<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺BS1スペシャル「中国共産党100年 “紅い遺伝子”の継承」 #210824

岡山に帰省中に録画したテレビ番組を順番に見ている。

その中に実に興味深い番組があった。

やっぱり今、取材対象としての中国が圧倒的に面白い。

BS1 スペシャル「中国共産党100年 “紅い遺伝子”の継承」。

今年7月に盛大に催された中国共産党創建100年式典の舞台裏で、中国の辺境部で繰り広げられた人間模様を実に生々しく描いた傑作である。

NHKのホームページには、番組内容が次にように紹介されている。

結党100年を迎えた中国共産党は、14億人を一党独裁で統治している。「紅い遺伝子の継承」を掲げた新たな思想教育とは?習近平指導部が進める「原点回帰」とは。中国共産党の歴史は、現代にどう伝えられているのか。そして、多額の投資が動く地方開発、富と格差。ある地方の共産党支部の3か月の記録から見えてくる、中国のいまに迫る。

引用:NHK

習近平一強体制の下で強まる思想教育。

9500万人の党員を擁する中国共産党は、習近平氏を頂点とする上意下達のピラミッド、上からの命令は絶対であり、末端の共産党幹部は上部組織が決めた目標をどんなにくだらないことでも実現することが求められる。

番組では、毛沢東の生まれ故郷である湖南省の2つの村を3ヶ月間取材した。

この番組の中から、私が面白かった部分を書き残したいと思う。

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中国共産党100周年に合わせて、中国では今「赤いツーリズム」と呼ばれる国内観光がブームである。

毛沢東を中心とする中国共産党ゆかりの場所を訪ね、党創設の理念を知る愛国主義運動であり、そのことは様々なメディアが取り上げ日本でも知られている。

番組は湖南省韶山から始まる。

ここには国家の重要文化財である毛沢東の生家があり、年間2500万人の中国人が訪れる。

新たに毛沢東の巨大像が作られ、ここを訪れた観光客たちはガイドの指示に従って深々と3度お辞儀をした。

習近平指導部は今、「人民に奉仕する」という100年前の結党時への原点回帰を求めている。

この革命の聖地韶山から南に400キロ、カメラは中国共産党との縁で村おこしに成功した沙洲村を取材した。

人口500人ほどのこの村は、国共内戦当時に共産党が行った「長征」の通過地点となり、当時のエピソードが残っている。

紅軍の女性兵士3人が、泊めてもらった村人・徐解秀の家のあまりの困窮ぶりに同情し自分たちが使っていた布団を差し出そうとしたところ、村人が固辞したため、布団を半分に切り半分を村人に与えたというものだ。

この「半分の布団」と名付けられた物語は、2016年習近平総書記が紅軍長征勝利80周年大会で紹介したことから、中国共産党の精神を象徴するエピソードとして中国全土に広まった。

村では早速「半分の布団博物館」を建設、半年で100万人が訪れたという。

博物館を訪れた共産党員たちはここで共産党の原点を学び、拳を突き上げながら「いつまでも党と人民のためにすべてを犠牲にする準備ができています」と入党宣言を全員で唱和するのだ。

博物館に入るとまず習近平総書記の演説を流す巨大スクリーンがあり、「半分の布団」の物語を伝える劇が地元のボランティアによって演じられる。

半分の布団を受け取った村人の最後の決め台詞。

『共産党とは何か。共産党は一枚しかない布団を人民に半分分ける人です』

この劇を見て涙する観客。

劇の台本は共産党の宣伝部が制作したもので、しかも博物館に展示されている「半分の布団」は実物ではないという。

この博物館には習近平総書記自ら足を運び、「半分の布団」で有名となった沙洲村は、「紅い遺伝子」を学ぶ重要拠点として共産党上層部から様々な開発指示を受けることとなった。

