世界中でワクチン接種が加速している。
アメリカのバイデン大統領は、5月1日からすべてのアメリカ国民へのワクチン接種を開始し、7月14日の独立記念日には「コロナから独立できる」可能性があると述べた。
バイデン大統領は就任から100日間で1億人に接種すると約束していたが、すでに9000万人を超えていて、60日以内に1億人を突破することは確実だという。
すでに全国民の28.3%がコロナワクチンの接種を受けていて、このペースで進めば7月の独立記念日までには3億人、国民の80%以上がワクチンを接種し「集団免疫」を獲得するという計算になる。
アメリカでは今、全米各地で大規模施設を使った大規模接種が行われている。
今はまだ高齢者などの優先接種だが、予定していた人が現れなければ、ウェイティングしている対象外の人でも接種を受けられる。
日本のように細かなルールや副反応ばかりを気にしていては、スピードが上がらない。
アメリカの強みは何より、ファイザーやモデルナ、ジョンソン&ジョンソンなどアメリカ製のワクチンだ。
アメリカで生産したワクチンは、アメリカ国内に優先的に回されている。
日本のようにワクチンの供給を他国の裁量に委ねているのとは決定的に違う。
気にするのはあくまでメーカーの生産能力だけなのだ。
日本に届いているファイザーのワクチンはすべてヨーロッパで生産されたもので、アメリカ本国で生産したワクチンはアメリカ人の接種が終わらなければ回ってこない。
トランプさんがバイデンさんに変わっても、こういうところはあくまで「アメリカファースト」なのである。
自信満々のバイデンさんスピーチを聞きながら、果たして世界のワクチン接種の状況はどうなっているのかが気になった。
調べていくと、BBCが面白い記事を公開している。
タイトルは、『新型コロナウイルスのワクチン 世界の接種状況は』。
この記事の中で、国別のワクチン接種の最新状況を一目で比較することができる。
出典はイギリス政府のサイト、この表の数字は3月11日夜の段階でのものだそうだ。
数字は接種回数で、すでに2回接種している人もいるので人数とは必ずしも一致しない。

接種回数が一番多いのは、断トツでアメリカ。
9369万2598回の接種がすでに行われていて、全人口の28.3%に当たる数だ。
2位は中国で5263万回、でも中国は人口が多いのでまだ3.6%である。
3位はインドで2436万回、あまり知られていないが実はインドも自国でワクチンを生産している。
4位は世界で最初に接種を始めたイギリスで、全人口の35.6%がすでに接種を受けたことになる。
5位以下は、ブラジル、トルコ、イスラエル、ドイツ、ロシア、UAEと続き、ここまでがベスト10だ。
果たして、日本は何位なのか?
11位以下も見ていこう。
フランス、イタリア、チリ、スペイン、モロッコ、ポーランド、インドネシア、バングラデシュ、メキシコと続き、カナダが20位。
さらに見ていくと、ルーマニア、セルビア、アルゼンチン、オランダ、サウジアラビア、ハンガリー、ギリシャ、ポルトガル、ベルギーと続いて、スウェーデンが30位だ。
そして、スイス、チェコ、オーストリア、デンマーク、スリランカ、シンガポール、ノルウェー、フィンランド、スロヴァキアと来て、アイルランドが40位。
日本はまだ出てこない。
41位以下はバーレーン、ドミニカ共和国、韓国、アゼルバイジャン、ネパール、ペルー、コロンビア、カタール、リトアニアが続き、50位はブルガリアだった。
日本より遅く接種を始めた韓国だが、すでに44万6941回の接種を行い43位まで順位をあげてきた。
韓国はアストラゼネカのワクチンを国内の工場で生産することになっているので、今後は一気にペースが上がってくることが予想される。
さて、日本は何位なのか?
51位以下を見ていこう。
クロアチア、パナマ、スロヴェニア、コスタリカ、クウェート、マレーシア、モルディヴ、ルワンダ、エストニアが続き、ヨルダンが60位。
61位がウルグアイで、ボリビアが続き、ついに日本が登場する。
全体の順位は63位。
これまでの接種回数は10万7558回で、人口の0.085%。これが日本の現状である。
「遅い」とは思うが、私はさほど順位は気にしていない。
まして、「なぜこんなに遅いんだ」と怒る気などまったくない。
日本人は、海外の人に比べて心配症の人も多いので、他国の事例を参考にしながらゆっくり接種を進めていけばいいと思う。
6月末までには高齢者分のワクチンが届く予定になっているのだから、届いた段階でスムーズに接種が始められるようきめ細かく準備を進め、粛々と打っていけばいいだろう。
医療関係者、高齢者の接種が終わってから、持病を持つ人や介護関係者の優先接種があり、一般の人へのワクチン接種はその後の話だ。

