宮本雄二著「習近平の中国」からの引用、第二弾だ。
まずは「中央書記処」。政治局常務委員会を支える官僚機構だ。ここには7名の書記がいる。
さらに総書記と中央書記処の仕事を支える組織として「中央弁公庁」がある。
『秘書軍団的な実務者集団であり、まさに中南海の超エリート官僚機構である。党中央の直接の指導を受けて仕事をする。文書の起案や管理、秘密保持のほか、指導部が必要とする仕事を手伝う。総書記と一体となった存在であり、権力の“中枢の中の中枢”と言える。』
『中央弁公庁主任は、総書記の側近中の側近なので、中央書記処のメンバーになるのは当然だ。現在は栗戦書であり、習近平とは80年代のほぼ同じ頃、共に河北省の県の党委員会書記をやっていた仲間だと言われている。日本政府でいえば官房長官であり、会社であれば秘書室長にあたり、一日24時間、総書記の傍にいてすべてのことに関与している。』
『現在「中央書記処」のトップに座る劉雲山は、書記の中で唯一の政治局常務委員であり、また唯一の書記経験者でもある。彼は02年から10年間、中央宣伝部部長として「中央書記処」に参加していた。この中央書記処の筆頭書記には、直前まで習近平が座っていたことを踏まえると、劉雲山が重要な役割を果たすことが想定されている。』
『党中央を政策の面で支えるのが「中央政策研究室」である。その主任を務める王滬寧(おうこねい)は学者であり、上海の復旦大学から95年に「中央政策研究室」に移り、02年に胡錦濤体制の発足と同時に、副主任から主任に昇格した。習近平も彼を重用しており、12年の党大会でついに平の中央委員から政治局委員に昇進した。 中央政策研究室は、まさに中南海の“知庫”(シンクタンク)であり、政策面での影響力は大きい。神経組織としての中国共産党の”頭脳中の頭脳”と言える。 胡錦濤時代、国家主席の外国訪問には、中央弁公庁主任とともに、この王滬寧が必ず同行するようになったが、習近平時代になってからもそれは続いている。』
『「中央政策研究室」は、10の研究部門を抱え、党の重要文献の起草や指導者の講話の起草を担当している。党の組織や理論の問題、あるいは党中央が行おうとしている重要政策について、その実現可能性を調べ、対策を提示することもやっている。 中国には膨大な数のシンクタンクがあるが、中国のシンクタンクと呼ばれるもので、党や政府と関係ないものはほとんどない。中央政策研究室は、これらのシンクタンクを全て使える。』
『一例を挙げると、80年代末から90年代初めにかけて、ソ連東欧の共産主義政権が次々に崩壊していった。このとき党中央は中国の全研究機関に、その原因とこれからとるべき対策について研究させている。そしてそれらの研究成果をもとに、ソ連を反面教師として、ソ連と同じ轍を踏まないように、対策を立て実行している。 中国経済に関して盛んに議論されているバブル崩壊についても、17世紀のオランダのチューリップバブルに始まり、日本のバブル経済の崩壊に至るまで、すでに全てのバブル経済を研究済みだと考えておいた方が良い。 彼らの調査研究能力は高い。中国共産党は、これまで党の直面する主要課題について、膨大な研究を行わせ、その研究成果をもとに、対策を打ってきている。この中国共産党の現状を把握する能力、問題点を抽出する能力、解決策を策定する能力は、実は中国共産党の知庫能力にあったと言える。その知庫の中心に中央政策研究室が泰然と位置しているのである。』
続いて、中国共産党に入る方法だ。
『共産党の党員数は2000年以降急増し、毎年約200万人ずつ増え、13年末には8668万人となった。やはり入党したい人は多いのだ。 数十年前には、中身を理解しないで発言するトンチンカンな幹部に時々であったが、現在は大臣クラスを含め、すべてメモなしでの発言が可能だ。高級幹部の質の向上は著しい。幹部の学歴も上がり、人事制度も研修制度も大幅に改善されている。だが末端の幹部や党員になると問題は多い。 共産党も実情はよくわかっている。そこで末端の人材登用には気を使う。社会の優秀な人材(彼らはこれを「先進分子」という)に日頃から目をかけ、教育し、入党に導くのが彼らの方針だ。具体的には、コミュニティの活動家、成功した起業家、企業の経営幹部、科学技術の第一線にいるものといったところをリクルートの対象にしている。良質な人材を確保するために入党のハードルを相当高くし、誰でも入れるものではないようにしている。 ところが仕事は急増しており、人がいる。上が何人増やせと目標を決めると、下は人数合わせで対応し、水準以下の者まで入ってくる。おかげで思想よりも利益重視で入党する者があとをたたない。』
末端の指導者は、その地域で絶対的な権力を持つ。ここに腐敗の根本的な原因がある。
『とりわけ候補者を指名し、確定するプロセスを少数の指導者と部門が牛耳っている弊害は大きい。権力は党委員会のナンバーワンである書記に集中する。また人事部門や関係部門が口出しできる余地も大きい。それが猟官運動や官職の売買と言った汚職や腐敗の原因となる。』
『形式的に党中央に絶大な権限があったとしても、現場が党中央の考える通りに動くということにはならない。中央の方針を末端まで浸透させために、中央がいかに苦労しているかは、「上に政策あれば、下に対策あり」という、すっかり有名になってしまった言葉に代表されている通りだ。』
「上に政策あれば、下に対策あり」。私はあまり聞いたことがなかったが、中国を知る人たちの間では有名な言葉なのだろう。中国人はしぶとい印象がある。ただでは諦めない。生まれた時から多くの人口に揉まれ、強くなる。日本人よりも本質的にはずっと資本主義的な民族。そんな印象を私は持っている。