<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌻七十二候「螳螂生(かまきりしょうず)」に考える「共食い」という現象 #210605

昨日は一日中雨だった。

近畿・東海が梅雨入りしてから早20日が経とうとしているが、関東はその後晴れの日が多く、来週も天気はいいらしい。

この分では、関東の梅雨入りは平年より遅くなるかもしれない。

一夜が明け雨もすっかり上がったので、久しぶりに井の頭公園を一回りする気になった。

花の季節が終わって、植物たちもすっかり落ち着き、葉っぱからも若々しさが消えてくると、公園を歩いてみても春のようなウキウキ感は感じなくなる。

それでも確実に季節は進み、井の頭池の水面は水草の「ツツイトモ」に覆われ始め、点々と小さな花が顔を出していた。

もう少し経つと池の全面が水草に占領され、ボートが進める範囲が狭くなってしまうだろう。

「スズメバチが飛んでいます。近寄らないで下さい。」

こんな注意書きも置かれていた。

どこにスズメバチの巣があるのかはわからなかったが、医療が逼迫している今の時期に下手に近づいて刺されると迷惑をかけてしまう。

少し正常化した場所もあった。

ずっと休園していた「井の頭自然文化園」が昨日から限定的に再開したのだ。

人数制限があって事前予約制だが、再開後初めての週末となる今日は、正面ゲートの前にたくさんの自転車が止まっている。

再開を待ちわびていた親子連れがどっと詰めかけているのだろう。

植物たちも少し見ぬまに姿を変えていて、たとえば浅瀬に生えた「ガマ」は背丈が伸びてもう茶色の穂ができ始めている。

コロナで右往左往する人間をよそ目に自然は着実に時を進めていく。

今日からはもう、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」だ。

「芒」という見慣れない漢字は「のぎ」と読み、イネ科植物の実の周りを覆うトゲの部分のことだそうだ。

「のぎへん」の「のぎ」はもともと「芒」から来ているということを知った。

「芒種」とは、「芒の種をまく時期」ということのようだが、すでに田植えも始まっているのになあとここで疑問が湧いてくる。

調べてみても正確なところはわからないのだが、もともと「芒」が意味したのはコメではなくアワだという指摘を見つけた。

「濡れ手にアワ」の「粟」であり、日本では縄文時代から栽培されていたという。

大昔には、この時期にアワの種を播いたということかもしれない。

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そして七十二候。

「芒種」の初候は、「螳螂生(かまきりしょうず)」という。

文字通り、カマキリが生まれ出てくる時期という意味なのだそうだが、カマキリというと、私にはちょっと忘れられない映像がある。

長崎に住む昆虫写真家の栗林慧さん。

この人が、特殊なレンズを使って撮影したカマキリの映像をかつて見たことがある。

内視鏡を改造した「虫の眼レンズ」という特殊なレンズをカメラにつけて昆虫を撮影すると、まるでアリの目線から昆虫を見ているような迫力ある映像が撮れる。

草原の王者であるカマキリなどは、アリの目から見るとまさに巨大怪獣のように映るのだ。

草原のカマキリは、昆虫界最強のハンターと言ってもいい。

あの長い鎌を伸ばして獲物を捕らえる様子を超ハイスピードカメラで撮影した映像はまさに迫力満点だ。

しかしそんなカマキリも、春生まれたばかりの時には体長わずか3−5mm、ほとんどは天敵に食べられてしまう。

運良く生き残ったカマキリたちは夏の間せっせと狩りを繰り返して成長し、秋になり交尾を終えるとあっけなく死んでいくのだ。

その短くて厳しい昆虫たちの一生を見ていると、ある種の哀愁さえ感じたことを覚えている。

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中でも、カマキリの交尾のシーンは絶対に忘れることができない。

カマキリのメスはオスに比べてずっと大きい。

その大きなメスは、あろうことか交尾の最中、なんと相手のオスの頭を食べてしまうのだ。

カマキリによく見られるというこの「共食い」というこの現象。

あまりに酷く、衝撃的である。

しかも、頭を喰われたオスの下半身は、それでも必死に子孫を残すために交尾を続けるのだ。

おぞましいというか、虚しいというか、これが「生きる」ことの本質なのかと、妙に哲学的なことを考えたりしてしまう衝撃の映像だった。

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「共食い」という言葉からちょっと飛躍するが、中国と台湾の関係も「共食い」を連想させる。

巨大な中国がメスで小さな台湾がオス。

国共内戦に敗れた国民党政府が台湾に渡ってのが1949年、それ以来70年あまり両者は狭い台湾海峡を挟んで睨み合いを続けてきた。

「一つの中国」を当然のように標榜する中国だが、実は歴史上、台湾が「中華人民共和国」の領土となったことは一度もない。

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早いもので、あの天安門事件から昨日で32年を迎えた。

民主化を求める若者たちを戦車によって武力鎮圧したこの惨劇は、中国という国の本質を示す光景として、世界の人たちの脳裏に焼き付いている。

日本や欧米諸国では毎年6月4日になると、天安門事件のニュースが取り上げられるが、中国国内では一切報道されることはなく、事件後に生まれた中国の若者たちはほとんど何があったかを知らない。

中国政府は、コロナ対策を理由に香港での集会を今年も禁止し、それでも集会を呼びかけたとして女性活動家を逮捕したという。

中国の統制下に置かれてしまった香港では、もはや以前のように天安門事件について発信する場は完全に失われてしまったようだ。

一方、反中国の姿勢を貫いて高い支持を集めてきた台湾の蔡英文総統。

しかし、ここに来てコロナの感染が台湾でも広がり、支持率が急落しているという。

すかさず中国政府は中国製ワクチンの提供を呼びかけたが、台湾側はこれを拒否、代わって日本政府が余ったワクチンを台湾に送った。

ワクチン後進国の日本によるワクチン外交。

おかしな光景ではあるが、絶対に必要な援助だっただろう。

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コロナ禍は、同じ民族間での「共食い」を加速するのか?

自由を押さえつけられた世論は、他者への攻撃をエスカレートさせ、様々な国で「共食い」が起きている。

アメリカでは、黒人だけでなく、アジア系住民に対する暴力事件が後を絶たない。

ミャンマーでは、市民の民主化運動は武力によって押さえ込まれ、少数民族による武装闘争も始まっている。

日本でも、オリンピックをめぐって、立場の違うグループの間で不寛容な罵り合いが続いている。

人間が、カマキリよりも寛容であることを願うしかない。

<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌸七十二候「葭始生(あしはじめてしょうず)」、水草は生き物たちのパラダイス #210420

【トイレの歳時記2021】

  1. 七十二候の「芹乃栄(せりすなわちさかう)」に中国と香港について考える #210106
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  3. 七十二候の「雉始雊(きじはじめてなく)」にキジを見に井の頭自然文化園に行ってみた #210115
  4. 七十二候「款冬華(ふきのはなさく)」に「大寒」の井の頭公園を歩く #210120
  5. 七十二候「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」と初場所・初縁日 #210125
  6. 七十二候「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」に紀ノ国屋で二番目に高い卵を買う #210130
  7. 七十二候「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」に立春をさがす #210203
  8. 七十二候「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」に考える「野生のインコ」と「生物季節観測」のお話 #210208
  9. 七十二候「魚上氷(うおこおりをいずる)」、日本にもワクチンが届いた #210213
  10. 七十二候「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」、ワクチン接種も始まった #210218
  11. 七十二候「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」、霞と霧と靄の違いを調べる #210223
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  31. 七十二候「螳螂生(かまきりしょうず)」に考える「共食い」という現象 #210605