<吉祥寺残日録>「忘れられた戦場」ミャンマーで行われた死刑執行!制裁に消極的な日本政府と「日本ミャンマー協会」の闇 #220729

今週、日本では「死刑」のニュースが話題になった。

2008年、秋葉原の交差点で7人を殺害した加藤智大死刑囚の死刑が執行されたためだ。

「現実でもネットでも無視された」

「どこにも居場所がないという強い孤独感があった」

「自分の存在を気付かせてやろうと思って事件を起こした」

両親の厳しすぎる躾によって人生を狂わせ、派遣社員として職を転々とし、最後はネットの世界にしか居場所を見出せなかった加藤死刑囚。

事件発生当時からその家庭環境に同情する声も聞かれたが、その絶望のはけ口としては事件はあまりに凄惨すぎた。

社会的に失うものが何も無いために犯罪を起こすことに何の躊躇もない人のことをネット上では「無敵の人」と言うらしい。

安倍元総理の銃撃事件もそうだったが、こうした「無敵の人」を次々に引き起こす事件の数々は、平和な日本社会の闇をあぶり出している。

しかし同じ時期に飛び込んできたミャンマーでの死刑執行のニュースの方に、私はより心を痛めている。

死刑となったのはアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)所属の元議員のピョーゼヤートー氏と著名な民主化活動家のチョーミンユ氏ら4人。

ピョーゼヤートー氏は元ヒップホップ歌手。12年の補欠選挙にNLDから出馬して当選し、8年間下院議員を務めた。チョーミンユ氏は1988年の民主化運動を率いた学生リーダーの一人で、その後、複数回投獄されながらも「88世代」を代表する人物として民主化活動を続けていた。

引用:日本経済新聞

ミャンマーで政治犯の死刑が執行されたのは実に半世紀ぶりのことだという。

ウクライナでの戦争の影に隠れ、ミャンマーのニュースを耳にすることはめっきり減ってしまったが、去年2月のクーデター以来、国軍に対して抵抗してきた民主派の若者たちの多くが山岳地帯に逃れ、少数民族の武装勢力と合流して「国民防衛隊(PDF)」を組織してジャングルの中で軍と戦っている。

ミャンマーはもともと多民族国家であり、人口の40%ほどを占める最大民族のビルマ族を中心とする中央政府と辺境の少数民族がずっと内戦を続けてきた歴史を持つ。

私もかつてタイとの国境地帯を支配するカレン族の支配地域を取材したことがあるが、アウン・サンスーチー氏が政権を握った民主化の時代にはこうした対立が解消されつつあった。

ところが去年のクーデターにより実権を握った国軍は、再び少数民族への弾圧を強めていて各地で武力衝突が発生、都会から逃れた若者たちも生まれて初めて銃を握り、短期間の軍事訓練を受けて命懸けの戦場に加わっているのだ。

ミャンマーの状況は明らかに民主主義への挑戦であり、看過できない問題である。

しかし手作りの銃を持って国軍と戦う若者たちに対し、国際社会の支援が届くことはほとんどない。

これはどうしたことだろう?

ウクライナのように外国からの侵略ではなく、内戦であるということも関係しているかもしれない。

欧米諸国からするとミャンマーは戦略的にさほど重要な国ではなく、ウクライナのような同じ白人ではないということもあるかもしれない。

それでも、民主化のシンボルだったアウンサンスーチー氏は世界的な有名人であり、日本でも大変に人気があった。

クーデター直後から軟禁状態に置かれていたスーチーさんは、汚職などいくつもの罪で有罪判決を受けていたが、それでも首都ネピドーの自宅で過ごすことを認められていた。

ところが6月22日、国軍が突如77歳のスーチーさんを刑務所の独房に移送したと伝えられた。

そして、その直後に民主派の中心人物たちの死刑が執行されたのだ。

日本政府も欧米と共に国軍に対し死刑を思いとどまるよう要求していたが、完全に無視された格好である。

一方、欧米諸国はすでに国軍やその中心メンバーを対象に経済制裁を課しているが、日本はこれには加わっていない。

クーデター後、新規のODAを差し止めたものの、すでに決定している援助については継続しているという。

民主化が進むミャンマーを「アジア最後のフロンティア」と呼び、官民あげて積極的な投資を行ってきた日本。

クーデターという民主化に逆行する事態が起きても、すぐには態度を変えられないのは、ロシアにおける「サハリン2」と同じ構図だ。

こうした日本の姿勢について、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は『ミャンマー人権問題に対する日本の「二枚舌」外交』と題した記事を掲載し痛烈に批判している。

