北京オリンピックとウクライナ危機で、家にいながらハラハラドキドキの2月が終わった。
いつの間にかすっかり春めいてきて、このところ東京の最高気温は15度を超える日が続いている。

さて、世界中が心を寄せるウクライナでの戦争にも春の兆しが見えてくるのだろうか?
軍事侵攻後初めて、ウクライナとロシアの和平交渉が始まった。
会談はベラルーシとの国境地帯で行われたが、正確な場所は明らかにされていない。

ベラルーシ国境からロシア軍の戦車がキエフに向かっている中で、どうやってウクライナの代表団が会場に向かうのだろうと思っていたら、どうやらヘリコプターで行ったようだ。
軍事侵攻の直後、ロシア側はウクライナの制空権を確保したと発表したが、その後アメリカなどからはまだ完全に制空権は握っていないとそれを否定するような情報も流された。
停戦が実現していない中で、ウクライナ代表団がヘリで交渉場所に到着した事実を見れば、アメリカの情報が正しいことがうかがわれる。

では肝心の交渉の中身はどうだったのか?
両国代表団の対話は24日の侵攻開始から初めて。ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介した。ロシアはメジンスキー大統領補佐官が代表団を率い、外務、国防両次官も加わった。ウクライナ側はレズニコフ国防相やポドリャク大統領府顧問らが参加した。
ウクライナの通信社ウニアンによると、約5時間に及ぶ対話終了後、ポドリャク顧問は停戦に向けた「優先的テーマを明確にし、これらに関する一定の解決方法が示された」と述べた。ゼレンスキー大統領ら政権幹部と進展が可能かどうかを協議するという。
一方、ロシア代表団に加わった下院のスルツキー外交委員長は国営テレビに「前進が可能ないくつかの重要な項目が見つかった」と指摘した。対話の結果をプーチン大統領ら政権幹部と協議すると述べた。
ウクライナ、ロシア双方は対話を継続したい意向も示した。ロシア代表団を率いるメジンスキー補佐官によると、次回の対話は数日以内にもポーランドとウクライナの国境地域で行われる可能性がある。
引用:日本経済新聞
停戦交渉が始まったことと、ここ1〜2日キエフ市内が比較的静かなことで、いきりたっていた西側のメディアや世論も少し落ち着きを取り戻しつつある。

軍事侵攻から5日目となる日曜日、キエフ市内では36時間の外出禁止令が解除され、食料品店の前に市民の行列ができた。
しかし、多少なりとも戦争取材をしたことがある人間から見ると、逆にここ数日が非常に危ない気がする。
張り詰めていた緊張感を緩めて敵の戦意を下げるというのは戦争の常套手段だからだ。
ロシア軍の侵攻が始まった時、軍事専門家たちは2日でキエフが陥落すると見ていた。
だが予想以上のウクライナ軍の奮闘によりロシア軍のシナリオは狂った。

激戦が繰り広げられたとされるキエフ郊外のプチャとされる映像では、焼けただれた戦車や瓦礫が散乱していた。
そこはまさに戦場であり、本格的な戦闘が始まれば、美しいキエフの街もこんな姿になるのだ。
緒戦の善戦と国民を鼓舞するゼレンスキー大統領のビデオメッセージによって、ウクライナ市民の士気が高まり、志願して銃を手に取る人が日増しに増えている。
しかしこうした素人戦士にとって、先に何が待っているのかを予測するのは難しいだろう。
一旦、張り詰めていた緊張感が緩んでしまうと、ロシア軍の総攻撃が始まった時に、戦う気力を取り戻すことは難しくなる。
それがロシア側の作戦ではないかと私は感じる。

事実、キエフの北方ベラルーシの国境近くでは、長さ60キロに及ぶロシア軍の車両の列が目撃されている。
停戦交渉の継続をウクライナ側に認めさせ、話し合いによる解決の期待を抱かせておいて、その間にロシア軍の主力部隊がキエフを包囲し数日以内に総攻撃を仕掛ける、そう思えてならないのだ。
米欧諸国が相次いでウクライナに対する武器供与を決める中、時間が経てば経つほどウクライナ側の防御力が強化され、ロシア市民の反戦運動も活発化する可能性が高い。
国際社会から提供される資金援助を使って、外国からプロの傭兵を雇うことも可能だ。

