世界最強と言われたロシア軍が苦戦している。
軍事侵攻4日目、ロシア軍はウクライナ第二の都市ハリコフ市内に進入したが、ウクライナ側によって撃退されたという。

アメリカの発表でも、主要都市は依然としてウクライナ側が死守しているということだ。
最も苦しかった最初の3日間を耐え抜き、ウクライナ人の間では戦いに志願する市民が急増していて、ウクライナ政府はそうした人たちに武器を渡し、ウクライナ側の士気は日に日に高まっているようだ。

米CNNは、ロシア軍の侵攻が始まった数時間後に結婚式を挙げたカップルの壮絶なエピソードを取材している。
ウクライナのヤリナ・アリエバさんと夫のスビャトスラフ・フルシンさんはロシアの侵攻が始まったわずか数時間後に結婚した。当初の予定では2人は5月に結婚式を挙げるはずだったが、自分たちの将来がどうなるか分からなくなったため、前倒しを決めた。
引用:CNN

結婚初日に2人が行ったのは、ライフル銃を受け取って国を守る準備を進めることだった。
アリエバさんとフルシンさんは2人とも、主に志願者で構成されるウクライナ軍の一部門「領土防衛軍」に登録している。2人は武器を手にすると、自分たちの政党である「欧州連帯党」の事務所に向かった。
「いま私たちはここにいて、自分たちにできる限りのことをしている。やるべきことは多いが、全てがうまくいくことを願っている」とアリエバさん。防衛軍の一員ではない一部の民間人にもライフル銃が渡されたという。
「銃を入手できる場所がいくつかある。紙にサインするだけでいい。そうすれば国を守りに行くことができる」「それが今の状況だ」と話している。
引用:CNN
普通の市民がある日突然銃を手にするということがどういうことなのか。
恐怖よりも不条理に対する怒りや正義感が勝ると、人間は自分にできることを何かしなくてはならない衝動に駆られる。
それは安っぽい「愛国心」などという言葉では表せない人間が持つ性質なんだと思う。

プーチンが何の成果もないままに軍を撤退させるとは考えられない以上、自己犠牲の精神のもとで志願した市民たちにも今後過酷な現実が襲いかかることが懸念される。
市街戦が始まり、街が破壊され、主要な施設がロシア軍に占拠される事態も起きるだろう。
その時、ウクライナの人たちはゲリラ戦を続けるのか?
第二次世界大戦ではナチスドイツの侵攻を受けたソ連は、2000万〜3000万人という途轍もない犠牲者を出しながら最後まで戦い抜いた。
敵に利用されそうな施設は自ら燃やす「焦土作戦」を実施し持久戦に持ち込む。
当時「コサック」と呼ばれたウクライナの人たちもロシア人と一緒に「大祖国戦争」と呼ばれるこの持久戦を最後まで戦い抜いたのだ。