クーデターから一年の節目を目前に、日本政府は二枚舌外交を展開しているようだ。公式にはクーデターを批判する各国政府と連携する一方で、「軍政」との外交関係の正常化を加速させている。このような行為は、ミャンマー軍の「人道に対する罪」について責任追及に励んでいる国際社会の取り組みを覆すリスクがある。

共同通信によると、外務省は今年5月に「軍政」が任命した外交官5人を受け入れた。ミャンマーに在留する日本人を危険から守るため、政権との「実務的なつながり」が必要だと説明した。しかし、これは大きな政策転換であった。日本政府はクーデター発生以来、民主的に行われた選挙の結果を覆して「軍事政権」を発足させた国軍の動きを正当化するとして、国軍が任命した外交官の受け入れを拒否していたのである。

11月には、「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」に任命された日本財団の笹川陽平会長が、軍政トップのミンアウンフライン上級大将・国軍最高司令官を訪問し、「現在の情勢とミャンマーの和平プロセス、また日本の対ミャンマー支援」について会談した。笹川氏は以前、国軍への対象限定型制裁措置について懸念を示し、実施されれば「中国の影響力が増大する」と主張してきた。林芳正外務大臣は、笹川氏のミャンマー訪問は個人的なものだと釈明したが、ミャンマー国内の独立系メディアは笹川氏を「日本の特使」と報じた。

引用:ヒューマン・ライツ・ウォッチ

どうして日本はミャンマー国軍に対して毅然とした態度が示せないのだろうか?

そんな素朴な疑問を抱きつつ、日本とミャンマーの関係を調べていると「日本ミャンマー協会」という団体に行き着いた。

2012年に発足した一般社団法人で、中曽根さんの秘書から政界入りし自民党や民主党を渡り歩いた渡辺秀央元衆院議員が会長を務める団体である。

渡辺氏は1987年、中曽根政権の官房副長官として軍政下のビルマから来日した要人を迎えたことからミャンマーとの関係ができたという。

中曽根氏からの指示もありそれ以来ずっとミャンマーとのパイプ役を果たし、巨額の政府援助にも深く関与、クーデターの首謀者であるミン・アウン・フライン総司令官とも頻繁に会談し良好な関係を保っている。

「日本ミャンマー協会」には商社やメーカーなど日本の一流企業が名を連ねていたが、クーデター後この協会が国軍を支持する内容の方針案を採択したことが物議を醸した。

ミン・アウン・フライン国軍総司令官による非常事態宣言は、ミャンマーの憲法にのっとった行為であり、多数の犠牲者が出ているミャンマーの現状について、「暴徒化」「テロ行為」という言葉を用いて、市民の側にも非があるとの認識が示したというのだ。

渡辺氏はクーデター後2度ミャンマーを訪問しミン・アウン・フライン総司令官とも会談したという。

さらに息子の渡邉祐介氏も「日本ミャンマー協会」の事務総長を務めていて、彼が外交専門メディアに寄稿した文書がまた批判を浴びる。

その内容は・・・

  • ミャンマー国軍は第二次世界大戦下で日本の支援も受けて文民主導の準独立国家を樹立した経緯があり、日本は戦後も戦略的な関係を維持した
  • 民主化を求める欧米諸国の圧力は、民族紛争への軍事支援と同様に、政権の安全保障に対する真の脅威であった
  • 欧米の体制変換戦略は民族対立を激化させ、中国の影響力を拡大させた愚行である
  • 日本政府のミャンマー政府との経済中心の友好的な関係はミャンマーの将来的な民主化という目的で欧米の姿勢と矛盾せず、むしろ補完関係にある
  • ミン・アウン・フライン総司令官の姿勢は最終的に民主化をもたらす継続的な経済発展を実現するという日本の伝統的なアプローチに沿ったものである
  • アメリカや他の民主主義同盟国の行動と乖離しても、平和と最終的な民主化に向けたより強力な経済協力のために、国軍との特別な関係をさらに強化する道を歩むべきである