プーチンさんが何も取れないまま撤退することは考えられない。
態勢が整えばロシア軍の総攻撃が始まるだろう。
それはここ数日か、1週間以内の可能性が高い。
にわか作りのウクライナ市民部隊ではとても太刀打ちできない本格的な戦闘となるのではないかと私は懸念している。
停戦交渉が決裂しなかったことで油断してはならない。
本当の正念場はこれからなのだ。

週明けのマーケットでは予想通り、ルーブルが暴落し、ロシア株の取引も停止されるなど、西側の経済制裁はかつてない速さでロシア経済を追い詰めている。
欧州中央銀行(ECB)は28日、ロシア最大の銀行であるズベルバンク傘下の「ズベルバンク・ヨーロッパ」などについて、破綻状態にあるか、破綻する可能性が高いと発表した。
EUの中央銀行であるECBがこのように銀行の破綻を予め警告するなど極めて異例なことだ。
ルーブルの暴落を受けて、ロシア中央銀行は金利を倍以上の20%に上げると発表した。
かつてない厳しい制裁がこのまま続けば、ロシアがデフォルトに陥るだろうとの観測も流れ始めた。

これを受けて、ロシアでは多くの人が銀行の前に列を作り預金を引き出す動きが始まっている。
軍事侵攻からわずか数日の間に、これほどの経済的ダメージを受けるとはプーチンさんも予想していなかったことだろう。
ウクライナでの戦争が終わっても経済制裁は直ちに解除されないだろうから、ロシア市民の生活は極めて厳しいものになるに違いない。
いくら制裁慣れしていると言われるロシア市民だが、大義のない戦争によって世界中を敵に回した今回のウクライナ侵攻に対する不満がプーチンさんの足元を危うくする可能性もある。

私が注目していた極東での巨大プロジェクト「サハリン2」についても、イギリスの石油大手「シェル」が事業からの撤退を発表した。
サハリン2の液化天然ガスの生産量は年約1000万トン、その多くが日本に輸出されていて、プロジェクトに出資している三井物産と三菱商事の対応に世界の目が注がれることになる。
北方領土問題解決のためにプーチン氏の信頼を勝ち取るため、安倍元総理の強力な働きかけによって両社の出資が決まった経緯がある。
日本政府としては、欧米の制裁に同調することで「サハリン2」の話を避けてきたが、「シェル」が撤退を決めたことで日本のメディアでもこの問題が報道されるようになった。
日本のエネルギー安全保障の観点から言えば極めて厳しい決断となるが、「サハリン2」がプーチン側近が主導するプロジェクトである以上、中断は避けられないのではないかと思う。
ロシアに輸入の半分を依存するドイツやイタリアが苦しい決断を下した今となっては、日本の言い訳は通用しないだろう。

日本政府は、欧米の制裁に追従するように、プーチン氏個人の資産凍結やロシア中央銀行に対する制裁も決断した。
さらにロシアの軍事侵攻に協力したベラルーシに対する制裁も行う方針だ。
ベラルーシでは27日、非核を謳った憲法を改正するための国民投票を行い、非核の地位を放棄することとルカシェンコ大統領にさらに2回の任期延長などを認めるとする憲法改正案を承認したという。
65%の国民が憲法改正を支持したと発表したが、ベラルーシの選挙結果はいつも捏造であり、全く信用できない。
これによってベラルーシにロシアの核兵器を配備することが可能となり、「新冷戦」がより一層現実味を帯びてきた。

このように日本がロシア制裁に加わったことへの報復かどうかはわからないが、日本企業に対するサイバー攻撃が活発化している。
トヨタは取引先が何者かにサイバー攻撃を受けたとして今日の操業を完全にストップすると発表した。
身代金型の「ランサムウェア」が使用されたという。
日本政府は今後もこうしたサイバー攻撃がさらに増えると見て注意を呼びかけているが、貿易がストップすることによる減収をロシアがサイバー攻撃によって回収しようという動きは当分続くことになるだろう。

返り血も覚悟した西側の経済制裁にも関わらず、マーケットは比較的落ち着いた動きで、軍事侵攻前後に急落した株価も持ち直しつつある。
戦闘の行方はともかくとして、西側の制裁の規模もある程度はっきりして不確定要素がなくなったという判断だろう。
いつもながら、人道上の正義とは全く関係ないところで動くマーケットの非情さに私は呆れる。
私が損切りすると株価は底打ちする。
どうやら今回もそうなりそうである。
<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 国際世論がプーチンを追い詰める!日本もSWIFT制裁とサハリン2中断を! #220227