<吉祥寺残日録>コロナとメディア #200402

今日の日本経済新聞の一面トップを見て、私は驚いた。

記事のタイトルは、「コロナ検査、世界に後れ 1日2000件弱で独の17分の1」。

記事の内容に驚いたのではなく、今頃こんな自明の内容を日本有数の高級紙が一面トップに持ってきたことである。

記事の冒頭を引用する。

『 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、日本が検査で後れをとっている。検査数は1日2千件を切っており、100万人あたりの検査数はドイツの17分の1だ。感染の実態を正確につかみ、きちんとした対応策を打ち出すには、検査の拡充が欠かせない。そのために軽症者は自宅で療養させるなど重度に応じた医療の仕組みをつくることが急務だ。』

こんな話、私のブログでも2ヶ月前から指摘しているし、一部のテレビ番組でも2月初めからずっと指摘してきた。

それがどうして今頃になって一面トップの記事になるのだろう?

これこそが、今まで多くのメディアが検査の問題を軽視してきた証である。

ちなみに各国の検査数を100万人あたりの件数で比較すると・・・

改めて日本の検査件数の少なさには驚かされる。日経もどうせならドイツではなく韓国と比較すればいいのに、韓国の名前を出すと、嫌韓派が騒ぐのだろう。

日経の記事の中に、検査が進まない理由についてこんな記述があった。

『 厚生労働省は検査の網を広げすぎると、誤判定も含めて入院患者が急増して病院が機能不全に陥り、医療崩壊につながると警戒していた。』

おそらく、「検査を増やすと医療崩壊が起きる」という厚労省の論理が記者クラブを通して、主要メディアに浸透してきたのかもしれない。メディアで働く人間が、どうしてそんな厚労省の作り話を信じるのか私には理解できない。メディアで働く者は、まず当局の言う事を疑って現場を取材するのが常識だろう。

新聞やNHKを始めるテレビニュースが検査問題を積極的に取り上げないことにずっと違和感を感じていた。韓国のドライブスルー方式が登場しても、日本のメディアの中には「あれでは医療崩壊が起きてしまう」と否定的に取り上げることが多かったように思える。

しかし韓国では今でも医療崩壊は起きていない。むしろ、なんの準備もせずに時間を浪費してきた日本の方がよほど医療崩壊の危機に瀕しているのだ。

私同様、この記事の扱いに違和感を感じたのだろう、韓国の中央日報がこの日経新聞の記事を記事にしている。日経新聞がなぜ今になってこんな記事を一面トップで伝えたのか、中央日報は次のように分析していた。

『 その間、日本社会内には「検査を増やして感染者数が増えれば病院の病床が不足し、医療崩壊が起こりかねない」という共感があった。このため日本メディアもこの問題を本格的に指摘するのに慎重だった。

日本の権威紙の日本経済新聞がこのように大々的に問題を提起したのは異例で、「少ない検査数のため感染が拡大してはいけない。このままではいけない」という切迫感が作用した可能性がある。』

背景にあるのは、昨日の専門者会議の会見で「すでに医療体制はひっ迫している」と危機感が表明されたこと、ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授からも検査の実施と継承者を収容する施設の設置を強く求められたことなどがあるのだろう。

それにしても、今更何を言っているのかと感じる。

今やネットに押されて新聞はどこも大変だ。私も実際、ネットで新聞記者が書いた記事を読んでいる。新聞社に金が入らなくなれば、記者の数を減らさざるを得ないし、取材に使えるお金も減ってくる。

今では、どこの新聞社よりもYahoo! ニュースの方が世論に対する影響力を持っているが、Yahoo! ニュースは所詮新聞や雑誌の記事の寄せ集めである。

最近のYahoo! ニュースを見ていて感じるのは、テレビのワイドショー出演者の発言が驚くほど多く紹介されていることだ。出典を見ると、多くはスポーツ紙の記事である。ネットの出現により駅売りの新聞が売れなくなり、結果として取材に使う金がなくなったスポーツ紙は、テレビを見ながら出演者の発言をただ垂れ流している。そこには自ら取材すると言うメディアの存在理由が欠如している。