数日前、血圧の薬をもらいにかかりつけのクリニックに行った時の話である。
「武蔵野市のワクチン摂取はどんな感じになりそうですか?」と先生に聞いてみた。
「まだ決まっていないようですけど、診療所ではなく3カ所ほど場所を決めてやるようですよ」との答え。
念のため、「私のような高血圧の人は、持病がある人に入るんですか?」と聞いてみたら、「入りませんね」とあっさりと答えられた。
「一般の人は夏か、たぶん秋でしょうね」と先生は言った。
まあ、そうだよな、と思う。
ワクチンが打てるなら、すぐにも打ちたいと思ってはいるが、ズルをしてまで早くとは思わない。
今年1年はどうせこの調子だと覚悟しているので、年内に接種できればいいやと気楽に待つつもりだ。

でも、ワクチンをめぐっては各国の様々な思惑が交錯する。
IOCのバッハ会長は、中国からオリンピック開催のためにワクチンを提供する用意があるとのオファーを受けたことを明らかにした。
中国製のワクチンについては、日本での承認申請も行われていないはずだが・・・。
中国新華社通信のサイトをのぞくと、誇らしげにこんな記事が出ていた。
バッハ氏は同日、オンラインで開かれたIOC総会で中国オリンピック委員会に感謝の意を表明。「これが真の五輪連帯精神だ」と述べ、費用をIOCが負担する考えを示した。
出典:新華網「中国、東京・北京五輪パラ出場選手にワクチン提供へ」
これも、中国が進める「ワクチン外交」の一貫だ。
出場選手にワクチン提供ができれば、数が少ない割に宣伝効果が大きい。
費用対効果で考えれば、オリンピックの安全な開催を支援する中国というイメージ戦略はとても効果的だと判断したのだろう。
いかにも中国らしいしたたかなオファー、日本政府はただただ「事前に何も聞いていない」と戸惑うばかりだ。
現実には、中国製ワクチンはすでに多くの途上国で接種されている。
接種回数が世界10位ですでに国民の60%以上が接種を受けたアラブ首長国連邦でも、中国製ワクチンが大半を占めるという。
東ヨーロッパのセルビアでは、中国とロシアがワクチン外交を展開し順調に接種が進んでいるが、国民の多くが長年の友好国のロシアではなく、中国製ワクチンを選んで打っているそうだ。
インド洋の島国セーシェルでは、中国とインドがワクチンで主導権争いを繰り広げていて、そのおかげで国民の85%がすでに接種を受けたという。
他人の足下を見透かしたような露骨な中国の「ワクチン外交」だが、他に選択肢のない国々の指導者にとってはありがたいに違いない。
これが果たしてコロナ後の世界秩序にどのような影響を及ぼすのか、実に興味深いところだが、その一方で先ほどのBBCの記事には、もう一つ興味深い世界地図が掲載されていた。

この地図は、今後ワクチンがいつ頃行き届くのかを国別の予想したものだ。
これを見ると、アメリカやヨーロッパ諸国は年内には、国民全体への摂取を終えると見られている。
日本は、韓国や台湾、オーストラリアなどと並んで、来年の半ばごろまでには接種を終えられるグループに入っている。
ところが、「ワクチン外交」に精を出す中国は、下から2番目、来年末までかかるグループに色分けされているではないか・・・。
もちろん13億人という人口のせいでもある。
しかし、中国も国内を優先にしようと思えば、もっと早く接種をおえられるはずだ。
つまり、国内での接種を犠牲にしてでも、ワクチン外交を優先するという指導部の意思が読み取れる。
国民からの突き上げによって、ワクチンの囲い込みをせざるを得ない欧米諸国と比べ、中国はワクチンを外交の手段に利用する余裕があるということでもある。
強権によって徹底的にコロナの発生を抑え込んでいるため、国民の反発もさほどないのかもしれない。
とはいえ、中国からの支援は数量に限りがある。
大半のアフリカ諸国にワクチンが回ってくるのは、2023年以降になるという見込みだ。
お金のないアフリカ諸国には、他国の接種が終わった後でようやく国連の支援が届くという見立てなのだろう。
日本も資金を供出した「COVAX」という国際的な仕組みも、ワクチン争奪戦が一段落するまではあまり効果を発揮しそうにない。
日本国内のニュースを見ているだけでは、見えないものがある。
コロナワクチンの本当の怖さは、副作用などではい。
将来のパワーバランスが変化するかもしれない、そのことにこそ私たちは注意を払わなければならない。
もう世界は、コロナ後に向かって動いているのだ。
アメリカが真に「コロナから独立」を祝う7月頃には、コロナバブルに踊ったマーケットも急速にコロナ後へと様相を一変させるかもしれない。
注意が必要だ。