣意(しい)的な拘束や厳しい身体的虐待などの深刻な人権侵害」への関与をめぐって米政府が制裁を発動したと述べた。

引用:BBC

続いては、アメリカCNN。

こちらは、『新疆弾圧で親と引き離される子どもたち CNNが直接取材』というタイトルで、人権侵害を受けたウイグル族の人たちを取材した独自ニュースを報じている。

中国・新彊(CNN) マムジャン・アブドゥレヒムさんの妻と2人の子どもにとって、それはありふれた新疆ウイグル自治区への里帰りになるはずだった。

5年前のことだ。マムジャンさんは、それ以来家族に会っていないと話す。

マムジャンさんの妻のムヘレムさんは2015年12月、新たなパスポートの申請のため、娘と息子を連れてマレーシアから中国西部の新彊に戻った。マムジャンさんによると、ムヘレムさんたちは今もそこから出られない。中国政府がイスラム教徒の少数民族に対する広範な弾圧を行っているためだ。報道によればこうした弾圧で最大200万人が恣意(しい)的に拘束され、新彊の各地にある大規模強制収容所に入れられているという。

中国は新疆での人権侵害に関する主張を否定。収容所は宗教的な過激主義とテロリズムを阻止するために必要だと強調している。

マムジャンさんは民族的にウイグルに属する自身の家族について、中国から出ることができないと説明。一方で自分が新疆へ出向けば、拘束または投獄される危険がある。マムジャンさんは現在、オーストラリアのアデレードに住んでいる。

先ごろ、CNNの取材チームはマムジャンさんの10歳の娘、ムフリセさんを探し当てた。ムフリセさんは新彊南部の都市、カシュガルにある父方の祖父母の家にいた。

父親に伝えたいことがあるかどうか尋ねられるとムフリセさんは泣き出し、「会いたい」と答えた。父親とは17年以降、言葉を交わしていない。

引用:CNN

一方の中国は当然のことながら強く反発している。

EUによる制裁に対抗して、ヨーロッパの10人と4組織に対し、「中国の主権と国益を大きく損ない、うそと誤った情報を悪意をもって広めた」として、制裁を発動するとともに、ロシアとの外相会談を開いた。

人民日報の日本語版には、『王毅外交部長「中国の内政にみだりに干渉できる時代は過ぎ去った」』との見出しで、中国の主張が展開されている。

王毅国務委員兼外交部長(外相)は23日、広西壮(チワン)族自治区桂林市でロシアのラブロフ外相と会談した。

王部長は会談で、「ここ数日、少数の西側勢力は、中国を中傷し非難するパフォーマンスを相次いで演じている。しかし彼らは、作り話や嘘で中国の内政にみだりに干渉できる時代はとうに過ぎ去ったことを知るべきだ」と指摘。

さらに、「現在行われている国連人権理事会の会合で、80数ヶ国が共同発言や単独発言の形で新疆維吾爾(ウイグル)自治区の問題における中国の正当な立場を支持した。これは、正しい道理は人々の心の中にあり、少数の西側勢力が策を弄しても国際社会を代表することはそもそも無理だということを十分に示している。正義にもとり時代に逆行するこのような行為によって中国が前進する歩みを阻むことはできず、歴史の流れを逆行させることもできない」と述べた。

引用:人民網日本語版

そして中国と急接近するロシア系メディア「スプートニク」には、『ラブロフ外相 「対ロシア関係を破壊した」とEUを非難』という記事が載っていた。

ラブロフ外相は「欧州はこの関係を破棄し、長い年月をかけて構築されたすべてのメカニズムを簡単に破壊してしまった。今私たちに残されているのは自国の関心を重視する一部の欧州諸国のみ。だとすると、客観的にこのことにより、欧州との間で残っているものよりも、より速いスピードで露中関係が発展していることにつながっているのだろう」と述べた。

ブリュッセル(=EU本部)が対ロシア関係の「異常」を解消する必要があると考えた場合に、ロシアはEUとの協力拡大に向けてコンタクトをとる用意がある、とラブロフ外相は指摘。その際の対話は平等を基本とし、利益の均衡を探りながら行われなければならないという。「今のところ『西』の前線では変化がない。『東』には大変重要なテーマがあり、年々拡大している」と述べた。

ラブロフ外相はまた、モスクワと北京は「地政学的ゲーム」と「欧米諸国が走りがちな」一方的で不当な制裁を非難していると語った。

ラブロフ外相は以前、ロシアは国の経済にリスクをもたらす制裁が発動された場合、EUとの関係を断絶する用意があると発言している。

引用:SPUTNIK

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予想されたこととはいえ、バイデン政権発足以来、にわかに人権問題が世界を分断するキーワードとして浮上してきた。

トランプ政権による気まぐれで先に見えない米中対立とは違い、バイデン政権の対中政策は確信犯であり、仲間を集めて中国と対抗するわかりやすい戦略がある。

今回のアメリカ・EU・イギリス・カナダに加えて、先にスタートした「クワッド」、つまりアメリカ・日本・オーストラリア・インドという枠組みを加えてバイデン政権が目指す「中国包囲網」の様子が見えてきた。

近い将来、欧米を中心とした陣営と中露が新たな冷戦に突入することが予想される。

早速、北朝鮮の金正恩総書記が対米共闘を呼びかける親書を習近平主席に送るなど、動きが活発化している。

イスラム教徒であるウイグル族の問題は、今後中東を中心とするイスラム諸国を巻き込む可能性も秘めていて、さらに問題を複雑化させるだろう。

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当面は、中国周辺の国々、特にASEAN諸国の動向が注目される。

カンボジアやラオスのような中国べったりの政権もあれば、ベトナムやフィリピンのような領有権を巡って問題を抱える国もある。

ミャンマーで中国が軍事政権を支援していることもASEANの国々にどのように映っているのか?

韓国も含めて中国の影響力から逃れられない国ほど、難しい選択を迫られることになるだろう。

日本も例外ではない。

中国に工場を持つ多くの日本企業はもちろん、経済的には中国との関係は日本人の暮らしの隅々まで浸透している。

さらには、東京五輪、北京五輪のボイコット問題という火種も予想され、これまで新疆ウイグルでの人権問題に関心が薄かった日本のメディアもそろそろこの問題を直視せざるを得なくなるかもしれない。

<吉祥寺残日録>頑張れテレビ! NHK-BS1「中国デジタル統治の内側で〜潜入新疆ウイグル自治区」が怖い #201210

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