世界中が注目するアメリカ大統領選挙の開票が始まった。

日本時間の4日午後7時の時点では、バイデンさんがわずかにリードしているが、事前の予想に比べてトランプさんの勢いが強く、鍵を握ると見られたフロリダを制し、テキサスやオハイオの大票田でも勝利をつかんだ。
勝敗の行方は前回同様、いわゆる「ラストベルト」の行方に絞られてきている。
中でも、ペンシルベニア州をどちらが取るかで勝負が決まりそうな情勢で、現時点ではトランプさんが大きくリードしていて、バイデン票が多く含まれると予想される郵便投票の扱いがまさに焦点となりそうだ。
事前にテレビが騒いでいた通りの法廷闘争という事態が現実味を帯びてきており、法廷闘争を避けられるとしたらバイデンさんの負けがはっきりしたケースだけだ。

バイデンさんは、「誰が勝ったかを宣言するのは私でもトランプ氏でもない。米国人の決断だ」と述べた上で、「我慢しなければならない」とバイデンさんらしく常識的なコメントをした。
一方の、トランプさんはあくまでトランプさんだ。

トランプさんは支持者を前に、「我々はこの選挙に勝とうとしており、率直に言えば、勝った」と事実上の勝利宣言を行い、「我々は最高裁判所に行くだろう」と事前の予言通り法廷闘争に持ち込む可能性を改めて表明した。
やっぱりトランプさんの方が、ずっとニュースバリューが高いのだ。
あと4年、この男がホワイトハウスに居座ることを私たちも視野に入れて、心の準備をしなければならない。

そんな運命の日、私はテレビも見ずに岡山で草刈りをしていた。
10月に必死で草刈りをした甲斐があり、葡萄畑の状況は先月に比べて随分落ち着いた。
秋になってさすがの雑草も勢いが落ちてきて、新規に大きく育った雑草はない。
ただ、10月に刈り残したセイタカアワダチソウは、高さが3メートルほどに成長しぶどうだなよりもずっと高くなっていた。

一方、畑を支配していたセイダカアワダチソウのような背の高い雑草を前回集中攻撃したためか、今は畑全体をススキや猫じゃらしといった一見優雅な雑草が覆っている。
秋らしくて、こんな雑草なら悪くない。
ただ、これらのイネ科の雑草は、いざ草刈りをしようとするとセイタカアワダチソウよりもずっと厄介だ。
私の電動草刈機に絡みついて回転刃をうごかなくして、度々作業を中断させられる。

この畑をめぐる雑草の盛衰を眺めながら、アメリカ大統領選挙を思った。
繁殖力が強くて圧倒的な存在感を見せるセイタカアワダチソウがトランプさん。
そして、地味だが粘り強く、いざとなると草刈機にからみつくイネ科の雑草がバイデンさんだ。
私は基本的にリベラルなので、真っ先にセイタカアワダチソウ=トランプさんをやっつけようとするが、夏場だと1ヶ月もすると私の草刈りをあざ笑うかのように元のように畑を支配していた。
しかし、秋が来るとセイタカアワダチソウの勢いは衰える。
背の高い威張った雑草がなくなると、いつの間にかイネ科の雑草が畑を支配するようになるのだ。

そういう意味では、アメリカはまだ夏なのかもしれない。
刈っても刈っても生えてくるセイタカアワダチソウ=トランプさんの勢いは、メディアの予想よりも強かったようだ。
はっきり言って、大統領がルールを守らない国の選挙結果など予測するだけ無駄である。
一つ言えるのは、バイデンさんには人々を引きつける魅力がなかったということだ。
「アンチトランプ」だけで仮に勝利をつかんだとしても、きっとアメリカは融和へは向かわないだろう。

しかし、雑草まみれの畑にも新たな希望は見つかるはずだ。
私が雑草たちを刈っていると、その中に埋もれて若々しい葉っぱが見えた。
ニンジンだ。
おととし私が妻とタネを蒔いたニンジンが勝手に根付き新たな芽をふいていたのだ。

引っこ抜いてみると、小さなニンジンが地中にできていた。
これは何かの暗示かもしれない。
トランプさんもバイデンさんも雑草かもしれないが、その中に次の野菜が育っている。
それはまだ世の中に見出されていないかもしれないが、いつまでもトランプさんの時代は続かないのだ。

地中に埋まっていたニンジンを掘り出して、水道で洗ってみた。
小さくていびつで、細いヒゲがいっぱい生えた不恰好なニンジンだが、私には未来の希望に見えた。
「バックトゥザ・フューチャー」で、悪役のビフがいつも負けるように、最後は人間の悪意は善意に負ける。
そう信じながら、大統領選の行方を静かに見守りたいと思う。