東京に住む私にはあまり関係のない話ではあったが、昨日住民投票が行われた「大阪都構想」の結果は、ちょっと意外だと感じた。
賛成が67万5829票、反対が69万2996票で、反対が賛成を約1万7000票上回り、2015年に続き2度目の否決となった。

このところ選挙で連勝し、大阪では圧倒的な人気を誇った「大阪維新の会」だが、今回の結果を受けて、代表の松井市長は今任期限りでの政界引退を表明した。
前回の住民投票で橋下徹さんが政界を引退したのと、まったく同じ結果となってしまったのだ。
コロナ対策で一躍全国的な人気を博した吉村知事も、「民意を重く受け止め、自分が今後都構想を持ち出すことはない」と断言した。
どうして、大阪維新の会は失敗したのか?
正直、私には大阪市民の心の中は理解できない。
大阪府と大阪市の関係は、かつては本当にひどいものだった。
知事と市長がそれぞれ庶民受けを競い、財政赤字が慢性化していた。
橋下さんが大阪府知事に就任し、単身この伏魔殿に切り込んだときにはメディアは拍手喝采を贈ったものだ。
そして大阪の人たちにも改革熱が伝わり、大阪維新の会の躍進で府と市の二重行政、無駄遣いはかなり改善したように見える。
そんな大阪維新の会の看板政策こそがこの「大阪都構想」である。
その中身はちゃんと理解できていないのであえて論評しないが、今回は賛成多数で「大阪都」が成立するのだろうと私は予想していた。
いつも勝ち馬に乗る公明党が今回は賛成に回り、事前の世論調査でも賛成派がリードしていたはずだ。
しかし、住民投票が始まるとにわかに反対派が勢いを増した。
反対派の中心となったのは、自民党の大阪市議たちだった。
大阪市がなくなると、自分たちの居場所がなくなる市議たちの主張は私にはまったく説得力を感じさせなかった。
おまけに、菅総理が維新の会と近い関係だということも関係して、自民党本部は市議たちを応援せず静観の構え、どう考えても賛成派が勝利する構図だったのだ。
それなのに、反対派が逆転した背景には何があったのか?
大きな影響を及ぼしたのが、10月26日の「毎日新聞」だと言われている。
この日、毎日の朝刊一面に「市4分割 コスト218億円増 大阪市財政局が試算」という記事が載った。
大阪市を4つの自治体に分割した場合、コストが218億円増えると大阪市が試算したという記事で、朝日新聞やNHKが後追いした。
ここから、「コスト増」というキーワードが一人歩きする。
大阪市の松井市長は「都構想」賛成派の中心人物なので、こんな試算を自ら行うはずがない。
これはどう見ても、「都構想」に反対する大阪市の職員たちがマスコミにリークしたものだった。
試算の根拠も曖昧で、個人的には大阪市を解体した方がコスト削減の可能性は広がると直感的に感じるのだが、大阪市民はどうもそう考えなかったようだ。

エリア別で見ると、大阪市の北部は賛成、南部は反対という構図が前回と同じだったようだ。
私は大阪の地理に詳しくないが、北部はビジネスマンが多い地区で、南部は高齢者の比率の高い昔ながらのエリアといった感じだろう。
「都構想」が通るとコストが増え、結果として今受けている住民サービスが減らされる。
反対派はこの真偽も怪しいコスト問題を最大限利用して住民の危機意識を煽った。
トランプさんのことを批判できない政治屋の昔ながらの手法だ。

結果として、大阪市は残ることとなった。
側から見ていると、大阪の人は惜しいチャンスを逃した気がする。
県と政令都市の二重行政の問題は、大阪に限らず構造的なものだ。
トップの折り合いが悪ければ、権限の奪い合いが起き、まちづくりや再開発をめぐって必ず無駄な縄張り争いが起きるだろう。
「都構想」がすべてを解決するとは思わないが、構造的な無駄を解消する一つの方法ではあった気がする。
しかし、自分たちで出した結果だ。
この先、大阪が衰退しても文句は言えないだろう。
ただ、現状維持を求めたのが全体的に高齢者で、若い人たちの多くが賛成票を投じていたことを考えると、大阪の若者たちにはちょっと気の毒な感じも受ける。
どんな改革も、やってみなければわからない。
現状維持を訴えた大阪市議たちには、自らの言葉に重い責任がある、そのことだけは忘れずに自覚を持って良い行政を行ってもらいたいものだ。