中国最大の都市・上海でコロナ患者が急増し、事実上の「ロックダウン」に突入したのは3月末のことだった。

巨大都市から人影が消え、日本の特派員も自宅マンションの敷地から一歩も外に出られなくなった。
当初は4〜5日間という話だったが、「ゼロコロナ政策」を厳守した結果、結果的には最初の武漢とほぼ同じ2ヶ月を超える完全封鎖となってしまった。
日本からの特派員は仕方なく自分の子供の様子などを取材してリポートしていたが、買い物にも行けないこの厳格な行動制限を2ヶ月間やり通したという中国の底力を改めて私は感じている。
昔の中国人は行列にも並ばず抜け駆けをしようとしたものだ。
日本人に比べてずっと自己主張が強い中国の人を檻に閉じ込めて大人しくさせるには「圧倒的な力」の存在抜きには不可能である。
西側のメディアではしきりに当局に抗議する住民などが取り上げられているが、こうして表立って不満を表明する人はおそらくごく一部なのだろう。
パンデミックが世界を震撼させた2020年、欧米でも「ロックダウン」が行われたが、限られた範囲での外出は許され食料も各自で入手することが基本だった。
ところが中国では2600万人分の食料を当局が配給した。
もちろん全てがうまくいったわけでもないが、大規模な暴動に発展することもなく2ヶ月間やり通したということは、それなりに食べる物が各戸に届けられたのだろう。
想像を絶するオペレーション能力である。

6月1日の午前0時、外出制限が解除されたことを祝う上海市民の姿が街のあちらこちらで撮影された。
ワインやシャンパンで乾杯する人も結構いたようだ。
上海は中国でも最も裕福な人が多いエリアで、その暮らしぶりはすでに日本人の遥かに上を行く。
昔のように押し合いへし合い他人を蹴落とさなくても十分暮らしていける財力を持っている人が多い。
そうなると人間には余裕が生まれ、2ヶ月程度不自由な生活が続いたとしても大きな暴動が起こることはないのだ。

今日から公共交通機関も運転を再開したというが、それを利用するためには3日以内のPCR検査が求められるため、コロナ前のような日常がすぐに戻るわけではないようだ。
しかし中国の人たちは政府が決めたルールに大人しく従っている。
それは政府が怖いからだとしたり顔で解説する人もいるが、それほど単純ではないだろうと私は考えている。
今、中国の人たちの多くは自分の国が発展していることを実感し、誇りを持っているように見える。
アメリカをはじめとする西側諸国から攻撃されればされるほど、愛国心が強くなるという側面もあるだろう。
政治的な不満さえ抱かなければ、中国は目に見えて豊かになっていて一般市民の生活もそれなりに改善しているのだ。
だから政府に文句を言うのではなく、自分たちの生活がさらに良くなることだけを考える。
「上に政策あれば、下に対策あり」
政治に口出ししない生き方が中国の人たちにはすっかり身についている伝統的な生き方でもあるのだ。

とはいえ、14億の国民が暮らす巨大国家の中にはさまざまな人間がいるのも事実だ。
一党独裁でますます習近平さんの神格化が進むこの国に強い違和感、絶望感を抱く人間も相当数いることは間違いないだろう。
先日朝日新聞で、中国の一部地域で習近平総書記を「領袖」と呼ぶキャンペーンが始まったとの記事を目にした。
「領袖」とはかつて毛沢東氏だけに使われた呼称だ。
この秋の共産党大会で3選を果たすとみられる習近平さんは、ついに毛沢東のような独裁者になっていくのだろうか?

