今週に入り、高齢者に対するワクチン接種がようやく本格化してきた。
しかし、各地で電話予約に高齢者が殺到し混乱が起きているという。

どうして自治体は先着順での予約を行うのか不思議でならない。
高齢者は時間に余裕がある人が多いのだから、地域ごとに接種日を決めて、都合の悪い人だけが電話や窓口で調整する方法で十分ではないかと思うのだが・・・。
おそらく、「どうして自分の地域が遅いのか」と文句を言う年寄りがいるため、行政としては「公平」を重視せざるを得ず、それがかえって混乱を招いているに違いない。
日本の高齢化率は28.7%。
世界一の超高齢化社会はいまだに絶望的なほど非デジタルな「電話社会」であり、「デジタル立国」など夢のまた夢である。
しかし、高齢化が進んでいるのは日本だけではない。
日本ほどではないものの、世界各国でも恐ろしいスピードで高齢化が進んでいるのである。

中国では、10年ぶりとなる国勢調査の結果が発表された。
人口は14億1178万人、今も世界一の巨大国家だ。
この10年間で7206万人も増加したが、これでも増加のペースは鈍化したという。
近い将来、中国の人口が減少に転じる。
長年続けた「一人っ子政策」の効果がついに表れたとも言えるが、中国でも日本同様、ここにきて少子高齢化が顕著になってきた。

年齢構成別にみますと、
▽15歳から59歳までの労働人口は、総人口の63.3%にあたる8億9400万人で、10年前より4500万人減った一方で、
▽60歳以上は、全体の18.7%にあたる2億6400万人で、10年前より8600万人増えていて、高齢化の進展が一層、鮮明になっています。また、
引用:NHK
▽将来の担い手となる、0歳から14歳までの人口は2億5300万人で、10年前より3000万人増えていて、5年前の2016年に、いわゆる「一人っ子政策」を廃止したことなどで、少子化に一定の歯止めがかかったとしています。
1979年から2014年まで続けられた「一人っ子政策」。
その結果が、今日の急速な高齢化をもたらしている。
全人口に占める65歳以上の人口は13.5%と日本に比べればまだ全然高くはないが、年内にも14%に達すると言われ、WHOが定める「高齢社会」の仲間入りをすると見られている。

各国の高齢化の状況を比較してみると、日本の超高齢化がものすごい短期間に進んだことがわかる。
日本人の平均寿命な長いことと少子化の進展、さらには移民を受け入れないことが理由だろう。
欧米諸国は日本よりも早く高齢化に直面しながらその進み具合はゆっくりで、気がつけば日本がぶっちぎりの超高齢化社会に突入していたのだ。
その日本の後を猛烈に追い上げているのが中国。
中国の平均寿命は77.3歳で、1990年当時に比べ10歳以上伸びているのだが、それにも増して「一人っ子政策」の影響が前例のない形で中国社会に影を落としている。

この「一人っ子政策」の裏側を描いたドキュメンタリー映画をAmazonプライムで見た。
映画のタイトルは『一人っ子の国』という。
中国で1979年から2015年まで行われていた「一人っ子政策」についてのドキュメンタリー。中国出身の2人の女性監督ナンフー・ワンとジアリン・チャンが手がけ、一人っ子政策がもたらす深刻な影響を暴き出した。2019年サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門でグランプリを受賞。
出典:映画.com
そこで描かれるのは、「一人っ子政策」の知られざる実態。
単に中国共産党の指導に国民が従ったのではなく、強制的な妊娠中絶が行われ、望まれない女の子たちが捨てられ、組織的に国外に養子に出されていた実態だった。

「一人っ子政策」に貢献したとして表彰されたという助産師は、何万件もの中絶手術を行ったことを明かす。
泣き叫ぶ妊婦を共産党員や親族が引きずって来て、無理やり不妊手術を行うことも珍しくなかったという。
しかし当時貧しかった中国では、餓死を避けるために、あの政策は「仕方がなかった」と今でも信じている。
「一人っ子政策」が始まった当時の中国は文化大革命の大混乱で疲弊し、庶民が生きていくのも容易ではない時代だった。

さらに問題を複雑化させたのは、「家を継ぐ男の子が欲しい」という中国社会に根付いた伝統的な価値観だった。
一人しか子供が持てないならば男の子でなければならないと多くの人が考え、女の子が生まれると密かに捨てられたり売られたりすることが頻発していたという。
望まれない女の子はカゴに入れて道端に捨てられる。
そのうちに、捨てられた女の子を拾って孤児院に売る商売が登場した。
孤児院はもちろん公共の施設だが、1990年代になると、孤児院に集められた捨て子たちが「国際養子縁組」の名の下に組織的に国外に売られるルートが出来上がる。
孤児院にとって国際養子縁組という名の人身売買は大きな収入源となったのだ。
そうして海を渡った中国人の養子たちの多くがアメリカにいるという。
凄まじい映画だった。
中国の田舎で育ちアメリカの大学に留学した一人の女性が自分の生まれた時代の話を親や親族にインタビューして回るというスタイルで次第に明らかになっていく「一人っ子政策」の舞台裏。
世界一の人口を抱える中国という国の歴史には、日本のような島国の人間の理解を超える激しさがある。
こうして35年間続いた「一人っ子政策」の世代では、男性の数が女性よりも3000万人も多く、結婚できない人の増加も出生率の低下の一因になっている。
中国が本当の危機に直面するのは20年後。
「一人っ子政策」世代が60歳を越え、少ない労働人口で多くの高齢者を支えなければならなくなった時、はたして何が起きるのか?

