ポピュリズム

平昌オリンピックも終わり、私の関心は今イタリアに向かっている。

唐突にイタリア?  なぜか?

わかりやすく言えば、今年の夏休み、イタリアに行こうと思っているからだが、もう一つ理由がある。

今週末、3月4日にイタリアで総選挙が行われる。この選挙、いま世界を席巻している「ポピュリズム」の極致とも言える様相を呈しているらしいのだ。

「ニューズウィーク日本版」に「お騒がせベルルスコーニが、3月総選挙で返り咲き?」という記事が載っていた。引用させていただく。

 

『実業界と政界で何度も墓穴を掘り、もはや「過去の人」と言われて久しいベルルスコーニの陣営が、3月4日に予定されるイタリア総選挙で第1党になる(そしてご本人が首相に指名される)可能性が浮上している。常識的には信じ難い話だが、今の時代に常識が通用しないことはトランプが証明済みだ。

新聞やテレビの事業で財を成し、メディアを支配し、テレビ映えのするキャラクターで劇場型の政治を仕切り、その時々の国民心理を敏感に察知し、現状に不満な人々の心を反左翼・反エリートの主張でくすぐる。そんなベルルスコーニは現代版ポピュリズムの先駆者だ。

1994年に政界に身を投じ、一気に首相の座をつかみ取って以来、スキャンダルで降板しては選挙で復活するシナリオを繰り返し演じてきた。従来は中道右派を標榜していたが、今は穏健派を気取っている。08年の世界金融危機後はEUと激しく対立したが、今はEUに寄り添う姿勢を見せる。

「変わり身の早さ」は彼の身上だ。年輪を重ねて人間が円くなったとみる向きもあるが、そうではないだろう。ここ数年の難民危機でイタリア社会(と政界)の空気が変わったこと――自分以上のポピュリストが台頭し、社会の分断が一段と進んだこと――に、いち早く気付いただけのことだ。

そして11年に退陣を強いられるきっかけとなった未成年者との淫行・買春疑惑の、みそぎは済んだ(どんなにアメリカでセクハラ男追放の動きが高まろうと、イタリアは違う)と思っている節もある。

ベルルスコーニが自らの政党を立ち上げ、右派の地域政党・北部同盟と組んで政権を奪取した90年代半ばには、彼こそが真正ポピュリストだった。今は違う。既成政党は四分五裂で、国民の政治不信・エリート不信に便乗する勢力が複数ある。なかでも勢いのあるのが「五つ星運動」だ。

コメディアン出身のベッペ・グリッロが率いる五つ星運動はインターネットを活用して支持基盤を広げ、とりわけ従来は政治に無関心だった(あるいは政治に絶望していた)若者たちの動員に成功した。そして「こんな政治家どもにまかせておけない」と思う多くの有権者を奮い立たせ、13年の総選挙では上下両院で驚異の躍進を見せた。ローマやトリノなどの主要都市でも、五つ星の新人候補が既存政党の有力候補に競り勝った。

ベルルスコーニがテレビを活用して権力の座に上り詰めたとすれば、五つ星はインターネットを使って政権奪取を目指す。その主張は過去のベルルスコーニよりも過激で、既存の政治を徹底して拒否する。自分たちは左派でも右派でもないと主張し、既存政党との連携は断固として拒んでいる。

そしてもちろん、五つ星はEU嫌いだ。総選挙を意識して、今はやや穏健な姿勢を見せてもいるが、本質は変わらない。ベルルスコーニはこの点を突き、五つ星運動が政権を取ったら大変だ、それを阻止できるのは自分だけだと触れ回っている。』

 

スキャンダルまみれで退陣したベルルスコーニ氏はイタリアのメディア王。情報操作と派手なキャンペーンで人気を集めた「ポピュリスト」だ。そのベルルスコーニ氏とトップ争いしているのが、欧米メディアがこぞって「ポピュリズム」のレッテルを張る「五つ星運動」だ。

地中海を渡って大量の移民が流れ込むイタリアでは、移民排斥の声が強まっている。その声を受けて急速に勢力を伸ばしているのが「五つ星運動」。選挙前の調査では政党支持率でトップに立った。

この「五つ星運動」については、先月29日付の産経新聞の記事を引用させていただく。

 

『イタリアのマッタレッラ大統領は28日、国会を解散し、来年3月4日の総選挙実施が決まった。世論調査では、欧州連合(EU)に懐疑的なポピュリズム(大衆迎合主義)野党「五つ星運動」が首位を走っており、どこまで票を伸ばすかが焦点。選挙戦から組閣まで大混乱が予想される。

五つ星運動の首相候補、ルイジ・ディマイオ下院議員は31歳。ウェイターやウェブサイトのデザイナーを経て、2013年に下院議員に当選。いきなり副議長になった。「私は若者の失業率が60%の地域出身。私の経歴をばかにする人は、この国の若者をばかにするのと同じ」と訴える。

同党はコメディアンのベッペ・グリッロ氏が2009年に設立した。「ユーロ離脱の是非を問う国民投票の実施」を視野に入れる。

「既成政治の打破」以外に一貫した政策や主張がないものの、インターネットで候補者を公募する目新しさが、政治不信の根強かった有権者から支持されている。22日発表の支持率調査では29%で首位だった。』

 

要するに、「ポピュリズム」VS「ポピュリズム」。

81歳のスキャンダル王か、31歳の元ウェーターか? イタリア人に与えられた選択肢はとてもユニークだ。

どちらが勝ったとしても、イタリアのみならず、EUにも大きな混乱が予想される。それだけではなく、過半数に達する政党がないため、連立協議で大混乱に陥ることも心配されているのだ。

今年の夏休み。私はイタリアとロシア、マルタとサンマリノを回る予定だ。イタリアでは、「ファシズムの生みの親」ムッソリーニの故郷を訪ねたいと思っている。

ムッソリーニは当初、社会主義活動家だった。貧しい農民たちを救うために奔走する中で、若いムッソリーニは社会主義を捨て、「ファシズム」という道を切り開いて行く。ヒトラーは、ムッソリーニの手法を模倣し独自の「ナチズム」を作り上げた。

狂気を孕んだヒトラーに対して、ムッソリーニは理想の実現のために試行錯誤した「普通の人」だった。そんなムッソリーニが編み出した大衆扇動術は、今回の選挙でも活かされるのかもしれない。

トランプ大統領誕生で世界は大きく変わった。

というか、今の世界がトランプ大統領を誕生させたのだろう。

世界中が内向きとなり、ポピュリズムが各地で台頭している。理想主義の結晶ともいえるヨーロッパ共同体は、今回のイタリア総選挙でまたもや痛烈な打撃を被るかもしれない。

第二次大戦終結から70年以上が経ち、人類の叡智に夢を託した「理想主義の時代」は終わろうとしている。

 

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