4月には、党幹部の研修施設「紅培党校」の建設が始まり、7月1日の100周年に間に合わせととの無理な目標が設定された。

共産党の物語で村おこしに成功した村の責任者は、一転して過重な要求に苦しむことになる。

上部組織である省や県の幹部が次々に乗り込んできて、勝手な指示を出していく。

村の幹部たちは一切発言することができず、ただ指示を実行するだけの日々が続く。

『ひとつ忘れてはならないことがあります。党員は(前線に立つ)“一枚の旗”、党の支部は“戦闘要塞”です。党員は求められる模範的な役割を担います。』

取材カメラは、沙洲村から30キロ離れた官亨村も、同時に取材していた。

人口2000人余りの官亨村も、革命の歴史を利用して観光地化を目指す村のひとつだが、こちらにはさっぱり観光客が訪れない。

この村には、「一枚の借用書」というエピソードがある。

長征中の紅軍兵士たちに村人が食糧を分け与え、お金のなかった紅軍は手書きの借用書を村人に残したという物語である。

6年前、村はこの借用書の物語をもとに観光開発を始め、一部の村人を立ち退かせて「一枚の借用書陳列館」も作った。

この村にある高台は周囲が見渡せる景勝地で、かつて共産党と国民党が戦った激戦地でもあるのだが、観光客は一向に訪れず、財政難の村では博物館の電気代も滞納する有様だ。

上部組織に訴えても相手にしてもらえず、村人が生産する生姜の価格は安く、結局出稼ぎに頼るしか生きる術がない。

村には党の資金で貧困撲滅を目的とした工場が作られ、アフリカ向けのバッグなどを生産している。

100人ほどの労働者が月2万円の収入を得るが、村人全員を雇える収入はない。

やはり「一枚の借用書」の活用しか道はないと考えた村の幹部は、この物語を劇に仕立てコンテストで上位に入ることを目指す。

上部組織とのパイプもない村にとって、「一枚の借用書」の物語を有名にすることは党の注目を引きつける唯一の手段だったが、残念ながらコンテストの成績は最低で村幹部の希望は断たれた。

100周年を前に、沙洲村では「紅い遺伝子」の継承が強化された。

幼稚園から中学までの子供たち1000人を集めて、かつての紅軍の精神を学ぶ課外授業が行われたのだ。

人民解放軍の元兵士が教師役となり、「弾薬も食糧も尽き果てた中で敵のトーチカを爆破できるか」「飢えと寒さに苦しめられても雪山を乗り越えられるか」と問う。

子供たちが「できます!」と答えると、元兵士は「幼い勇者たち、君たちは新時代共産主義の後継者だ」と檄を飛ばし、子供たちは順番にトーチカに向かって手榴弾を投げる訓練を受ける。

さらに「半分の布団」を商品化しインフルエンサーを起用してネット通販で全国に販売したり、「紅い遺伝子」の体験施設を建設する話が持ち込まれたりと、習近平さんの一言からにわかに有名になった小さな村は今、共産党特需に沸いているのだ。

「半分の布団」の成功は、物語の主人公である徐解秀の孫・朱小紅さんの人生も大きく変えた。

「半分の布団博物館」の警備員をしている朱さんは、村を訪れる観光客を見込んで食堂と旅館を開いたのだが、そこに習近平総書記が視察に訪れたのだ。

店は一気に有名となり大繁盛、朱さんの収入は12倍に増えた。

朱さんの姪は「半分の布団」解説員になり一躍有名人となった。

物語の舞台となった自宅は観光地となり、朱さんの父はここで毛沢東のバッジなどを売るビジネスを始めた。

番組の最後には、こんなナレーションが流れる。

『かつて困窮する農民と労働者の支援と救済を掲げ結党された中国共産党。目指したのは中国の民が平等に暮らせる国家の建設だった。そして100年後、権力との距離が新たな格差を生む現実があった。14億人の紅い遺伝子がどこへ向かうのか?』

もう一本、中国の今を描いた興味深いドキュメンタリーを見た。

NHKワールドJAPANの「Asia Insight」という番組で放送された「北京 怒りの部屋」という作品である。

NHKのホームページにはよると・・・

北京にある「スマッシュルーム」。この店には、若者を中心に多い時には毎月800人が訪れ、破壊することでストレスを発散させている。ノルマに追われる職場への不満、少子化の中すれ違う親子の思い、性的マイノリティへの偏見などがその原因。社会主義と経済発展、伝統的価値観などの矛盾が表面化し、うつ病患者が9000万人に上ると言われるストレス大国・中国。「スマッシュルーム」にカメラを据え、実態を浮き彫りにする。