正直、耳を疑うような主張である。

確かに西側諸国がミャンマーから離れると中国の影響がますます強くなり、軍政下では日本の権益は失われるだろう。

事実、クーデターによって西側諸国が離れていく中で、ミャンマーは中国やロシアにますます接近するようになっている。

今月4日、中国とメコン川流域の5カ国の外相会議がミャンマーの観光地パガンで開かれた。

クーデター後初めての閣僚級の国際会議である。

王氏は3日、ミャンマー国軍が外相に任命したワナマウンルウィン氏と個別会談した。中国の支援でインフラ整備を進める「中国・ミャンマー経済回廊」の建設を加速することや、両国間の送電網を接続させる計画を進めることなどで合意した。

王氏はプラク・ソコン氏とも会談し、ミャンマーの政治情勢について①ミャンマーの憲法と法律の枠内で政治的和解を促す②ミャンマーの国情に即した民主体制移行の道を探る③ASEANが内政不干渉の原則を堅持する――ことなどを求めた。

ミャンマーでは、中国との国境のシャン州から第2の都市マンダレーへの鉄道建設が計画されている。国軍当局は6月中旬、事業化に向けた手続きの一環で、環境への影響に関する意見募集を始めた。総事業費は89億ドル(約1兆2000億円)とされる。

中国の国営メディアは5月、雲南省大理市とミャンマーとの国境にある同省瑞麗市を結ぶ鉄道敷設で、難所だった6本のトンネルの掘削が完了したと伝えた。将来はミャンマー西部のインド洋沿岸部まで路線を延伸し、中国主導で整備する港湾と接続する構想だ。

引用:日本経済新聞

また最高指導者であるミン・アウン・フライン総司令官自身、今月中旬ロシアを訪れた。

クーデター後2度目の訪問であり、ロシア製の武器の調達や資源確保が狙いだと見られている。

クーデター後の去年6月、国連総会で、ミャンマーへの武器の輸出禁止を呼びかける決議が採択されが、ロシアや中国は採決を棄権した。

国連の報告書は、「クーデターの後も、ロシアや中国、セルビアが市民への攻撃に使われると知りながら、ミャンマー軍に兵器を供給し続けている」と非難している。

こうして国際社会から忘れ去られるミャンマーの現状を追い続けているのがNHKスペシャルのチームだ。

今年4月に放送されたNHKスペシャル「忘れられゆく戦場〜ミャンマー 泥沼の内戦〜」では、入手した映像から国軍が空からの攻撃に使用している兵器の種類を特定した。

いずれも空爆が活発化した2022年1月以降に撮影された映像である。

ロシア製戦闘ヘリコプター「Mi-35P」。

今年2月東部カヤー州で空爆に使用された。

中国製の軍用機「K-8」。

同じくカヤー州での空爆に使われた。

そしてロシア製「Yak-130」。

これは空軍基地を撮影した衛星写真に写っていた。

Yak-130は、あらゆる爆弾を搭載でき、比較的安価なため、多くの途上国で使われている軍用機で、今年2月まで国軍に所属していた元大尉は、Yak-130やK-8がミャンマー軍の主力機だと証言した。

去年12月にミャンマーの空軍基地で行われた軍用機の就役式の映像を検証すると、中国製のK-8が4機、ロシア製のYak-130が6機写っていた。

その機体番号を調べると、2020年に製造された最新の機体であることもわかった。

これらの新兵器を投入して今年に入って少数民族の村が度々空爆されるようになっているのだ。

民主主義を弾圧するこうしたあからさまな国軍の動きを認めると、ミャンマーの多くの人たちの信頼を日本は失ってしまうに違いない。

ミャンマーとの既得権益にこだわる「日本ミャンマー協会」が今の政府にどれほどの影響力があるかはわからないが、クーデター後多くの企業が協会を脱退したと聞き、わずかながら救われた気分になった。

これは目先の利益ではなく、日本という国の本性が問われる選択なのだ。

独立を志向するアウン・サン将軍を支援して旧日本軍が作り上げたのが今のミャンマー国軍の原型である。

日本がイギリスに対抗するために産み落としたこの化け物のような軍隊を市民のための軍隊に作り直すことこそ、日本の使命であろう。

もしもこの内戦の末に、もう一度民主的な政権が生まれることがあれば、ミャンマーの民衆は軍事政権を支援した中国ではなく、民主派を応援した国々との関係強化に動くはずだ。

平和的なデモによって自分たちの自由を守り抜こうとしたミャンマーの人たちの姿を忘れてはいけない。

<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 NHKスペシャル「混迷ミャンマー 軍弾圧の闇に迫る」 #211007

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