本当に情けない。

そんなどうでもいい記事をピックアップするYahoo! ニュースにも責任がある。ワイドショー出演者だけでなく、有名人の発言なども紹介するのだが、なぜか百田尚樹や高須クリニックとか極端な論者のものが多い。ネット住人に受けがいいのかもしれないが、日本で最も影響力があるメディアとしては如何なものかと思う。

コロナショックは、日本だけでなく世界を大きく変える可能性がある。

もし大恐慌となれば、これまでアベノミクスで隠されてきた矛盾が表面化し、社会的な混乱が起きるかもしれない。

今こそ、メディアの責任は重大である。

誰が検査数を絞り込む判断をしたのか、誰が「検査をすると医療崩壊が起きる」との言説を振りまいたのか、誰が軽症者を別の隔離施設に移す事を阻んでいるのか、そうした政権内や厚労省内の闇を取材し、ずっとモヤモヤしている国民の疑問に応えてもらいたい。

今日テレビ朝日の「ワイド!スクランブル」に生出演した小池都知事が、「緊急事態宣言が出ないのは経済への影響を気にしているからか?」と問われ、「経済ですかねえ」と思わせぶりな発言をしたのが、個人的にとても気になった。

番組ではそれ以上その点を小池知事に聞くこともなかったので小池さんが何を言いたかったのかはわからない。ただ彼女の口ぶりからは、安倍総理が緊急事態宣言を出さない知られざる理由がありそうな気配を感じた。

東京での感染者は日々増えていて、今日は過去最多の97人の感染者が確認された。

明日にも緊急事態宣言が出されると私は思っている。

テレビ局でも陽性者が見つかって、建物への出入りが厳しく制限されるようになった。ドラマのロケなどにも影響が広がっていて、NHKの朝ドラや大河ドラマのほか、この春一番注目されていたTBSの「半沢直樹」のロケも中止され放送日が延期となった。報道情報番組の作り方にもいずれ影響が及ぶかもしれない。

外出禁止措置が取られている欧米では、記者が自宅からリポートすることが日常の風景となっていると言う。

コロナショックは、ますます社会のオンライン化を進め、メディアのあり方もきっと大きく変わるだろう。

でも、どんな形式になろうとも、当局の発表を鵜呑みにせず、自分で取材して正しいと信じる情報を発信することがメディアの存在意義である。取材しないメディアなど必要ない。疑わない記者も必要ないのだ。

このコロナ騒動ではこのところ若者の行動が問題視されている。ここ数日の東京で見つかった感染者でも、若者や盛り場で働く人の比率が高いとテレビで取り上げられている。

しかし、その数字を安易に信じてはいけない。それはあくまで東京都が特定のクラスターを追跡して出てきた感染者数であって、東京の感染状況を全て反映したものではない。もし高齢者を集中的に検査すれば全く違った結果が出てくるはずである。

今の若い記者さんたちはおそらく素直な人が多いのだろう。空気を読むことに長けているかもしれない。でも、記者は空気を読んではダメだ。人は自分に都合のいい事を話す。聞かれたくないことは隠す。言葉の端から感じる違和感を大切にし、疑いの目を持って現場を取材すると違った現実が見えてくることがある。

日本政府のコロナ対策は最初から強い違和感がある。

森友加計問題でも、桜を見る会でも、検察人事でも感じた強い違和感。

それでも内閣支持率は下がっていない。

私は、安倍総理は日本の政治家としては珍しい外交能力を持っていると思っているが、どうしても信頼できない。ただ、これだけ後手後手の対応でも、世の中には安倍さんのことが好きな人が多いようである。

遠くない将来、緊急事態宣言が出されると予想されるが、その時大切になるのは信頼感だと思う。

たくさんの言葉を発しながらもなかなか見えてこない安倍総理の心の内。

それを理解できるように国民にわかりやすく報道する事を、メディアで働く私の後輩たちに託したい。

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