ますます世界はトランプさん中心に回っている。
そして私たちは、すっかり「トランプ流」に慣れてしまった。
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今週、トランプさんが発した1つのツイッター記事に世界が振り回された。10連休がようやく明けようとするタイミングで、トランプ大統領はこんなツイートをしたのだ。
『米中通商協議の進展ペースに満足していない。中国からの輸入品2000億ドル相当に対する関税率を、10日に現行の10%から25%へと引き上げる』
米中の軟着陸を織り込んでいたマーケットに激震が走り、連休明けの東京市場も5日連続の下げとなった。
ワシントンで行われた閣僚級会談に世界中の関心が集まり、ちょっとした発言に一喜一憂した一週間だったが、結局トランプさんがツイートした通り、関税が25%に引き上げられたものの、株価が底割れすることはなかった。
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どうも、こんなことが常態化している。
例えば・・・イラン
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アメリカはペルシャ湾に空母を派遣すると発表した。トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を唐突に宣言したのは1年前。イランは予想外に冷静に対応してきたが、トランプ政権はイラン原油の輸入禁止を各国に要求しイラン制裁を強化してきた。さらには、イランの精鋭部隊・革命防衛隊を「テロ組織」に指定した。アメリカが他国の軍隊をテロ組織に指定するのは初めてのことだ。
就任以来イスラエルべったりの姿勢を貫くトランプさんは、イランが暴発するのを待っているとしか思えない対応だ。
今週の「ニューズウィーク」には、「イラン戦争に突き進むアメリカ」という記事が掲載された。
このまま緊張を高めていけば、イラン国内でロウハニ大統領らの穏健派が厳しい立場に陥り、イスラム原理主義が前面に出てきてしまうことを危惧する。
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南米ベネズエラでも、アメリカが仕掛けた政変劇が混乱に拍車をかけている。
独裁的なマドゥロ政権に対抗して自ら暫定大統領を宣言したグアイド国会議長が軍に決起を呼びかけ、市民に街頭に出るよう訴えたのは4月30日のことだった。
これを受けて局所的に市民と治安部隊の衝突が起きた。だが、軍は動かず、政権転覆の試みは失敗に終わった。
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ベネズエラはもともと「アメリカの裏庭」である。アメリカの経済圏に組み込まれ、豊富な石油資源に裏打ちされて南米では比較的裕福な国だった。この国にチャベス大統領という反米指導者が登場したのは、1999年のことだった。2013年にチャベス氏が死ぬと、現在のマドゥロ氏が後を継ぎ反米路線を維持している。
アメリカにとってはいつか転覆させたい政権であった。だが、貧困層を基盤とする政権は意外に強固で歴代政権も手を打てないままトランプ大統領に委ねられた。
トランプさんがどれほどベネズエラに関心があるのか正直知らない。ただ、世界一とも言われるベネズエラの原油埋蔵量は、ビジネスマンであるトランプ氏の目には魅力的に映るかもしれない。ブッシュ政権がテロとの戦いを口実にイラクに戦争を仕掛けた時も、その背後ではチェイニー副大統領らイラクの石油利権を巡る思惑が働いたとされる。
そんなトランプ政権の前に現れたのが、テレビ映りのいいグアイド国会議長だった。
私は瞬間的に、1986年のフィリピン革命を思い出した。あの時、グライド氏の役割を担ったのが、コラソン・アキノ女史だった。夫を政権に殺された悲劇の未亡人が、悪のマルコス独裁政権に立ち向かう構図は世界のメディアを熱狂させた。
しかしこのフィリピン革命を背後で演出していたのは、アメリカのCIAだった。ベネズエラでもきっとCIAが動いているのだろうと、勝手に想像している。
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マルコス大統領が貧困層や地方を基盤としていたのに対し、アキノ氏は都市部の富裕層出身だったのもベネズエラの構図と似ている。そして、最終的にアメリカが引導を渡す格好で、マルコス夫妻はアメリカに亡命し、アキノ政権が誕生した。
ただ違う点もある。フィリピン革命の場合、国防相と軍の参謀総長が政権に反旗を翻したのが大きなターニングポイントとなった。しかしベネズエラでは、軍の動きが鈍い。市民の抗議活動だけではなかなか政権は倒れないのだ。
トランプ政権は軍事介入を示唆しながら、これまでのところ口先だけに止まっている。グアイド氏の呼びかけが不発に終わると、トランプ氏はロシアやキューバが妨害していると話をそらし始めた。どうにも本気度が感じられないのだ。
ニューズウィークは、『ベネズエラ危機、独裁打倒の失敗とアメリカの無責任』というタイトルで記事を書いている。
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北朝鮮を巡る情勢も混沌としている。
こちらに関しては、トランプさんが不用意に安易な妥協をしなかったのは評価したいが、2回目の米朝首脳会談が失敗に終わって以降、非核化の動きは止まったままだ。
しびれを切らした北朝鮮は、ここにきてミサイルを使った軍事訓練を再開した。アメリカの反応を探っているように見える。
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ただ全体を通して思うのは、世界中がトランプさんに振り回されていることだ。わずか2-3年前まで一切の政治経験を持たなかった不動産屋が、人類の未来を握っている。
トランプさんはやりたい放題だが、それでもアメリカ国内の支持率は就任以来最高で株価も安定している。「トランプ流」がすっかりアメリカに定着したということなのか?
トランプさんは、いつ何を言い出すかわからない。一度言い出せば、どんな理不尽な要求も押し通す。そんなイメージが定着したことは間違いないだろう。
彼には、世界観や哲学はなく、判断基準は自分を中心とした損得であり、やり方はあくまでディールなのだ。これは交渉相手からすると、厄介である。しかも、彼の発言やパフォーマンスは劇画的でエンターテイメント性が高い。つまりメディア受け、ネット受けするのだ。
このままアメリカ経済が順調で来年の大統領選挙を迎えれば、トランプ再選の可能性が高いとみられている。そうなれば、リーダーの定義を変えた画期的な大統領として、トランプさんが歴史にその名を残すことになるのかもしれない。
恐ろしいことだ。