もはや自由と民主主義の時代は終わったのだろうか?
ロシアで憲法改正法案の賛否を問う全国投票が1日に行われ、賛成が約78%を占めて改憲成立が決まった。
これは何を意味するのか?
今回の投票が注目されたのは、プーチン氏の「終身大統領」への道が開かれたという点だ。
憲法改正が行われると、プーチン大統領は最長で2036年まで現職にとどまることが可能になるという。プーチンさんは現在67歳。もし仮に2036年まで大統領を続けたとすると84歳になる。
プーチン大統領が「終身大統領」になることを狙っていると非難している反対派は、投票結果は真っ赤な嘘だと批判している。
独立選挙監視団体ゴロスも、不正の可能性があったという報告を2100件ほど受け取ったと発表した。
ロシアの新型コロナ感染者数は65万人。アメリカ、ブラジルに次いで世界で3番目の多さである。今回の国民投票も本当は4月に予定されていたが、コロナの影響で延期していた。
しかし、結果は圧勝であり、プーチン氏はますまず絶対的な権力を手にしようとしている。
中国への返還から23年目の記念日を迎えた香港では、直前に成立したばかりの香港国家安全法に基づく徹底した取り締まりが行われ、これに抗議する人たち360人が拘束され、10人が逮捕された。
これまで抗議運動の中心に立っていた若手リーダーたちは当局の摘発を逃れて姿を隠し、香港の「高度な自治」は完全に崩壊した。
BBCはこの法律の危険性は、その表現の曖昧さにあると指摘している。
アメリカと香港の法律専門家チーム「NPCオブザーバー」の分析では、同法には懸念すべき点が多数特定された。
同チームのウェブサイト上の投稿によると、「新法の刑事規定は、これまで保護されているとされてきた言論を広く網羅するような、広範な言葉で表現されている」という。
おそらく、新法第29条はこの幅広い言い回しの一例と言える。
第29条には、外国人と共謀して中国中央政府あるいは香港当局への「憎悪」を誘発する行為は犯罪とみなされる可能性があるとある。
これには中国共産党に対する批判も含まれるのだろうか。
香港の鄭若驊(テレサ・チェン)法務長官は1日の記者会見で、この規定が何を意味しているのか正確に定義するよう求められたが、明確に答えられなかった。
第55条にも曖昧な表現が含まれている。
中国大陸側の保安当局者に対し、「複雑」で「深刻」あるいは「難解」な国家安全保障事件の一部を調査する権限を与えると書かれている。
NPCオブザーバーが指摘するように、第55条の表現も「非常に主観的で柔軟」に解釈できるものだ。
新法では、裁判が非公開で行われたり(第41条)、陪審員なしで行われたり(第46条)する可能性があるという。また裁判官は、中国に対して直接的な責任を負う香港特別行政区行政長官が任命できる(第44条)。
また、容疑者は保釈されないとある(第42条)。容疑者の拘束期間についても制限がないようで、事件は「しかるべきタイミングで」処理されるべきだとだけ記されている。
捜査から判決、処罰に至るまでの全てを、中国大陸の当局が引き継ぐこともできる(第56条)。
出典:BBC「【解説】 香港の「国家安全法」 なぜ人々をおびえさせるのか」
さらに、海外で暮らしている外国人にまで逮捕の危険性があると指摘する。
香港に居住していない外国人が起訴される可能性もある(第38条)。
中国問題に焦点を当てたブログ「チャイナ・コレクション」に投稿しているドナルド・クラーク氏は、チベット独立を提唱する米紙コラムニストが新法違反になる可能性もあるとしている。
「もしあなたが中華人民共和国あるいは香港当局の機嫌を損ねるような発言をしたことがあるなら、香港には近づかないように」と、クラーク氏はつづった。
出典:BBC
この法律の正体はまだわかっていない。
しかし、中国政府が「黒」と言えば、それは「黒」になる。裁量権はすべて北京に握られることは確実なのだ。
香港の普通の人たちは、これまでのように本心を口にすることが今度できなくなるだろう。
生まれた時から共産党政権下で生きてきた中国本土の人たちとは違う。
香港の人たちの恐怖、閉塞感はいかばかりだろう。
今後、多くの香港人が海外に逃げ出すだろう。イギリス政府は最大300万人を受け入れると発表した。1997年の香港返還の際に起きたような混乱がこれから起きるだろう。
しかし13億人の人口を抱える中国にすれば、香港の民主派が国を去ることは想定内であろう。たとえ香港経済が衰弱しようとも、中国全体から見れば許容可能なダメージに過ぎない。
むしろ経済重視の香港人たちは、民主派がいなくなり治安が安定することを歓迎している。中国政府の下でも商売はできることは、上海や深圳の繁栄を見れば疑いの余地はない。中国の巨大市場こそが、自らの経済的利益につながるのだ。

6月半ば、中国の巨大IT企業「テンセント」が深圳に未来都市の建設を計画しているとの記事を読んだ。
「ネット・シティー」と名付けられた200万平方メートルの都市開発では歩行者や緑地、自動運転車を優先するという。その広さは、モナコとほぼ同じ面積だという。
もはや香港の代わりはいくらでもある、中国政府はそう考えているのだろう。
こうした中で、AFPが面白い記事を配信していた。
タイトルは、「中国を世界一の大国と見なす欧米人、コロナ流行後に増加」。
その記事を引用させてもらおう。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を経て、中国を世界一の大国と見なす欧米人が増加したことが、6月30日に公表された世論調査の結果で明らかになった。米国を世界一の大国と見なす回答が依然最も多かったが、その割合は減少している。
今年1月と5月に行われた調査を比較すると、中国を世界で最も影響力のある大国だとする回答の割合は、フランスで13%から28%に、ドイツで12%から20%に、米国で6%から14%にそれぞれ増加した。
ドイツ・マーシャル基金パリ事務所のマルタン・クエンセス(Martin Quencez)副所長は、「世界における中国の影響力は(コロナ)危機の前はやや抽象的な概念だった」が、「例えばマスクや医療物資一つとっても、中国への依存度を考えた時、非常に具体性をもった」と分析。
同氏は、中国に対する認識の変化は世代や政治路線の違いを超えてみられるといい、今後も影響が持続すると予想。「危機に対する短期的な反応というよりも、もっと構造的なもののように思える」と指摘した。
出典:AFP
アメリカにトランプ大統領が登場したことで、世界の価値観は大きく揺さぶられた。
自由や民主主義というアメリカが体現してきた戦後世界の価値観がその内部から崩壊し、それに勢いを得た独裁者たちが世界各地で勢力をゆるぎないものにしようとしている。
極めて憂慮すべき事態がコロナ禍の世界で進行中だ。
その行き着く先に何が待っているのか?
考えるだけで、気が重くなってしまう。