しかし、計画通りに進まない戦況に苛立ったのか、プーチン大統領は戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令したと報じられた。
核兵器の使用をちらつかせてウクライナだけでなく、ロシアへの制裁を強める西側諸国を威嚇する行動に出たのだ。
英BBCは、プーチンさんの狙いをこう解説している。
プーチン大統領は日本時間27日深夜、セルゲイ・ショイグ国防相を含む軍幹部に対して、西側がロシアに「非友好的な行動」をとり、「不当な制裁」を科したとして、核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。ロシアの核部隊にとって、「特別警戒」は最高レベルの警戒態勢。
BBCのゴードン・コレラ安全保障担当編集委員は、「特別警戒」をとることでロシアは核兵器を発射しやすくなるが、いま核を使うつもりがあるというわけではなく、こうして大統領が公言したのはNATOに対するロシア政府としての警告だろうと解説する。
また、プーチン氏が先週すでに「ロシアを妨げようとする者」は「歴史上見たこともないような結果」を見ることになると警告していたと、編集委員は指摘した。プーチン氏のこの発言は、西側諸国がロシアのウクライナ侵攻を妨害するなら、核兵器を使う用意があるという警告だったと、広く受け止められていた。
ロシアの核兵器保有数は世界最多。しかし、仮にロシアが先制核攻撃を仕掛けた場合、ロシアを滅ぼせるだけの核戦力をNATOが持つことは、ロシアも承知しているという。
それだけに、NATO諸国がこれ以上ウクライナを支援しないよう、自分がどこまでやるかつもりなのか、そしてどういうウクライナ支援がやりすぎなのか、不透明感と恐怖を西側諸国に与えることがプーチン氏の狙いだと、コレラ編集委員は解説した。
引用:BBC
しかし、冷戦時代を含めて核保有大国のリーダーがこれほどあからさまに核兵器の使用に言及することは異例だ。
現在、核保有国の間では威力を抑えた「使える核兵器」の開発競争が行われていて、ロシアも軍事侵攻の直前、核戦力部隊による演習を実施したばかりである。
思い通り進まないウクライナ侵略と予想以上の西側による素早い制裁によって、プーチン大統領は追い込まれ焦っているのではないか?
そうした見方が広がっている。
追い詰められたプーチン大統領が、誰も望まない禁断の決断を下す可能性が出てきたことで、ウクライナ危機は第三次世界大戦さらには核戦争の悪夢と共に新たなステージに入ったといえる。
アメリカやNATOがウクライナに軍隊を派遣しないのは第三次世界大戦のリスクを避けるためだったが、そこを見透かしたプーチン大統領が核兵器を使ってバイデンさんやヨーロッパ諸国に揺さぶりをかけているというのが、今の所の私の見方だ。
戦後の秩序を破壊しようというプーチン大統領の行動は、ヨーロッパ諸国を大きく揺さぶっている。
ベルリンでは、ブランデンブルグ門の周辺に10万人の市民が集まり、戦争反対の大規模なデモが行われた。
メルケル首相のもとで、ロシアとも比較的良好な関係を保っていたEUの大国は、安全保障環境の急激な悪化に伴い、それまでの政策を一変させようとしている。

軍事費をGDPの2%以内と決めていた長年のルールを撤廃し、今年度およそ13兆円を軍備増強に充てることを決定した。
ドイツのショルツ首相は27日、独連邦議会で演説し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。ロシアがウクライナに侵攻し、欧州の安全保障が揺らいでいることに対する処置だ。2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を連邦軍のための投資資金として確保する考えをあわせて示した。
ショルツ氏は「自由と民主主義を守るために安全保障にもっと投資しなければならない」と語った。ドイツの国防費はGDP比で1.5%程度にとどまっており、米国やほかの同盟国から引き上げを求められていた。装備の老朽化への懸念も高まっていた。ショルツ氏は「今後、毎年、GDPの2%以上」を投じていくと語った。
第2次大戦の災禍を経て、平和主義が根強いドイツでの大きな方向転換となる。ドイツのショルツ政権は、ロシアのプーチン大統領が緊張緩和の要求を無視し、ウクライナへの侵攻に踏み切ったことへの危機感を強めていた。
引用:日本経済新聞
移民の急増でネオナチの台頭などと戦ってきたドイツだが、ロシアの脅威が現実のものとなり、成立したばかりの左派政権によって軍備増強に転換したというのも皮肉な話である。
今年はフランスでも大統領選挙が予定されていて、市民の不安心理が極右勢力に利するのではないかとの懸念も出てきそうだ。

日本でも早速、安倍元首相が核兵器に言及した。
自民党の安倍晋三元首相は27日のフジテレビ番組で、欧州の一部が米国の核兵器を自国管理下に置いている「核シェアリング(共有)」政策に言及した。「世界の安全がどう守られているか議論をタブー視してはいけない」と日本も是非を話し合うべきだと主張した。
北大西洋条約機構(NATO)に加盟するベルギーやドイツなどが米国の核兵器を共同運用していると指摘した。「様々な選択肢を視野に入れ議論すべきだ」と述べた。
引用:日本経済新聞
ウクライナ危機をきっかけとして今後日本でも、防衛論議が活発化するだろう。
憲法改正も動き出すかもしれない。

