今日、東京の新規感染者数は今年最少の5人だった。
これだけ人が街に溢れても、海外ではブレークスルー感染が増加しているにも関わらず、なぜ日本ではコロナ患者が減少しているのか不思議でならない。
とはいえ、理由はさておきありがたい状況であり、今のうちにやっておきたいこともある。

そんなわけで、今日は朝から通勤電車に揺られて、湾岸エリアで開催される農業関連の展示会に行ってみることにした。
去年まで通勤に利用していた京王井の頭線は渋谷に到着する頃には満員、すっかりコロナ前の混雑状況に戻っていた。

久しぶりの渋谷駅は、またまた乗り換えの通路が変わっていて、再開発工事も着々と進んでいるようだ。
足早に歩く通勤客の流れに従って、私はりんかい線に乗り換えて「東京テレポート駅」に向かった。

目的地は「東京ビッグサイト青海展示棟」。
今日からこの会場で開かれるのは「アグロ・イノベーション2021」という農業関連の展示会である。
去年までは所属するテレビ局の名刺を持って様々な展示会に顔を出したが、個人事業である「のんびり村 代表」の肩書で展示会を視察するのは今回が初めてとなる。

当初の目的は、雑草対策として何かお手軽なものがないかを探すことだったが、こちらは私の畑に使えそうなものはあまりなく、珍しいといえば高圧洗浄機メーカー「ケルヒャー」が高圧の温水で雑草の根を枯らす装置を展示していたことぐらいだった。
費用は1台200万円以上。
他にも無人草刈機など魅力的な機械はいろいろ展示されているが、どれも値段が高くてちょっと個人では手が出ない。

そんな中で、高価な農業機械をシェアリングするプラットフォームがあることを知ったが、こちらもサイトを確認するとまだ実績は乏しく、岡山で借りられる農機具は一つもなかった。
このように展示会に出展している企業は中小企業が大半で、マーケットが極めて狭いことを印象づける。
全国各地の大学が小規模なブースを出していて、こちらは農業振興予算をもらって研究しているので、その成果の発表のために出展しているだけでここから新たなビジネスが生まれそうな気配は感じられない。
農業関連には国や自治体から毎年多額の予算が支出されていて、そのお金を使って様々な研究開発は行われているが、それはどれも小規模なものばかりで日本中で利用できる汎用性の高いビジネスは全く育っていないのだ。
これは日本の農業が、資金力のない小規模な個人農家によって支えられてきたためであろう。
そんな元気のない展示会で、私が興味を持ったいくつかの事例を記録しておきたい。

AIなどを使った「スマート農業」関連で人が集まっていたブースがあった。
「HAPPY QUALITY JAPAN」という浜松の会社が提唱する「Happy式マーケットイン農業モデル」の展示ブースである。

この会社の主力商品はミニトマトの「ハピトマ」。
ただ普通のミニトマトではなく、GABAとリコピンを多く含む機能性表示食品なのだという。
しかし私が興味を持ったのはミニトマトそのものではなく、この会社のビジネスモデルだ。

この会社では、「誰にでもできて稼げる農業」を掲げて、ミニトマトの生産はフランチャイズの農家に委託して全量を買い取るという。
弊社が提供している【Happy式マーケットイン農業モデル】農業経営支援サービスでは、栽培技術と栽培指導をセットで提供するため、FC農家なら誰にでも高機能・高品質・高単価のブランドトマトの生産が可能になります。一般的に、たとえ高品質な農作物を生産することができても、相場に左右される買取価格といった従来のサプライチェーンでは、生産者の努力が報われないケースが起こり得ますが、弊社のサービスにおいては、弊社独自の買取システムが、生産者の売り上げを保証」しています。
引用:「HAPPY QUALITY JAPAN」のサイトより
こうして集めたミニトマトを光センサーの測定装置で糖度別に分類して高価格で販売していくというのがこの会社のビジネスモデルらしい。
ブースで渡されたパンフレットには「規模別農業経営イメージ」というのが書かれていて、たとえば10アールのハウスで栽培する場合には、年間売上が674万円で経費が300万円、差し引き318万円の粗利が得られるとされている。
ただし、ハウスを新設する場合には10アールで3500万〜5000万円の費用が必要なようで、初期投資の回収には12〜17年かかると記されていた。
デジタル技術やフランチャイズ方式、健康機能といった様々な用語をちりばめてはいるが、どこか信用ならない危うさを感じてしまう。

もう一つ、面白いなと感じたのはこちらも静岡県牧之原市にある「エムスクエア・ラボ」という会社が手がける「やさいバス」という事業。
こちらは生産者が直接販売するECサイトの一種なのだが、地産地消に重点を置き、ネックとなる流通コストを削減するために各地のバス停をいつも同じ時間に通るバスのような仕組みを考えた。
詳しくは、こちらの動画がわかりやすいだろう。
ただこちらも、静岡や広島などまだ一部のエリアでの取り組みに留まり、広く誰でもが利用できるビジネスとはなっていない。
しかしプレゼンしていた女性社長はとても話が上手で、農業という課題山積だが重要な分野で多くの協力者を獲得するためにはこうした女性の活躍が欠かせないのだろうと感じさせた。

毛色の変わったところでは、農業をする人の顔が見える「農カード」を作って格好いい農業を目指す若き農業者たちの集団を知った。
青森で話題となった「漁師カード」にヒントを得て、愛知県でミニトマトを栽培する一人の若者がツイッターで農家でもこんなカードを作りたいと発信したところ、多くの農家が賛同して全国各地に「農カード」の輪が広がっているというのだ。
このカードの利用法はまだ模索中で、今はまだ通信販売している農産物と一緒にこの農カードを消費者に送るだけのようだが、参加する農家のネットワークが広がり、カードゲームに慣れ親しんだ若者たちの間では様々な利用方法が提案されているようである。
自分が口にする食材を作っている人の顔が見えると、農産品により親しみを感じるようになる。
農水省が推奨する「スマート農業」よりも、生産者と消費者をつなぐこんなちょっとした工夫が意外に日本の農業を変えていくかもしれない、そんな予感がした。

他にも様々なブースを回って、いろんな資料をもらってきた。
これからゆっくりと資料に目を通して、岡山での事業に活用できるアイデアを探したいと思う。
場合によっては、福島で活動する姪夫婦に働きかけて、被災地の農業復興に役立つ仕組みが考えられるかもしれない。
久しぶりの展示会でちょっと疲れたが、コロナ後に備えて少しずつ活動を活発化させていきたいと思っている。