トランプ大統領の登場以来、「自分ファースト」な風潮が世界に急拡大している。まさに世界中で「トランプ化」が進行中である。
今度は、南米ブラジル。「ブラジルのトランプ」と呼ばれる大統領が誕生した。
元軍人のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)。
当初は泡沫候補と見なされていたが、「ブラジル・ファースト」の主張で大統領の座をつかんだ。この点も、トランプ大統領とそっくりだ。
ボルソナロ氏に関する日経新聞の記事を引用する。
『 選挙戦の終盤、ボルソナロ氏は突如、所得減税を提案した。最低賃金の5倍(月額約15万円)までは所得税を免除し、それを超えても税率は一律20%に抑えるという内容だ。実現すれば、給与所得者の6割が無税となる。
テメル政権で抑えられているバラマキ政策が再燃する気配が出てきた。
横行する犯罪に厳罰で臨む姿勢はトランプ氏に通じる。自衛のため銃保有規制の緩和を主張したこともある。女性が出産で職場を離れるとして「給与を男性より下げるべきだ」とも公言する。
対外で自国第一を振りかざし、中国脅威論を説くのもトランプ流だ。
「中国はブラジルから(何かを)買うのでなく、ブラジルを買収しようとしている」「我々の電力を中国に委ねたいと思うか」。ボルソナロ氏は9日、地元メディアにこう述べ、ブラジルで鉱山や送電網への投資を繰り返す中国を強く批判した。
後に撤回したが、選挙運動では温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」や国連から抜けるとも口走った。』
トランプ政権の誕生以来、各国メディアはトランプ氏の主張や政策を大々的に報じた。その大半は批判的な論調だったにも関わらず、2年近くその状態が続く中で、トランプ氏の主張は世界に急速に拡散した。
「自国さえ良ければ他国はどうでもいい」という「アメリカファースト」の主張は、最初は暴論だと考えられていたが、実は人々が心の中に抱えていた本音を呼び起こした。
「自分は少し我慢して、より良い世界を作るために貢献したい」という理性で押さえつけていた本音に気づき、「別に我慢する必要ないんだ」「本音を大声で主張するのは格好いい」という風潮にお墨付きを与えられてしまった。
ブラジルの場合、治安の悪化、経済の悪化が、政治の変化を求める世論に繋がった。しかし既成の政党では何も変わらない。政治不信が、過激な主張を掲げた候補を押し上げる。これが今、世界中で起きている現象だ。
ドイツでは、メルケル首相が窮地に立たされている。今の国際社会において「理想主義の最後の砦」とも言えるメルケル首相を支える与党が、地方選挙で歴史的な敗北を喫した。シリアなどからの移民受け入れがメルケルさんの立場を急速に悪化させている。
メルケルさんは年末に予定される与党の党首選に出馬しないことを決意したようだ。当面、首相は続けるようだが、メルケル時代の終焉は確実に近づいている。
誰が、平和な世界、寛容な世界、理性的な世界を守っていくのか?
世界はますます、大きな危機に突き進んでいる。
Embed from Getty Imagesそんな中、今夜のNHK「クローズアップ現代+」が目に止まった。国際政治とはまったく無縁なテーマ、今年弁護士に対する懲戒請求が急増している背景を探った調査報道だった。
朝鮮学校に便宜を図った弁護士に懲戒請求を送ろうというある特定のブログの呼びかけに応じて、全国から大量の懲戒請求が弁護士たちに届いた。弁護士たちは懲戒請求した市民を名誉毀損で訴える対抗措置に出た。そんなことが起きているとは、初耳だった。
NHKは、この懲戒請求を送った市民を割り出し、一人一人その理由を聞く取材を試みた。大半は、ネットを見るうちに嫌韓反中的な意見を持つようになった人たちだった。最初は朝鮮学校の問題などには興味のなかった人たちが、何かのきっかけでネトウヨ的サイトを見たことから、同様のサイトや動画がリコメンドされるようになり、いつの間にか同じような情報や意見しか目にしない環境の中で生きるようになっていた。
番組では、こうしたネット特有の仕組み「エコーチェンバー」に警鐘を鳴らしていた。
私は「エコーチェンバー」という言葉を知らなかったので、ウィキペディアで調べてみた。
『自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくるような閉じたコミュニティで、同じ意見の人々とのコミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化される現象』
これが、「エコーチェンバー現象」である。
これことが、現代社会を蝕む「ネット社会の病原」である。
全ての権威を破壊する、言ってみれば「現代の文化大革命」だと私は感じる。これによって、意見の違う他者の意見には耳を貸さない不寛容で無教養な社会が世界中に拡散している。
本当に恐ろしい現象だ。
果てして、これを食い止める方法はあるのだろうか?
「エコーチェンバー現象」。ぜひ覚えておきたいキーワードである。