岸田総理は昨日、欧米からの要請を受けて日本もロシアに対するSWIFT排除を実施すると発表し、ロシアの軍事侵攻を初めて「侵略」と呼んだ。
広島県選出で核廃絶を訴えている岸田総理のもとで、戦後の平和主義が変容していくとすると、これまた皮肉な巡り合わせと言えるだろう。
歴史ではよくこうした不思議な巡り合わせが起きるのだ。

欧米諸国は、国際社会からのロシア締め出しを着々と進めている。
フランスとアメリカは、ロシアにいる自国民に対し、速やかに国外退去するよう勧告した。
EUやカナダが、ロシア航空機に対して領空を閉鎖することを決めるなど、今後ロシアからの出国が難しくなるとみられるためだ。
また、ロシアから西側の投資が撤退する動きも始まっている。
政府系ファンドとしては世界最大規模となるノルウェイの政府系ファンドは、ロシア向け新規投資を凍結し、保有する関連資産を売却する方針を明らかにした。
国際的な決済システム「SWIFT」から排除され、中央銀行にも制裁がかかると、リスクを嫌う投資マネーは一斉にロシアから逃げ出すことが予想される。
ロシアは過去の経済制裁とは桁違いの重い代償に苦しむことになるだろう。
それが直ちに戦争を終わらせることはできないが、中長期的にプーチン政権に打撃を与える可能性はある。
さらに言えば、西側のマネーや企業が徐々にロシアから撤退して、世界の政治経済がブロック化し、新たな「新冷戦」の時代に向かうのだろう。
ロシアの脅威は、同じく強権国家である中国の脅威を連想させ、「世界の工場」として世界中の投資を集めていた中国への依存から脱却しようという動きも出てくるに違いない。
もし仮に中国が台湾に侵攻した場合、経済制裁を行う西側のダメージが大きすぎるからだ。
そうして、自由と民主主義を基本とする西側陣営と強力な国家権力によって独裁的な体制を維持する中国・ロシアを中心とする東側陣営、まさに国家体制とイデオロギーによって色分けされる「新冷戦」の時代がやってくる。

ロシア・スプートニク通信の日本語サイトには、こんな記事が掲載されていた。
『ロシアにはまだ世界に友人がいる=露外務省』
ロシア外務省のマリヤ・ザハロワ報道官は、中国が世界の巨人の中でロシアの友人であると指摘した。
ザハロワ報道官は「世界の巨人の反応を見てください。巨人のふりをするのではなく、本物の巨人。特に中国の反応」と指摘した。ザハロワ報道官は「世界がグローバルな概念と原則のすり替えの時代、そして人類が達成し出発点として固定した真実で正しい伝統と価値観の破壊の時代に入っている」と述べ、「我々はポスト真実の時代にいる。つまり、真実が嘘に取って代わられた時代にいる」と強調した。
引用:スプートニク日本
もはや、頼りになるのは中国だけ、そういうことだろう。
しかし間もなく北京パラリンピックが始まる中国にとっても、プーチンさんの軍事侵攻は迷惑以外の何物でもなかっただろう。
国連での非難決議には棄権して中立を装ってはいるが、反ロシアの国際世論が日増しに高まる中で、ロシアと一緒にされたくないという思いが透けて見える。
人権問題で批判されるたびに中国は「内政不干渉」の原則を持ち出してきたが、「ロシアとウクライナは一つ」と言ってウクライナに攻め込んだロシアの論理は、まさに台湾を飲み込もうとする中国の論理と同じなのだ。
ウクライナ侵略は、台湾統一という習近平さんの野望実現をやりにくくしたことは間違いないだろう。
日本人からすると、その点だけはよかった気もする。

軍事侵攻後初めて、ロシアとウクライナは停戦交渉の実施で合意した。
場所はベラルーシの国境地帯、とりあえずは前提なしでの交渉ということになっている。
戦闘が継続する中での停戦交渉はうまくいかないことが多い。
たとえ停戦でまとまったとしても、一度火がついた戦闘は収まらないのが普通だ。
この先どんな決着が待っているのか全く予断を許さないが、犠牲者が一人でも少ないことを祈るばかりだ。
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