引用:NHK

これはかなりシュールな番組で、お金を払って破壊する物を買い、金属バットで打ち壊してストレスを発散しようと集まる人々を取材している。

破壊する対象は、瓶60本で4200円、マネキン1体2100円などなど。

日本もかなりのストレス社会ではあるが、この番組を見ると中国人の若者たちが感じているストレスは比べ物にならないぐらい大きいようだ。

「受験のプレッシャーがたまらない」

「あの男をぶん殴りたい」

「仕事の成果を横取りされ、尻拭いをさせられる」

「歳をとったら、社会に捨てられないかと不安だ」

中国社会に残る伝統的な価値観や絶え間なく襲いかかる熾烈な競争、ノルマのきつい職場、上司に逆らうとたちまちクビになってしまう労働環境・・・。

「職場は銀行です。周囲は監視カメラだらけ。上司の顔色ばかり気にして何も言えない。顧客に罵倒されても耐えるしかない。反論したらクビにされるから」

「父との関係がこじれています。父が私に期待するのは学業面だけ、生活には無関心です。父の期待に応えられなかったら、私は娘として失格だと言われます。私は父への怒りを抑えられません」

ストレスの種は実に多様だ。

地方から上京した男性は北京戸籍を持つ女性と交際しているが、彼女の父親から戸籍目的での結婚ではないかと疑われ、新居を買うことを結婚の条件とされ大きなストレスを抱えていた。

短期間に世界の超大国に駆け上がった中国。

しかし14億人が暮らす社会の内部は矛盾だらけで、中国人から見ると、日本社会などぬるま湯のように見えるのだろう。

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「現代ビジネス」というサイトに面白い記事が載っていた。

中国政治の専門家、近藤大介さんが買いた「文化大革命の再来か…! 中国経済を揺るがす「共同富裕」という強権発動」という記事である。

この記事のテーマは、習近平さんが掲げた「共同富裕」という言葉。

主なポイントを引用させていただこう。

今夏の場合、8月17日に早速、その「強烈なアクション」が始動した。中国共産党中央委員会総書記、国家主席、中央軍事委員会主席、それに中央財経委員会主任でもある習近平(しゅう・きんぺい)氏が、中央財経委員会第10回会議を招集したのだ。

この日のテーマは、「共同富裕問題の着実な促進の研究」。例によって、習近平主任が、長い重要講話をぶった。その要旨を、以下に訳す。

「われわれはいままさに、第二の100年(2021年7月の中国共産党創建100周年に続く2049年の建国100周年)に奮闘目標に向かって邁進中である。わが国の社会の主要な矛盾の変化に適応し、国民が日増しに望む快適な生活の需要をさらに満足させようとしている。それには国民全体の共同富裕の促進を、国民が求める幸福の力点に定め、党の長期の失政の基礎を固めていかねばならない。

共同富裕とは、国民全体の富裕であり、庶民の物質生活と精神生活がともに富裕になることだ。少数の人が富裕になることではなく、平均主義の線引きをすることでもない。段階ごとに共同富裕を促進していく必要がある。

勤労とイノベーションによって新たに富むことを奨励し、発展の中で保障と民生の改善を堅持していく。国民の教育水準を引き上げ、発展能力の創造を、おしなべて公平な条件を向上させるように増強していく。その向上が流動していく道を開通させ、より多くの人に創造が富につながる機会を与え、人々が参加する発展環境を形成していく。

中産収入の比重を拡大し、低収入の人々の収入を上げ、高収入の調整を合理的に行うのだ。非合法の収入を取り締まり、中央を増やして両端を減らす楕円型の分配構造を形成し、社会の公平と正義、人々の全面的な発展を促進し、国民全体が共同富裕の目標に向かってしっかりと邁進していけるようにするのだ。