そんな中国の将来に絶望した人たちの間で「潤学」という言葉が使われるようになったという。
「クーリエ・ジャポン」の記事『「この国に未来はない」いま中国からの“脱出”を意味する「潤学」という言葉がホットワードに』の一部を引用させてもらおう。
中国のネット上で“潤学”という言葉がにわかに流行している。 シンガポールの華文メディア「联合早报」によると、“潤学(rùnxué/ルンシュエ)”とは、潤の発音記号「rùn」を英語の「run」にかけて、「逃げる」「とんずらする」を意味し、その多くは「海外移住」を指す一種の隠語なのだそうだ。
同記事では、中国政府が“社会面ゼロコロナの達成は決して揺るがない”との方針を示した4月3日に、「移民に関する検索ワードの指数には440%の上昇」が見られた現象を紹介。 「“潤”についての議論は去年にも少なからずあったが、ここ数日で再び盛り上がり始めた。中国がコロナ対策を講じるなかで、移民に関する議論が熱を帯びてきたものと見られる」と中国の厳しすぎるゼロコロナ政策が “潤学”の流行を後押ししていると分析する。
引用:クーリエ・ジャポン
中国の歴史を振り返れば、度重なる戦乱と王朝の盛衰を繰り返す中で、時の体制に馴染めない人たちは新天地を求めて異国へと脱出を図った。
それが世界中に存在する華僑のネットワークのベースとなっている。
どこに行っても一定の経済力を獲得する中国人のしたたかさを侮ってはならない。

一方の日本。
6月から1日の入国者数が2万人に緩和された。
「ロックダウン」のような強硬策は1回も取らず、同調圧力の強い国民性に頼ったコロナ対策をずっと行ってきた日本。
感染者が増えてもロックダウンはしない代わりに、数が減ってもなかなか規制がなくならない。
これもお国型、特にコロナに神経質な高齢者が世界一多い国の特徴なんだろうけれど、もうすでに日常を取り戻しつつある欧米諸国や海外との往来が必要な日本企業からは入国規制の緩和を求める声が日増しに高まっていた。
私はコロナ禍では海外旅行は控えると決めていたので、この間各国の出入国がどのようになっているのか知らなかったのだが、そろそろ来年ぐらいから海外旅行を再開したいと思うようになり始めて調べてみることにした。

私の目に止まったのは、海外旅行の際のレンタルWi-Fiを扱う「GLOBAL Wi-Fi」が開設しているサイト。
各国の出入国の状況が、「制限なし」「一部解禁(緩い規制)」「一部解禁(厳しい規制)」「渡航禁止」の4段階に分類されている。
それによると、日本は中国などと同じ「一部解禁(厳しい規制)」という色分けとなっていた。
それより厳しい「渡航禁止」に分類されている国はほとんどないため、事実上世界で最も入国規制が厳しい国というのが現在の日本の分類らしい。
実際に出入国していなければ特段不便さも感じないのだが、いざ自分が海外に行こうと思った瞬間、これは困ったことだと思ってしまう。
日本同様、今も厳しい規制を続けているとされる国は、中国、ブータン、フィリピン、太平洋の島国、リトアニア、スロヴァキア、アルジェリアなどアフリカの9つの国々ぐらいだ。
このサイトの情報がどれだけ正しいかはわからないが、日本がかなり特殊な国になっていることはどうやら間違いないらしい。

国際線の旅客数を見ても、欧米がすでにコロナ前の水準に戻りつつあるのに対して東アジアは著しく回復が遅れていることがわかる。
主にはコロナ前に世界中にいた中国人観光客が完全にストップしていることが原因だが、日本や韓国、台湾も厳しく出入国を制限してきたことがこの結果に現れているのだろう。
東アジアの人たちは慎重で社会のルールに忠実だということかもしれないが、もうそろそろ動き出してもいい時期になっていると思う。
私は今日から岡山に帰省する。
年内いっぱいは岡山を往復しながら農作業を楽しみ、来年こそは海外に出ていくつもりだ。
さて、どこに行こう。
まずは、カリブ海諸国、アフリカ、中央アジア、中近東。
なるべく行ったことのないエリアを選んで、100カ国踏破を当面の目標として計画を立ててみよう。
そのためにも、出入国規制の緩和と円安の是正を年内に実現していただきたいものである。