<吉祥寺残日録>「政策的」V字回復の裏で #200609

新型コロナ対策として世界中で実施された前例のない金融緩和が、マーケットにV字回復をもたらした。

日経平均はコロナ前の水準である2万3000円を回復し、ナスダック市場ではとうとう史上最高値を記録する活況を呈している。

引用:日本経済新聞

リーマンショックやITバブル崩壊という過去の危機と比較すると、株価の戻りの早さは異常とも言える。

アメリカは今も多くの感染者を抱え、全米で人種差別に抗議するデモが続いているにも関わらず、ネガティブ要因には一切見向きもしない。

「二番底は必ず来る」との声はいつの間にか市場から消え、いつもの楽観主義が戻ってきている。

いつもながら、マーケット関係者の頭の中は理解できない。

ちょっと前、日経新聞で読んだ記事に、私の疑問を解く株式市場の2つの格言が紹介されていた。

「政策に売りなし」「強気相場は懐疑の中で育つ」

どちらも今の状況に当てはまる言葉なのだろう。ただ残念ながら、市場関係者の言葉はいつも「後付け」である。

しかし、理由はともあれ株価が戻れば、なんとなく人々の不安も和らいでいくものだ。日本でも欧米でも街に多くの人が戻り始めた。感染者は出続けているが、以前ほどみんなが気にしなくなった。

世界中の人たちが新型コロナウィルスに関する知識をある程度持ったこともその背景にはあるのだろう。人間は「わからないもの」を恐れる。ある程度の知識があれば、なるべく感染しないようにしながら通常の活動に戻っていく、それが人間という動物の「賢さ」なのだとも思う。

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さて、そんな中で、注意しなければならないのが「無駄遣い」だ。

リーマンショックのように、特定の「強欲な悪者」を救済するのとは違い、今回のコロナ対策には人類共通の敵と戦うという「大義」がある。だから、どこの国でも異例の早さで過去に例を見ないような金融政策と破格の財政出動が行われた。

国民の生活を守り経済の悪化を食い止めるために膨大なお金が投入された。

日本の企業倒産がいまだに数百というレベルに留まっているのはこうした政策的な支えが一定の効果を発揮している表れでもあるのだろう。

しかし同時に、この大量のマネーがマーケットを一気に押し上げたのも事実だ。

株高を政権浮揚のために露骨に利用してきたトランプさんや安倍さんにとっては、株価をV字回復させること自体が重要だったのかもしれないが、政策主導のV字回復には当然将来に対するリスクがつきまとう。

投入される資金のほとんどは新たな借金であり、誰が将来それを返済するのかという問題からは逃げられない。新興国の財政破綻という問題も懸念されている。さらに今後有り余ったマネーが欲望のままに暴れまわり、市場の波乱要因になる可能性も高い。

そして今日指摘しておきたいのは、誰もが異を唱えるにくい「大義」を前面に押し立てた大盤振る舞いの裏では、奇妙な利権が生まれやすいということだ。

昨夜行われた電通関係者による会見。

正確に言えば、持続化給付金の支給業務を受注した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」がメインとなり、再委託先である電通と行なった説明会である。

とは言え、協議会の代表理事は電通の元執行役員。登壇している全員が電通関係者だ。

持続化給付金は新型コロナの営業で売り上げが大幅に減少した事業者を対象に、最大200万円の現金を支給する緊急対策で、5月1日から受付を開始した。

しかし現場では混乱が続き、未だに現金が振り込まれないといった不満が全国で噴出しているのだ。

そこにきて、この支給事業を受注した「サービスデザイン推進協議会」が電通のトンネル会社ではないかという疑惑や不明朗な資金の流れが問題となった。

会見に臨んだ協議会の大久保裕一代表理事は「振り込みの遅れが発生し、ご迷惑をおかけしております。説明責任を果たしてこなかったことを深くお詫びします」と陳謝した。

引用:日本経済新聞

一般の人から見れば、受注した協議会が電通に丸投げしているのがいかにも怪しく感じられるだろう。

ただ多少なりとも公共案件に関わった経験がある私からすれば、よくあることといった印象だ。

この仕組みがいいと言っているわけではない。中央官庁と電通の関係は、昔から有名な話なのだ。

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広告界の巨人として知られる電通には、巨大な公共部門がある。

その社員たちは、中央省庁はもとより各政党にも入り込み、政策立案の段階から加わっている。官僚たちからすればいわば身内なのだ。

だから大型案件には多くの場合、電通が登場する。そもそも電通が立案した案件ということも多い。役所の中にスタッフを派遣し、役人と一緒に政策を立案し、それを受注する。それが電通のビジネスなのだ。

もし電通がいなければ、役人だけでは政策を遂行できない。情報収拾から資料作り、公募の段取りまですべて電通が取り仕切り、元請けとして事業を受注する。そして事業を実現するために、仕事を細分化して再度公募を行い、その小さな仕事を多くの企業が取り合うという構図がよく見られるのだ。

電通は中央官庁の別働隊。ましてや今回のような緊急案件は普段から気心が知れた電通に丸投げすることになる。でもそんなことをしていると、公共案件に対する電通の存在感が大きくなりすぎて目立つため、隠れ蓑として正体不明の協議体のようなものを作るようになったのだと理解している。

今に始まった事ではない。電通の営業努力に賜物でもあるが、無駄遣いという観点から見れば、問題もあると思う。

ただ、これだけ大きな事業をこなせる事業者は実際には多くなく、必要悪という側面もある。

今回のコロナ対策でも明らかなように、政治家たちはどんぶり勘定で「過去最大規模」というようなキャッチフレーズを作りたがる。そして補正予算が編成されるが、中身はほとんど決まっていない。それを官僚たちは徹夜で形あるものにしなければならないのだ。官僚は紙の上ではいろいろと考えるが、実行する能力がない。そこで頼りになるのが電通のような日頃から共に仕事をしている民間企業ということになる。

電通は政治や官庁の中に入り込んでいるので情報が早い。その情報をもとに本社で企画を立案し具体策を求めている役人に持ち込む。異動も多い役人からすれば、電通は頼りになる存在なのである。

ただ今回の持続化給付金の問題は、困っている人たちの懐に直結しているので、一般の人々の関心が極めて高い。世論の動向によっては、中央官庁と電通の特殊な関係にもメスが入ることになるかも知れない。

今週にも第二次補正予算が成立する。

どさくさに紛れた無駄遣いが将来に禍根を残さないことを願うばかりだ。

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