もう一つ、テレビで見た印象深いドキュメンタリーのことも書いておきたい。
こちらの舞台は韓国。
NHKのBSで再放送された『地下鉄に咲く小さな花〜韓国・老人宅配便』というドキュメンタリー番組である。
韓国の高齢化率は15.7%、日本に比べればまだまだ若い社会だが、急速な勢いで少子高齢化が進んでいるという。
しかも、年金など高齢者に対する福祉は日本に比べて未整備のようだ。
年金だけでは生きていけない高齢者たちが生活の糧としている商売が「地下鉄宅配便」。
韓国では60歳以上に地下鉄の無料パスが支給されるらしいのだが、その無料パスを持つ高齢者を集めて地下鉄でちょっとした荷物を運ばせる商売である。
言ってみれば「UberEats」のようなものだが、高齢者の地下鉄無料パスを使うというのがミソだ。

いまソウルの地下鉄を舞台に新商売が飛躍的に広がっている。高齢者向けの地下鉄無料パスを利用した宅配便だ。手に持てる物なら何でも運ぶ。次々に参入する会社が増え、現在2百社以上。配達員として集まるのは65歳以上の年配の男性が多く、1日の手取りは数千円。年金とあわせようやく一人が暮らせる収入だ。どんな人がどんな事情で働きに来るのか。高齢者の貧困率が5割に迫る韓国で、格差社会の断面に迫る。
引用:NHK
地下鉄宅配の仕事をする何人かの高齢者をカメラが追う。
立派な仕事をしてきた60代や70代の人たちが、日々の糧を求めて宅配会社に登録する。
密着した一人は年金がわずかに2〜3万円しかなく、働かざるを得ないという。
1回の配達で代金は1000円ほど、そのうち3割を会社に収める。
1日働いても収入はせいぜい3000円ほどだが、他に高齢者を雇ってくれるところもなく、多くの高齢者がこの商売に登録している。
この商売に興味が湧き少し調べてみると、地下鉄を運営するソウル交通公社が巨額の赤字を出し続け問題となっていることを知った。
その最大の理由が、この無料パスだという。
それにしても、高齢者全員に地下鉄の無料パスが支給されているのはどういう経緯なのだろう?
韓国では、老人福祉政策の一環で、1980年に満70歳以上の高齢者に対して地下鉄料金を半額にする制度が導入になった。これが、65歳に引き下げられ、さらに1984年から「無料」になった。
制度ができた頃、韓国は「若い国」だった。だから地下鉄の経営問題が起きるなど想像もできなかった。ところが、いまや「高齢社会」になった。「無料乗車」の比率が急速に高まっているのだ。
ソウル交通公社が野党議員の求めに応じて提出した資料によると、2017年のソウル地下鉄1号線~8号線の乗客数は18億6000万人。このうち、「無料乗車」数は、なんと2億7000万人。全体の14.6%を占めた。
引用:JB press
1980年代といえば、全斗煥大統領の時代だ。
粛軍クーデターで権力を握り、光州事件を武力で弾圧したのがまさに1980年で、この年の9月に全斗煥氏は大統領に就任した。
地下鉄の半額・無料化は、軍に批判的な国民に対する懐柔策だったのだろうか?
そうだとしても、その制度が今も生き残り、巨額の赤字を生み続けているというのは、いかにも与野党の勢力が拮抗し政争が絶えない韓国らしい話と言えそうだ。
こうして各国の状況を見ていくと、高齢化というのは環境問題以上に深刻な世界的な課題だということを感じる。
今回のコロナ禍で外国に比べて日本の対応が劣っているように見えるのも、一因としては世界一の高齢化社会という問題が関係している気がする。
医療現場は高齢者で常に満杯であり、政治にも医療界全体にも高齢者にシフトした構造ができあがっている。
だから、想定していない緊急事態に対応できるだけのキャパがないのだ。
さらに国家予算も、高齢者の医療費や年金を賄う社会保障費と国債の利払いだけで全体の56%を占めている。
これでは若者や未来への投資など思い切ってできるはずがない。

1日中地下鉄を走り回る韓国の高齢者たちの姿は、私にとっても決して他人事ではない。
「できるだけ長生きをしないように心がけよう」
私は改めてそう心に刻んだ。
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