アメリカの大統領経験者が起訴されるのは史上初めてのことだという。
元ポルノ女優に対する口止め料をめぐりビジネス記録を改竄したなどとして、ニューヨーク州の大陪審は34の罪でトランプ氏を起訴、4日全米が注目する中でトランプ氏が裁判所に出廷した。

罪状認否でトランプ氏は当然のことながら全ての起訴内容を否認し、余計なことは発言せず、初日の法定は静かに終わった。
トランプ氏は今回の起訴を「歴史上最大の政治的迫害で選挙への介入だ」と批判していて、起訴の発表後、共和党支持者の間でトランプ氏の支持率が上昇している。
罪状認否を終えてフロリダに戻ったトランプ氏は早速集まった支持者を前に演説し、改めて無罪を主張し、「今、わが国ではかつてない規模の選挙妨害が行われている」と起訴を強く非難した。

すでに出馬表明しているトランプ氏は、共和党の最有力候補である。
そのトランプ氏を被告とするこの裁判が来年の大統領選挙にどのような影響を与えるのかは全く予想がつかない。
たとえ悪い話題であっても、トランプ氏にとってはメディアの露出が増えることで結果的に自身に有利に働くとの計算も見える。
もともと清廉潔白でないことは支持者もすでに承知していて、それでもトランプ氏を支持しているのだからダメージは小さい。
トランプ氏は普通の政治家と違って、スキャンダルにめっぽう強いのだ。
反トランプの人たちからすれば、この裁判によって次期大統領選挙への道を封じたいところだろうが、決定的な新事実が出ない限り、トランプさんの息の根を止めることはできないだろうと私は見ている。

そもそも今回の起訴はなんだったんだろうという疑問がある。
元ポルノ女優とのスキャンダルはトランプ氏が現役の大統領だった時代に明らかになった。
検察が動いたが一度は断念した案件を蒸し返す形で今回起訴に至った背景について、政治的な意図が働いたと考えるのが自然だろう。
その辺りについて私の疑問に答えてくれる記事は見つからなかったが、BBCの記事の一部を引用しておこう。

マンハッタン地区検察のアルヴィン・ブラッグ検事は罪状認否後に記者会見し、前大統領が元ポルノ女優や「プレイボーイ」誌モデルとの性交渉や不倫関係を隠して選挙で自分を有利にするため、2016年大統領選の直前に当時の弁護士に口止め料を払わせたと指摘。複数の相手への支払いについて前大統領が事業記録で虚偽発言を34件繰り返していたとして、それが起訴理由だと説明した。弁護士への払い戻しを前大統領が「弁護士費用として」と記載したことは、「全く事実と異なる」と検事は述べた。
前任者の検事が立件を見送った罪状で今回起訴したことについては、新しい証拠が得られたためと説明した。
マンハッタン地区検察はこの日の罪状認否の後、訴状の内容について発表した。それによるとブラッグ検事は「ドナルド・J・トランプがニューヨークにおける事業記録を繰り返し、不正に改ざんした」と追及。「欺く意図および別の犯罪を行う意図をもって、犯罪を助け犯罪の依頼を隠す目的で、企業の事業記録に虚偽の記載をした」としている。
その改ざん行為は「2016年大統領選挙の最中に、自分に不利な情報を有権者から隠した犯罪を隠蔽(いんぺい)するため」のもので、前大統領が「自分にとって否定的な情報を特定し買い上げることで、その公表を封じ、選挙において被告人を有利にし、2016年大統領選挙に影響を与えるため」周囲と共に「画策した」と、検察は主張している。
さらに、「繰り返される金銭と、うそをたどると、ニューヨークの基本的で根本的な商業法を侵害する、パターンが明らかになった」として、「我々はニューヨークの事業が犯罪行動を隠すために事業記録を粉飾することを認めるわけにはいかない」と述べている。
ニューヨーク州で事業記録の改ざんは通常は軽罪の扱いだが、別の犯罪の隠蔽(いんぺい)を目的としたことから重罪の扱いにしたと検察は説明している。個々の罪状はニューヨーク州の重罪で最も量刑が少ないもので、1件につき最高4年の禁錮刑が伴う。
引用:BBC

どうも、しっくりこない。
口止め料の支払いについてはすでに弁護士が別の裁判で認めていて間違いなくあったのだろうし、その会計処理も不正だったに違いない。
しかしトランプ氏サイドも明確な違法とならないよう様々な対策をとっているはずで、超一流の弁護団を相手にこのような解釈の余地があるような容疑での立証はかなり難しいと考えられる。
もしもニューヨークで有罪の判断が下されたとしても、トランプ氏は控訴して時間稼ぎをするだろう。
トランプ氏に関してはより重大な容疑での捜査も進められているというが、最初に起訴されたのがトランプ氏の下半身に関するスキャンダルだったことには失望を感じざるを得ない。

いずれにせよ、トランプさんが再びアメリカの大統領に返り咲くなどという悪夢は見たくない。
CNNの世論調査によれば、過半数の有権者がトランプ氏の起訴を支持したとされるが、岩盤支持層の結束は一段と強まるだろう。
バイデン政権が今回の起訴に加担していたという情報が出れば、逆に「政治的迫害」というトランプ氏の主張に正当性を与えて民主党に不利に働く可能性もある。
世界が日に日に緊迫を強める中で、アメリカ国内の分断はますます進む。
茶番劇というにはあまりにも影響が大きいトランプ裁判の行方、その内容には興味がなくても重大な関心を持って見守っていくしかないだろう。