高収入への規範と調整を強化する必要がある。合法的な収入を保護するとともに、高すぎる収入を合理的に調節し、高収入の人々と企業が、さらに多く社会に還元するよう奨励するのだ。不合理な収入の規範を整理し、収入分配の秩序を整頓し、非合法の収入を決然と取り締まるのだ。

財産権と知的財産権を保護し、合法的に富をなした富を保護すると同時に、各種資本の規範の健全な発展を促進するのだ。国民の精神生活の共同富裕を促進し、社会主義の核心的価値観(2012年以来、習近平総書記が唱えている富強・民主・文明・和諧・自由・平等・公正・法治・愛国・敬業・誠信・友善の価値観)のリードを強化し、国民の多様化・多層化・多方面の精神文化の要求を不断に満足させるのだ。

共同富裕への世論の誘導を強化、促進し、共同富裕への良好な世論環境の提供を促進していくのだ。農民農村の共同富裕を促進し、脱貧困攻撃(貧困撲滅運動)の成果を確固として展開し、郷村の振興を全面的に推進し、農村のインフラと公共サービスシステム建設を強化し、農村の居住環境を改善するのだ」

「共同富裕」を別の言葉で言い表すなら、「調高、拡中、増低」である。高所得者層の有り余る財産を、低所得者層に回そうということだ。要は「共同富裕」の名の下に、韓国の左派政権がお得意とする「財閥叩き」のようなことが、中国で始まろうとしているのである。

特に狙いをつけられているのが、振興著しい大手IT企業(及びその創業経営者)だ。だからこそ、恐れをなしたテンセントは、邦貨8500億円もの資金を差し出したのである。ちなみに、テンセントの深圳の本社ビルの前には、「共産党とともに創業する」と大書したモニュメントが飾られている。

習近平政権が突如として掲げ始めた「共同富裕」という言葉は、実は新語ではない。

習近平主席という指導者は、一言で言えば、何でも崇拝する毛沢東(もう・たくとう)主席のマネをする人だが、今回も例外ではない。

毛沢東主席が「9つの敵」とみなしたのが、地主、富農、反革命、悪人、右派、叛徒、特務、走資派、知識分子だった。特に標的にしたのが富裕層で、財産をすべて没収したどころか、一族をすべて貶(おとし)めた。

もしも毛沢東主席がいまも存命なら、真っ先に叩くのがアリババだろう。アリババは、昨年11月3日、子会社のアント・フィナンシャルが上場のわずか2日前に、中国当局から上場をストップされた。そして今年4月10日には、中国当局に史上最高額の182億2800万元(約3100億円)もの罰金を喰らった。

そして「共同富裕」のキャンペーンが始まった後、正確には8月21日夜7時半、党中央紀律検査委員会と国家監察委員会の共同ホームページは、漢字45文字からなる小さな「通知」を掲載した。

〈 浙江省党委常務委員、杭州市党委書記の周江勇は、重大な紀律法律違反の容疑により、現在まさに中央紀律検査委員会と国家監察委員会の紀律審査と監察調査を受けている 〉

杭州市トップの周江勇(しゅう・こうゆう)書記は、杭州市に本社を置く「アリババの後見人」と言われる男である。アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏とは「刎頸(ふんけい)の友」で、2019年9月7日には馬雲氏に「功勲杭州人」の称号を与えている。その馬雲氏も、自宅に「蟄居」したままだ。

「共同富裕」とは、もしかしたら中国に嵐を呼ぶものなのかもしれない。

引用:現代ビジネス「文化大革命の再来か…! 中国経済を揺るがす「共同富裕」という強権発動」

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毛沢東に並ぶ権力を手にした習近平総書記。

中国共産党100年にあたって彼が打ち出した「紅い遺伝子」と「共同富裕」というキーワードは、中国社会のみならず世界中に広がる格差社会に対する大きな挑戦かもしれない。

アリババやテンセントなど中国を代表する巨大IT企業に対する締め付けが中国経済に何をもたらすのか?

習近平氏に対する個人崇拝が超ハイテクな独裁国家を生み出すのか?

やはり中国からは目が離せない。

<吉祥寺残日録>怖いけれど面白い!中国という国の圧倒的なダイナミズム #210419

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