「片上のおばちゃん」の葬儀を終え、母の様子もさほど心配ないと判断したため、昨日吉祥寺に帰ってきた。

秋分も過ぎ、公園の緑にも徐々に秋色が濃くなっていく。
今日から秋分の次侯「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」になるという。
「寒さを恐れ、虫が地中に姿を隠す頃」という意味だそうで、「啓蟄」の逆ということだろう。
そう言われてみると、ベランダに出ても一時ほど虫の鳴き声がうるさくない気がする。

岡山ではこの季節、ものすごい数の虫たちが身の回りに蠢いていた。
大きなバッタやカマキリもいるが、一番厄介なのは食物連鎖の下の方に位置するであろう極小の羽虫たちで、車のドアを開けるたびに大量の虫が車中に飛び込んでくるのには閉口した。
それでも鈍感な私はなんとか適応できそうだが、虫が嫌いな都会人にはリアルな田舎は結構きつい。

その点、井の頭公園では、見かけるのは主にトンボや蝶であり、虫が苦手な女性たちにも安心して散策が楽しめる。
夜になるといろんな虫が一斉に鳴き始めるのだが、私にはまだどの音色がどの虫によるものなのかを聞き分けることが難しい。
先日、NHKの「ダーウィンが来た」で虫の鳴き声特集をやっていたので録画したのだが、バタバタして再生する時間がないまま秋が過ぎていくのはちょっと残念である。
いずれにしても、こうした虫たちの営みが短い命を燃やして子孫を残そうと必死で努力している証だと知れば、寒さと共に姿を消す虫たちにもシンパシーのようなものを感じたりもする。

さて、暑さが収まるに連れて勢いが衰えているといえば、新型コロナウィルスもそうだ。
8月下旬をピークに新規感染者数は減少を続けていて、昨日はついに東京都の新規感染者数が154人にまで減少した。
およそ半年ぶりの低い水準だという。

それにしてもなぜ、これほどスムーズに減少しているのかは専門家にもよくわからないようである。
9月に入って東京の人流は減るどころか明らかに増加していて、夜間営業している居酒屋も確実に増えている。
誰も言わないが、私は密かに気温との関連を疑っているのだ。
第5波の主役となったのはインド由来のデルタ株である。
このウイルスがインドで最初に猛威を振るったのは、インドで最も暑い5月ごろだった。
その後デルタ株は東南アジアなど暑い地域で大流行して日本にやってきた。
そして日本での医療崩壊を引き起こし過去最悪の第5波となったのは、7〜8月という真夏の時期であった。
当初コロナウイルスは暑さに弱く夏場には流行らないと専門家は指摘していたが、デルタ株はどうみてもこのパターンには当てはまらないようである。

こうした全国的な減少傾向を受けて、政府は今月末で期限を迎える緊急事態宣言とまん延防止措置を全面解除することを決めた。
すべての宣言が解除されるのは半年ぶりのことである。
総裁の任期がもう少しあれば、菅総理も退陣に追い込まれることなく苦境を乗り切れたかも知れないと同情するが、これも巡り合わせである。
「蟄虫坏戸」。
虫が人知れず姿を隠すように、ウイルスも人間の思惑とは関係なく姿を隠しただけかもしれない。
所詮、人間の持つ科学など大したことはないのだ。
この先いつまたウイルスが姿を現すのか、その時どんな変異を遂げているのか・・・専門家でも予測はできないのである。
自然に逆らわず、粛々とこれまでと変わらぬ行動を心がけるしかない。
<吉祥寺残日録>頑張れテレビ! Nスペ「謎の感染拡大〜新型ウイルスの起源を追う〜」に見るデジタル時代の調査報道の可能性 #201228
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